第9回

『旅で出会う、絵になる人』永沢まこと/絵と文、草思社、2000、\1800+税
 

 読売新聞日曜日の読書欄に、永沢まことさんのスケッチが毎週
出ている。世界のいろんな街の風景を、特に人間を中心に描いている。親しみがもてて、しゃれていて、一年ほど前から気になっていた。その作品集の一つが、これ。
 難しいことをあれこれ考える前に、とにかくパーッと描きたい。そう思っていたときにこの本に巡り会い、ぼくも最近サインペンで描くようになった。そしたら、楽しいんですよ。ぼくもこんな線が描けるんだ、という発見の喜びもある。スケッチの仕方や使用する画材が具体的に紹介されているので、この本を読むと、これから絵を描いてみようかな、という人でも気軽に始められる。みなさん、ぜひやってみてください。
 著者はスケッチにあたって「常に実物を観察して描くこと」をすすめる。ぼくも最近ずっとその必要性を感じていたので、この本で確信を得た。また「ペンを使うこと。消して修正のできる鉛筆でスケッチをしていると、スピーディーに一発描きする度胸が、いつまでたってもつきません」と指摘していて、これはやってみてなるほどと思った。
 でも永沢さんは、描き方の種あかしをしているように見せて、実はあかし切っていないところがある。たとえば、動いている人をどう描いているのか。実物をその場で観察して描くのでは、この本に出ている作品のようには描けないはずだ。そのあたりの実際はきっと企業秘密で、各自が自分の技法を発見していくしかないのだろう。
 絵を描きたい人のための格好の入門書としてもう1冊、『エンピツ画のすすめ』(風間完/著、朝日文庫)もある。でもこれは単なる入門書・技術書ではなく、画家の芸術への深い洞察を伝える名著と言っていい。

                               10/3/2001

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