円成寺(奈良県奈良市) 2016年 12月
 円成寺(えんじょうじ)は、真言宗御室派の寺院で、山号は忍辱山(にんにくせん)である。
 円成寺(えんじょうじ)の場所は、奈良市ではあるが、奈良市中心部からみて東方の柳生街道沿いにあり、直線距離にして8kmほども離れている。
 寺の歴史は、奈良時代に遡ると伝えられるが、確認できるのは平安時代以降らしい。 いずれにしても長い歴史を持っていることになるが、円成寺を有名にしているのは、仏師・運慶の造った大日如来坐像によってであろう。
 筆者が訪れたのは、12月初めの土曜日。 近鉄奈良駅からバスを利用したが、快晴の土曜日の朝とあって、ハイキング客で満員。 どうやら柳生街道を歩くルートは、地元では人気のハイキングコースのようだ。
 山間の道を揺られること30分ほどで忍辱山着。 大半の乗客はここで下りた。 付近は民家がまばらに点在する静かな山里だ。
 円成寺はバス停から少し戻った所にある。 まずは主目的の運慶作の大日如来坐像の拝観。 平成になって建てられた多宝塔に安置されている。 だが、ガラス越しの大日如来坐像は、あまりよく見えないのが残念だ。 ガラスに外光が反射するためで、これの軽減策として、紙でできた手作りと思われるメガネが置いてある。 これを目にあててガラス板に押し当てれば外光が防げるというわけ。 だが、今度は視野が狭くなり、あまり快適ではない。 見えた範囲での印象は、運慶20歳台の作とされるだけあって、若さが漲っているようだ。 2017年の秋には運慶展が東京で開催されるので、そのときにじっくり見るとしよう。
 多宝塔の次は本堂。 こちらはちょっと変わった形の建物。 入母屋造りなのに妻入りなのだ。 寺院の本堂が妻入りというのは、あまり多くないだろう。 そして、正面の向拝の下には、階段を挟んで2つの舞台がしつらえられている。 こういう形式も珍しい。 中に入ってみると、中央に本尊の阿弥陀如来坐像(重文)が目に入る。 こちらの像は、定朝様の穏やかな表情である。 周りを囲む4本の柱には、聖衆来迎二十五菩薩が描かれているので、極楽浄土を再現しているのだろう。
 一通り仏像の拝観を済ませ、境内を見回すと、本堂の隣に春日堂・白山堂(13世紀の再建)の小ぶりな社殿がある。 現存する最古の春日造りの社殿として国宝に指定されている。
 浄土庭園の池の周りの遊歩道を歩いてみると、池を挟んで対岸から見る楼門が素晴らしい眺めである。 背後の緑の山の斜面に檜皮葺屋根の楼門が溶け込み、池にはその楼門が写り込んでいるのだ。
 円成寺は運慶の大日如来坐像で知られ、筆者の拝観目的も仏像であったが、実際に境内を歩いて見ると、予想していた以上に見どころが多い寺院であった。

2017年の秋、東京国立博物館で「運慶展」が開かれたので、見に出かけた。
運慶作で現存する仏像は31体と言われる。 そのうちの22体が一堂に集められていたので、仏像ファンには圧巻の世界が広がっていた。
 円成寺の大日如来坐像は会場入り口の正面、もっとも目立つ場所に置かれていた。 円成寺の多宝塔とは違い、周りに遮るガラスなどはなく、360度どの方向からも間近に見ることができるので、じっくりと鑑賞することができた。
 この像は20歳代だったとされる運慶が、通常よりかなり長い11ケ月もの月日をかけて、試行錯誤しながら制作したものらしい。 運慶自身による墨書が台座にあり、これは日本における仏像制作者による最初の署名として知られる。 若き運慶の仏師としての自信の現れといえる。
 体全体に張りがあり若々しさに溢れているというのは、円成寺で拝観した時の印象と変わらない。 今回、像の横に回って見たときに、上体が反り気味でその度合いが大きいようなのが気になった。 調べてみると、制作途中に4度ほど傾きを修正した結果らしい。 角度の修正だけでなく、いろんな面から納得のいくまで手を入れたために11ケ月の月日を要したということのようだ。
 今回の特別展は、全国各地の運慶の諸仏像が一度に見られるというまたとない機会で、大変興味深いものだった。
(この項、2017/11追記)

 写真は、PENTAX K-5・DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDMで撮影。


 浄土式庭園の池を前にして建つ室町時代に建立された楼門(重文、写真左)
 檜皮葺で入母屋造りの屋根を持った楼門は、背後の山並みにとけこんで静謐な景観を作っている。、
2016/12/3撮影
 多宝塔(写真上)は、平成になってから再建された新しい建物。
 ここに、運慶作の大日如来坐像が2017年まで安置されていたが、現在は新しくできた相應殿に移されている。
 旧多宝塔の初層部は、大正時代に鎌倉の長寿寺に移築され観音堂となっている。

 室町時代に建てられた本堂(重文)は、入母屋造りで妻入。
 妻入は、お寺の本堂ではあまり見かけない形式だ。
 向拝の下にある階段の両脇には舞台が設けられているのも珍しい。
2016/12/3撮影

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