第8回
『東方見便録―「もの出す人々」から見たアジア考現学』
斉藤政喜/著、内澤旬子/イラスト、文春文庫、2001、\600+税
見聞録ではなく、見便録であるところに注意。アジア8カ国を旅して実体験した、様々なトイレ事情の報告。内容は抱腹絶倒かつ圧倒的迫力の見事なルポである。僕にはこういうものを書く勇気はない。
考えてみれば、あらゆる生物は、生きていく限り排便をし続けるのだから、好き嫌いにかかわらず、排便に関心を持たざるを得ない。まして旅行となると、結構重要問題である。アジアのトイレについてここまで徹底して調べてあると、旅行の際もちろん実用的だろうが、普通
の読み物としても感動的だ。
副題の「アジア考現学」にも示されているとおり、この本は単なるトイレ事情報告ではなく、文化人類学的考察にもなっている。アジア文化圏が、欧米の文化といかに異なるものであるかを、改めて思わされる。ぼくはアジアではフィリピンにしか行ったことがなく(この本にはフィリピンは含まれていないな)、トイレについては宿泊していたホテルのトイレでレバーを壊したことくらいしか覚えていないが、さまざまなものから得た印象は「混沌」という言葉だ。本書を読むと、それはトイレを含めたアジア文化全体に当てはまるようだ。
女性イラストレーターがこの本の制作のため、著者に同行した。詳細に描かれたイラストは、図版としての役割を十分に果 たしつつ、品を落としていない。その力量は並大抵ではない。二人の探求心は徹底していて、文献に頼ってすませるのではなく、すべて体験してから書いている。それが、説得力を生み出す。
世界は広く、深い。南米やアフリカのトイレについても知りたくなってくるけど、著者はこのテーマについて、次は日本に照準をあてるらしい。
7/9/2001
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