第3回

『人間を幸福にしない日本というシステム』 
  カレル・ヴァン・ウォルフレン/著、新潮OH!文庫、2000、\771+税

 こういう邦題は、売るためには仕方がないのかな。カバーには「この国がダメなこれだけの理由!」というキャッチコピーが入っていたりして、まるで日本を否定するただの悪口本のようなイメージ。でも原題はThe False Realities of A Politicized Society(政治化された社会の偽りの現実)で、内容もいたって正統。ここ数年、ニュースで「官僚主導から政治主導へ」とか「アカウンタビリティー」といった言葉を見聞きするようになったが、そういう意識を国民が持つようになったのは、この人の業績に負うところが大きいだろう。よくある日本人論と違って、日本の問題点を、日本人のメンタリティーではなく、政治システムの観点から論理的に説明しているところが、本書を説得力あるものにしている。
 キー・ワードは「政治化された社会(Politicized Society) 」で、これがいかに巧妙にできあがっているかが本書を読むとよくわかる。この概念は、日本のシステムの中にどっぷりと浸かっていると、なかなか気づかない。ほんとうはかなり多くの人が、今の社会はおかしいとうすうす感じているはずなのだ。なのに、どこかでうまく丸め込まれてしまっているんじゃないか。その一番重要で、また一番もやもやしている部分を明快に論じているところが本書の優れた点だ。

 日本社会の深い病根を鋭く指摘されるだけに暗澹たる気持になるが、しかし問題の指摘だけでなく、解決も具体的に提示しているので、わたしたちは勇気も与えられる。

                                                                           4/12/2001

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