川苔山(東京都)

かわのりやま 標高1363m。

 川苔山は川乗山とも表記されるが、最近は川苔山に統一されつつあるようだ。
 筆者が最初にこの山を登ったのは1979年のことで、大学探検部OB会メンバー二人と一緒に歩いた。 その後、長い間この山を歩く機会がなく、2014年になって再訪することになった。 しかも1週間おいて2回も登った。 ここで紹介するのは、その2014年4月と5月に歩いた時の記録である。
 2014年になって川苔山に登ろうと思ったきっかけは、高水三山や川苔山など青梅線沿線北側の山にしばらく登っていないことと、 川苔山から見た大岳山の写真を撮ることの2点である。
 2番目の目的には、多少の説明がいる。 大岳山の見え方について、2013年に駄文をまとめた際、 大岳山を北側から眺めた写真が手元になかったからである。 大岳山の北方に位置する川苔山からの写真があれば、考察の完成度を多少は上げられることになる。
 そういう目論見があるので、登るのは晴れて視界のよい日でなければ意味がない。
 2014年の1回目は、天気予報で晴天を確認し、4月26日に実行した。 ルートは、いくつもあるコースの中で最も人気のある、川乗橋から登って頂上に達し、 鳩ノ巣駅に下りるというルートを取った。 地図上に赤線で示したのがそのルート。 期待した川苔山頂上からの大岳山は、木々の枝が邪魔してよく見えない。 でも鳩ノ巣駅に向う下山j路は、ほぼ大岳山の方角に向かっているわけだから、 途中で視界の開けた場所が一か所くらいはあるだろうと勝手に思い込み、鳩ノ巣駅への沢沿いの最短コースを歩いた。 これがとんでもない誤算で、大岳山方面が見渡せる場所が一つもないまま、鳩ノ巣駅に着いてしまった。
 さてどうしたものか?
 再挑戦するにしても、このまま季節が進んで暖かくなると、木の葉は茂るし、大気の透明度は落ちるしで、条件が悪くなる。 早いうちのほうがいいので、一週間後の5月4日に再度、川苔山に赴くことにした。 もちろん天気は、最新の予報で確認済みである。 今度は、展望写真が撮れる確率の高い尾根コースを取ることにし、古里駅から赤杭山(あかぐなやま)経由で尾根伝いに登り、 下りは本仁田山経由のこれまた尾根伝いに下りるというもの。 地図上の青い線がそれである。
 結果は、登りと下りの合計数か所で大岳山の写真を撮り、やっと所期の目的を達することができた。 とりあえずほっとしたというのが実感である。
 では順番に、2014年の山行を紹介しよう。

(1) 2014年4月26日
 6時40分、川乗橋で奥多摩駅からのバスを降りたのは十数人。 ここから約40分ほどの林道歩きが待っている。 渓谷沿いの林道は、新緑が鮮やかで、舗装道路歩きもさほど苦にならない。 細倉橋で林道から登山道に入る。 バス停から歩いてくると、時間的に休憩したくなる頃合いなので、数人が腰を下ろしていた。 これから歩く登山道は残雪が多いようで、歩行困難という表示が出ている。 この冬の記録的な大雪の影響だろう。
 もし歩けないようなら引き返すとして、とりあえず進むことにする。 しばらく歩きやすい登山道を進む。 周りは広葉樹主体なので、芽吹き始めた木々にさわやかな空気が流れている。 単調な針葉樹林より、変化に富む広葉樹林のほうが私の好みだ。 そうこうするうちに、沢に残雪が詰まった大きな雪渓が現れる。 この雪渓を渡らないと先に進めない。 もし崩落したら、数mは落ちるだろう。 でもまだ雪渓は厚そうだし、朝で気温もまだ低いので、その可能性は低そうだ。 慎重にかつ素早く雪渓を渡ったあと、高度を上げていくと、百尋ノ滝が現れる。 落差40m近いといわれるだけあって、迫力がある。 これだけの滝を間近に見ないのはもったいないので、寄り道になるが滝壺に通じる道を下りて小休止だ。
 しばらく休憩後、急斜面につけられた登山道を登る。 何か所か雪の上を歩くことになるが、特に危険な場所はない。 川苔山の頂上に10時35分着。 先客が3人休んでいた。 明るく開けた小広場になっていて、ベンチが置かれている。 週末なのに人が少ないのは、まだ時間が早いせいのようだ。 展望は西側つまり雲取山方面はよく見渡せるが、大岳山などのある南側は木の枝が邪魔でよく見えない。
 下山にどのルートを取るか迷ったが、一番容易そうな沢沿いの道を鳩ノ巣駅に向かうことにした。 途中で少しは開けた場所があって大岳山が見えるだろうと、勝手に想像して歩き始めたのだが、 いくら歩いていも視界が開ける場所がないまま、面白味のない道を歩き続けて、 13時には鳩ノ巣駅に着いてしまった。 これは大誤算である。

(2) 2014年5月4日
 古里駅に降り立ったのが6時15分。 展望写真を撮るなら、空気の澄んでいる朝のうちのほうが条件がいいし、5月連休中の人出を避ける意味で、 中央線下り始発電車を利用したため、この時間になったのだ。 古里駅は川苔山だけでなく、御岳山の登山口でもあるから、だれかしら登山者がいるだろうという予想に反して、 古里駅で降りたのは筆者一人だけ。 登山者が多すぎて混雑するのもいやだが、誰もいないというのも寂しい。
 線路を渡り、住宅と畑の混在する斜面を少し歩くと、登山口である。 薄暗い針葉樹林の中につけられた登山道は、整備されていて歩きやすい。 高度を上げると小鳥のさえずりと、近くにある採石場を走るトラックのエンジン音が聞こえてくる。 赤杭尾根まで上がれば、ほぼ尾根通しの明るい感じの道が続く。 赤杭山を越えてすぐ、大岳山が展望できる開けた場所があった。 写真を数枚撮る。 最低限の目的を達したので一安心だ。 ここから先もけっこう長いが、途中で林道に出会ったり、防火帯があったりで、変化に富んだ登山道である。
 9:50、川苔山の頂上着。 すでに3人ほどが休んでいた。 山頂が賑やかになるのは、もう少し時間がたってからのようだ。
 快晴で、空気が澄んでいるため、今回は富士山も見える。
 下山は、本仁田山経由なので、いったん1週間前に歩いた道を下り、舟井戸から別れて大ダワへの道に入る。 岩場まじりの急坂が続くので、慎重に下る。 ところどころで、正面の南側の眺望が開け、大岳山や御岳山が見える。 大ダワの分岐点までくると、多くの登りの登山者が休んでいた。 ここから本仁田山まで大して時間がかからないのだが、登り下りを繰り返して本仁田山の頂上だ。 狭い頂上に登山者がいっぱい休んでいたのでびっくり。 展望が優れているとも思えないし、登山道が特別変化に富んでいるようでもないこの山がどうして人気があるのだろう。
 本仁田山からは、また急斜面の下降が続くので、気が抜けない。 最後は舗装された道を35分ほど歩いて、13時40分に奥多摩駅に着いた。
 この日のルートは、なかなかに歩き甲斐のあるものだった。

 細倉橋から10分ほど歩くと木橋があり、行く手に大きなスノーブリッジが現れる。 2014年2月の大雪の名残りのようだ。 5月連休のころまで雪が残っているのは、稀なのではないかと思う。
 歩いているのは、川乗橋まで筆者と同じバスに乗っていた男性3人のパーティ。

 以下、ここに載せた写真は、すべてCANON 5D Mark2・EF-24-105mm F4L IS USMで撮影。

 ヒトリシズカの花
 ヒトリシズカはほぼ日本全国に分布し、特に珍しい植物ではないが、花の形が変わっている。 群生することが多い。
 この風流な名前の由来は、静御前から来ているそうだ。
 右の写真は、細倉橋と百尋ノ滝の間で撮ったものだが、ほかに川苔山頂上から鳩ノ巣駅に向かう下山中にも見かけている。

 百尋ノ滝
 落差が40m近くあるというから、滝壺から見上げるとなかなかに迫力がある。 もう少し周囲の若葉が伸びたころか、紅葉の時期には、さぞかし見栄えがするだろう。
以上3枚の写真は2014年4月26日撮影で、次からは5月4日の撮影。

 赤杭山(あかぐなやま)の頂上を少し過ぎたあたりで、展望の開ける場所がある。
 中央右寄りの目立つ山が大岳山、左端が日の出山。 その中間に御岳山。

 上の写真と同じ場所からで、大岳山より右側の景色。
 中央右寄りに本仁田山が大きく見え、左側に御前山、その右奥が三頭山である。

 川苔山の頂上はちょっとした広場になっていて、明るく開けている。 西側の展望がいい。

 川苔山頂上から西側の展望。
 中央右寄りのピークが雲取山、左寄りに鷹ノ巣山、中央奥に頭をのぞかせている飛龍山がある。 雲取山の上に、飛行機雲が見えている。

 大ダワとコブタカ山の間で、西側が開けた場所がある。
 中央左寄りに鷹ノ巣山、中央右寄りに雲取山、その右が天祖山。
 上の川苔山頂上からの写真と比べると、高度が下がった分、同じ山でも見え方が異なっている。

 日原川に架かる女夫橋(めおとばし)からの光景。
 本仁田山から下山後、しばらく道路を歩くと、奥多摩駅近くでこの女夫橋を渡るのだが、 突然、奥多摩工業氷川工場の要塞のような巨大な工場施設が現れる。 氷川国際ます釣場で釣りを楽しむ行楽客との対比が面白い。

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