大岳山(東京都)

おおたけさん 標高1267m。

 [大岳山の山容 その1]、[大岳山の山容 その2]と題した文章をまとめたのが2013年7月のことである。
 大岳山の特徴的な山の形が、見る方角によってどのように変わるのかに興味を持ち、手持ちの写真5枚を使って考察したのだが、 そのときは大岳山を北側から撮った写真がなかった。
 2014年5月に川苔山に登った際、途中の赤杭山(あかぐなやま)の頂上近くから大岳山の写真を撮ることができた。 赤杭山は大岳山のほぼ北の方角に位置しているので、その写真を基にして、[大岳山の山容 その3]を書き足した。 (2014/5/15記)

 [大岳山の山容 その1]
 大岳山は二百名山に選ばれているので、東京の山としては全国的な知名度が高いほうだろう。
 そういう一般論とは別に、大岳山は筆者にとっていつも身近な存在だった。 というのも、社会人になり働くことになった会社が東京西部の昭島市にあり、 会社の周辺から大岳山がよく見えていたからだ。 あまり特徴のない奥多摩の低山の連なりの中にあって、大岳山はその少し変わった山容から最初に憶えた 山の一つなのである。 そして、この大岳山の南から南東方向にかけて延びる馬頭刈尾根の途中には「つづら岩」という岩場があり、 仲間とロッククライミングの練習に通った場所でもある。
 憶えやすい山の形というのは万人共通のようで、昔から東京湾を航行する船の 指標になっていたことが、「武蔵通誌」という古書に書かれているそうだ。
 そこで、久しぶりに大岳山の頂上を踏んだ(2013年6月)のを機会に、筆者が過去に他の山から撮った大岳山の写真を 探して出して、どのような恰好に見えるのかを調べてみる気になった。 その結果、雲取山、三頭山、滝子山、陣馬山から撮った写真に大岳山が写っていた。 これだけでは、ちょっとデータ不足気味なので、中神駅からの写真を加えて、 それぞれの写真に写っている大岳山を紹介する。

(1) 雲取山からの大岳山  2011年11月2日撮影
 日の出直後に山頂から撮った写真。 大岳山(矢印の山)の左のピークが鷹ノ巣山、右が御前山。

(2) 三頭山から見た大岳山(中央)  2010年4月24日撮影
 左端に見えるピークは御前山である。

(3) 滝子山からの大岳山  2012年11月4日撮影
 左端のピークは三頭山。
 滝子山から望む大岳山の方角は、上の三頭山からの角度に近い。

(4) 陣馬山からの大岳山  2012年11月18日撮影
 中央奥に見える山が大岳山。

(5) 青梅線中神駅の橋上駅舎から見える大岳山(黒矢印)。
 通勤にこの駅を利用していた時は、朝な夕なにこの景色を見たものだ。 手元に中神駅からの写真がなかったので、五日市方面に用事があった日(2013/7/6)に途中下車して撮影したのがこの写真。
 近年、周囲に高層建築物が増えたとはいえ、大岳山の見える景色は健在だった。
 大岳山の右手、線路の延長線上に三角のとがったピーク(緑矢印)は、御岳山奥の院である。
 なお、東京湾から見えるはずの大岳山も、方角としてはこの中神駅からの眺めに近い。

 ほかにも筑波山から撮った写真に大岳山らしき山があるが、不鮮明なので載せていない。
 また、東海道新幹線の車窓からも大岳山が見え、写真に撮った憶えがあるのだが、見つからなかった。 写真に撮ったつもりが記憶違いだったのかもしれない。 いつか機会を見て写真を撮ることにしたい。
 上で紹介した5枚の写真を撮った場所と大岳山の位置関係を図にすると、右のようになる。
 西寄りの方角から見た大岳山は、頂上ピークの左側の肩にコブが見え、 南から東寄りの方角から見た大岳山は、頂上ピークの右側の肩にコブが見えている。
 ようするに、肩にあるでっぱりのようなコブを持ったピークが大岳山の特徴といえる。 周りの山と比べて抜きん出て高いわけではなく、形も非常に特異というほど変わってはいないのに、 似た形の山がこのあたりにないので、大岳山と容易に認識できるのだ。
(2013/7/10記)

 [大岳山の山容 その2]
 [大岳山の山容 その1]を書いていて気になっていた問題は、大岳山を眺める方角を違えても見える肩のコブは、 はたして同一のものなのかどうかという疑問である。
 その検討結果を、以下に順を追って説明する。
 大岳山の山頂付近の地形図を拡大して見ると、右図のように頂上から3方向に目立って大きな尾根が延びている。
 一つは、山頂から北東方向に鍋割山と御岳山へ続く尾根である。 この尾根には、地図(大岳山 山頂付近拡大図)上にAの丸で示した付近に顕著なコブがある。(注1)  これが、中神駅や東京の市街地など東から南の方角から眺めたときに見える、右肩のコブに相当すると考えられる。
 では、大岳山の北西方向にある雲取山から見える、大岳山左肩のコブはどうか?
 雲取山の位置は、大岳山を挟んで中神駅のほぼ正反対の方角にあるので、大岳山の見え方も中神駅からの姿の裏返しに なるはずである。 よって、雲取山からはAのコブが見えていると考えていい。
 次に、三頭山と滝子山から見える、大岳山左肩のコブである。
 三頭山と滝子山は、大岳山の西南西から南西にかけての方角に位置している。 ということは、Aのコブが大岳山の山頂ピークに隠れる位置関係になり、左肩に大きく張り出したコブになって見えるとは 考えにくい。
 そこで、大岳山の地形図をもう一度見ると、北西方向に延びる鋸尾根があり、頂上近くにAのコブほど顕著ではないが、 膨らみ(等高線の間隔が開いている部分、地図(大岳山 山頂付近拡大図)上にBの丸で表示)が読み取れる。 どうも、これが三頭山や滝子山の方角から見えている左肩のコブの正体である。
 陣馬山の場合はどうだろうか?
 陣馬山は大岳山の南南東に位置しているから、主ピークの右側に見えるコブはAに間違いないだろう。 だが、陣馬山で撮った写真をよく見ると、左肩にも小さな膨らみが認められる。 どうやら、この膨らみはBに相当するようだ。
 以上をまとめると、大岳山を見る方角によって、Aがコブとして見えたり、Bがコブとして見えたりするわけである。
 注1 : さらに詳しく地形を知りたい方は、2万5千分の1地形図を参照ください。
 (2013/7/22記)

 [大岳山の山容 その3]
 上記の[大岳山の山容 その1]と[大岳山の山容 その2]をまとめたときに抜けていたのは、 大岳山を北側から眺めた形である。
 2014年5月4日に川苔山を登った際、大岳山の北にある赤杭山頂上付近から大岳山を眺めることができた。 そのときに撮った写真を紹介する。
 大岳山の北方に位置している赤杭山から見える大岳山は、他の方角から見える形と異なり、 両肩を張ったいかつい格好だ。 頂上部分は尖っていないで、つぶれたような感じになっている。
 参考までに付け加えると、写真の左端近くの三角形の山は奥の院。 奥の院と大岳山の中間に見えるピークは鍋割山。
 [大岳山の山容 その1]で紹介した5ヶ所の撮影地点に赤杭山を追加した6地点と、大岳山の位置関係は、 右図のようになる。
 つまり、赤杭山から撮った写真でわかるように、大岳山を北から眺めると、 「大岳山山頂付近拡大図」に示したAとBのコブの両方が見えていて、 Aが頂上の左側に、Bが右側にでっぱりとして見えているのである。
 総合的な結論としては、大岳山は見る方角によってAやBがコブとして見えることが多く、 場所によってA、B両方がコブになって見えるということになる。

 なお、2014年からは国土地理院のホームページで地形図の3D画像の閲覧が可能になったので、 大岳山の山頂付近の立体的な形も簡単に確認できる。 興味のある方はどうぞ。
 (2014/5/15記)

 次に、大岳山の山行記録の紹介に移る。
 筆者は、2000年以降に2度(2006年と2013年)、頂上を踏んでいるので、順に記述する。

 (1) 2006年3月

 2006年の3月下旬の週末に、 足慣らしを兼ねて手ごろな山に登ろうと思い、 東京からの日帰り圏内で適当な山を物色していたら、 ガイドブックで大岳山の名前が目に入った。 もちろん過去に何回か登ったことがある山だが、 しばらく遠ざかっていたので登ってみる気になった。 記録を調べてみると、最後に登ったのが1983年だからもう20年以上前のことで、 すっかり記憶が薄れている。 前回は馬頭刈尾根から登ったことは確かなので、 今回はまだ歩いたことのない奥多摩駅から鋸山を経由するルートを選んでみた。
 早朝、奥多摩駅に降り立つと、 ひんやりとした空気に包まれる。 電車に乗っていたほとんどの登山客は、 あわただしく奥多摩湖や日原方面へと向かうバスに乗り込んでいった。 これらのバスが出て行ったあとの駅前には、 数人の登山者が残っているだけだった。 観光目的の人たちがやってきてにぎやかになるのは、 もう1、2時間してからなのだろう。
 地図で登るルートを確かめた後、 車道を歩いて鋸尾根の登山口に向かう。 鋸尾根の取り付きはいきなりの急登で、途中に長い階段まである。 駅から30分弱で愛宕神社のある愛宕山に着く。 ここからはいったん下って林道に出た後、 また登山道に入る。 植林帯の中の道を高度を上げていくと岩場混じりとなり、 梯子がかけられていたりするが、 難しい場所はない。 途中の岩の露出したピークには、2体の天狗の石像が置かれていた。 さらに1時間ほど登ると、鋸山の頂上である。 植林された木々に囲まれて、景色は見えないが腰を下ろして小休止する。 この日は気温が低い上に、頂上は日が当たらないので、 少し休むと体が冷えてくる。
 鋸山から先、 大岳山までのルートは標高差も大したことはなく、 概ねなだらかなのだが、 最後の登りはかなりの急傾斜で歩くペースが落ちる。 日陰には前の日に降ったと思われる雪がところどころにうっすらと残っていた。 大岳山の頂上に飛び出すと、 すでに大勢の人が休んでいた。 子供づれも含めて20人以上はいるだろう。 鋸尾根では出会った人が10人に満たなかったから、 とたんににぎやかな世界に変わってしまった。 ほとんどの人たちは御岳山方面から登ってきているようだ。 周囲の山々を見回すと、 少し雲があり、空気の透明度が今ひとつで富士山も見えない。 春の山は晴れていてもこんなものかもしれない。 次々とやってくる登山者で騒々しくなったので、 おにぎりで簡単な昼食を済ませた後、 御岳山へと向かうことにした。
 大岳小屋まで下ると、 ここの展望台にも大勢の人が休憩していた。 御岳山に向かう道は、途中で二手に分かれる。 一つは鍋割山と奥の院のピークを踏む道で、 もう一つは巻き道である。 時間があるのでピークを通っていくことにしたが、 こちらは人影がまばらだった。 ほとんどの人は巻き道を通るらしい。 奥の院に通じるルートはなかなかに変化があり、 味わいがあっていいと思うのだが。 奥の院のピークは、日ノ出山の方角だけ木が刈られていて展望がある。 ここから下りになり、 やがて御岳山の参道に出ると、 参詣の人たちが行き交うにぎやかな世界である。 ケーブルカーを使うかどうか一瞬迷ったが、 結局楽な方を選んで山を下り、 バスで御嶽駅へ出た。
 15時前の青梅線電車に乗ることが出来たので、 車内はがらがらだった。 のんびりと車窓から多摩川越しに満開の梅の花を眺めていると、 日向和田の駅で突然大勢の人がどやどやと乗り込んできたのには驚いた。 満員電車並みの混雑になった。 吉野梅郷を訪れたお花見客の帰り時間にぶつかったらしい。

歩行記録 2006/3/25 登り3h10m(奥多摩駅-鋸山-大岳山) 下り1h50m(大岳山-奥の院-御岳山ケーブルカー駅)

鋸尾根上の岩の露出しているピークにある天狗の石碑。 天使のように羽がついている。 昭和46年とあるので、そう古いものではないようだ。

鋸山山頂。 植林された林の中にあり展望はきかない。 頂上に散らばっている石は、 どれも角が取れて丸い。 下から運び上げられたものとしたら、 どういう理由があってのことなのだろう。

にぎやかな大岳山の頂上。 家族連れと思われる人たちも多かった。

奥の院のピーク
回り道になるので、ここに立ち寄る人は少ない様子。 静寂な世界だ。


 (2) 2013年6月
 2013年は、ウォーキング仲間3人と一緒に登った。 2006年の時と逆向きで、御岳山から大岳山を経て奥多摩駅へのコースである。
 御嶽駅からバスとケーブルカーを利用して、御岳山駅を歩き始めたのが8時半。 まずは武蔵御嶽山神社にお参りする。 晴れていれば、東京都心部方向が見えるはずだが、曇っていてスカイツリーも見えない。 梅雨時に好展望を期待するのが無理なのだろう。
 神社をあとにして、次の目的地は大岳山だ。 今回は、奥の院や鍋割山には寄らないので、幅の広い遊歩道が続く。 登山者も少なく、時折出会う程度。 緑に覆われた登山道の雰囲気は、前回の3月とはずいぶん違う。
 大岳山荘まできて広場で休憩。 大岳山荘は廃屋になっていた。 あとで調べたら、2008年に営業をやめたようだ。 ここから頂上まで大した距離ではないが、急登が待っていた。 ちょっとした岩場を越えて頂上に出たのが10時半。 晴れていれば見えるはずの富士山は雲の中。 大休止にし、昼食を取る。
 11時、奥多摩駅に向かって下山。 アップダウンの繰り返しで、ところどころ岩場もある。 途中の鋸山頂上ではOさんの作ってくれたコーヒーを飲む。 私はふだんあまりコーヒーを飲まないのだが、汗をかいて冷たいものを飲みたいときに 熱いコーヒーというのも、身体がほぐれるようで気分が良くなる。
 鋸山から先も鎖場があったりで、気が抜けない。 下の方に集落が見えてからも、登山口に着くまでけっこう時間を要した。
 奥多摩駅の駅前のお店でビールを飲んで蕎麦を食べて無事終了。
 梅雨時の山行は蒸し暑くて、好展望が得られる確率が低いのが難点だ。

 愛宕神社の社殿を通って奥多摩駅近くまで下ると、この直線状の石段が待ち受けている。
 石段上部に人が小さく見える。
 冬、雪が付いていたり凍っていたら、怖そうな急な階段である。
 2013/06/29撮影

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