諸事雑感 山・蝶・・・(2016年)


・バスタ新宿(2016/12/25)
 2016年4月、新宿に日本最大というバスターミナルが開業した。
 先日、そのバスタ新宿を利用する機会があったので、ときどき高速バスを利用する者として若干の感想を記したい。
 新宿駅周辺に広く分散していた長距離バスの発着場所が一か所に集約されたので、便利になったことは間違いない。
 以前は、集合場所を間違わないように気を付けなければならなかったし、 そのうえ、場所によっては待合室がなく、雨の日や夜行便などでは時間のつぶし方に困ったものだ。 それが解消されたので、まずはよかった。
 当初なかったコンビニも小規模な仮店舗が開設され、いずれもっとスペースを広げるようだし、 トイレも増設されるようだから、不便な点は徐々に解消に向かうだろう。
 それより、国内最大のバスターミナルなのだから、外観、内装とももっと個性的で印象に残るデザインにしてもよかったのではないか、と個人的には思う。
 もう一つの注目点は、人の流れだ。 昔の新宿駅南口周辺は、北寄りに位置する東口や西口比べて、大きな商業施設がなかったので、比較的閑散としていて、 裏口的な存在だったように記憶している。 私は1960年代に新宿駅を通学時の乗換駅として使い始めて以来、継続的に利用しているが、 高島屋と東急ハンズが開店するまでは、南口方面、特に甲州街道の南側に足を運んだ記憶がほとんどない。 それが、近年JRのホームが代々木駅方向に延びるとともに、南口界隈に大型商業施設も充実してきて、 南口は今やすっかり新宿駅の表玄関になったようだ。
 バスタ新宿の開業でさらに南口界隈の人の流れが増えるだろう。 高速バスの利用者を対象にした商業施設も増えるに違いない。 今後どのように南口が変わるのか興味深い。

・バリアフリー(2016/09/22)
 普段、外出するときに、街中のバリアフリー化を意識することはほとんどない。
 ところが、先日、左膝を痛め(正確には、膝近くの腱の炎症)、歩行が困難になり、 バリアフリーを真剣に考える機会があったので、取り上げてみたい。
 膝痛は半月ほどでほぼ回復したのだが、症状がひどかった約1週間は、平らな場所でも、膝をかばいながらゆっくり歩かねばならなかった。 ましてや階段での登り降りはつらかった。 特に階段の下りでは、左膝を曲げて体重をかけるときに痛みが走るので、手すりにつかまってゆっくりとしか進めない。
 当然、外出は必要最小限にせざるをえない。
 幸いなことに、整形外科医院は家から歩いて5分くらいの距離にあり、途中に階段も急坂もないから、通院はなんとかなった。
 問題は西新宿に行く用事があったときのこと。 タクシーを使えば簡単なのだが、いつものように地下鉄を使っての移動がどのように変わるものなのか試してみた。
 最近は地下鉄の駅の多くにエレベーターが設置されているので、駅自体では階段を使わなくてもすむようになっている。 筆者宅の最寄りの東高円寺駅、そして目的地の西新宿駅にもエレベーターが設置されている。
 ところが、駅を出ると、近くに階段しか見当たらない場所がけっこうある。 ひと時代前に作られた地下道に多いように思う。 例えば、西新宿駅から高層ビル街に通じる地下通路だ。 途中で段差があるので、階段を下りなければならない。 1台だけあるエスカレーターは、昇り用として運転している。 ここは、階段を手すりを頼りにゆっくり下るしかない。
 歩行が不自由な人にとって、階段では、登りより下りが怖いのではないか。 踏み外したら、踏ん張れずに転がり落ちるのでは、という心配が頭をよぎるからだ。 エスカレーターを一方向だけしか運転できない場合、下り方向の運転を優先すべきように思う。
 この階段をなんとか下り、先を急ぐ人に抜かれながら地下通路を歩いて目的のビルに到着すると、今度は登りの階段がある。 近くにエスカレーターやエレベーターが見当たらないので、階段を一段登っては両足をそろえ、膝に負担をかけないように登らなければならない。 ビル内に入ってしまえば、エレベーターを使って目的地にたどり着けるので、ほっと一息つけた。
 今回の体験は広い東京のほんの一部分だったが、足に障害のある人にとって、 東京はまだまだ歩きやすい街とは言えないことを体験することができた。
 健康な時には、バリアフリーのことを頭では考えられても、実感が伴わない分、他人事扱いになりがちだ。 今回、たまたまではあるが、足を負傷した機会に、身をもってバリアフリーについて考えることができたのは貴重な体験だった。

・「荒仏師 運慶」を読んで(2016/09/03)
 筆者がお寺巡りを始めてから、各地で数多くの仏像に出会ってきた。 おかげで、運慶など仏師についての知識も多少は増えたが、深くは知らないままだった。
 そんな折の7月に、この本(「荒仏師 運慶」梓澤要著)の書評が新聞に載ったので、読んでみることにしたのである。
 結論から言えば、激動の時代に生きた運慶の生涯が見事に描かれている。
 運慶は、平安時代末期に仏師康慶の子として生まれている。 彼の生涯の前半は、ちょうど平家が滅び、鎌倉幕府が誕生する激動期にあたっていて、南都焼き討ちや安元の大火、地震、飢饉に見舞われた様子は、 方丈記(鴨長明)に書かれた時代の状況に重なる。
 当然、仏像にも世相が反映するわけで、平安時代に好まれた定朝様と呼ばれる穏やかな表情の仏像から、躍動感と迫力のある仏像へと変わっていく。 その潮流に乗って、運慶などのちに慶派と呼ばれる奈良仏師の集団が、京仏師に代わって勢力を伸ばしていく過程が本書で生き生きと描かれている。 武家社会の到来という時代風潮が運慶の作風に合っていた上に、鎌倉幕府の主要人物を後ろ盾にできたことで、慶派隆盛につながったことがわかる。
 しかし世の中が落ち着いて、晩年になった運慶は、工房の弟子だちの作風が装飾過剰に陥り、時代の気風に合わなくなっていることに気がつく。
 晩年に取り組んだ興福寺北円堂の諸像のうち、弥勒如来坐像では玉眼の採用をやめ、彫眼に戻る。 仏像のありかたに対する深い洞察と、時代の雰囲気を読んで方向転換できるのも、天才仏師と呼ばれるゆえんに違いない。
 ところで、この本の最初のあたりで、当時の飢餓の状況の説明として、方丈記からの引用と思われる文章がある。 運慶の生きた時代は、鴨長明のそれとほぼ同じなのだ。 運慶と鴨長明が会ったという記録はないようで、本書でも鴨長明の名前は出てこないのだが、境遇や性格がまるで異なる二人がもし出会ったとしたら、 どんな会話になったのが興味をそそられる。
 本書を読み終わって、改めて運慶作の諸仏像を鑑賞する旅に出たくなった。

・「観音の里の祈りとくらしU−びわ湖・長浜のホトケたち−」展(2016/08/06)
 東京藝術大学大学美術館で開催されている特別展「観音の里の祈りとくらしU−びわ湖・長浜のホトケたち−」に行ってきた。
 展覧会名にUとあるように、1回目は2014年に開かれていて、筆者は見逃してしまっている。 出品リストを見ると、今回のほうが数が多く、規模が大きくなっているようだ。
 結論から言うと、今度の展覧会でも素晴らしい仏像が集められていた。 湖北を代表する仏像である向源寺の十一面観音立像(国宝)こそ含まれていないが、仏像ファンには必見の展覧会と言ってよい。
 長浜は、いわゆる湖北と呼ばれる地域で、大寺院こそないが、多くの優れた仏像が地域の人々によって守られ、伝えられていることで知られている。 展覧会の名前は、そのことを踏まえてつけられたと思われる。
 筆者もかねてより、湖北を歩いて仏像を拝観したいものと思っていたところに、今回の展覧会であある。 当然、見逃すわけにはいかない。 さっそく空いていそうな平日の午前中に出かけてみた。 ところが、会場に入ったら、平日にも関わらずかなり混雑しているのに驚いた。 会期が約1ケ月と比較的短いことが影響しているのかもしれないが、仏像に興味のある人が多いことを物語っている。
 では、いくつかの印象に残っている仏像を順不同で列記してみる。
観音菩薩立像(洞寿院) :一木造で木目が見える素地仕上げ。33年に一度公開される秘仏だか、今年がご開帳の年にあたるので出品されている。
聖観音立像(来現寺) :会場中央の目立つ場所に置かれている、一木造りの像。左足に重心を置き、右足親指を少し持ちあげている。 奈良・法華寺の十一面観音菩薩立像も同じように右足親指を持ちあげていたことを思い出した。
十一面観音菩薩坐像(知善院) :端正な姿で優しいお顔の像。
馬頭観音立像(横山神社) :ずんぐりした像で上半身が大きい。 お顔は憤怒相なのだが、笑っているようでもあり、あまり怖さを感じない。
馬頭観音立像(徳円寺) :逆立った髪の毛が目立つ。そして、両足先を持ちあげて踵で立ち、足裏が見えているという変わったポーズ。 人間であれば、とても立っていられないような不思議な格好。 なにを意味しているのだろう。 全体としてみると、八臂の腕を含め均整が取れている。
持国天立像/多聞天立像(石道寺) :堂々とした像で、大きさと迫力に圧倒される。
大日如来坐像(光信寺) :頭体幹部がケヤキの一木造りでありながら巨大な像。 横からみるとさらに量感が増して見え、力がみなぎっているようだ。 金箔が一部に残っている。
愛染明王坐像(舎那院) :大きくはないが、迫力がある。
千手千足観音立像(正妙寺) :像高42.1cmと小ぶりな像だが、国内で唯一の千手千足観音像として有名。 本当に千本の手や足があるわけではないのだが、とてもユニーク。 体が写真で見るより丸味をおびている。お顔は憤怒相だが体形とあいまって子供のように見える。 下半身の横に広がるたくさんの足はよく見れば確かに足なのだが、一見したところまるで多数の足を持つ節足動物が張りついているようだ。 上半身の背後から出ている腕は、蟹の足のようでもある。
十一面観音菩薩立像(医王寺) :すらりとした像。
 ほかにも魅力的な仏像がたくさん並んでいて、豊かな気持ちになって会場を後にした。

 こうやって特別展で手軽に多くの仏像を目にすることができるのは、東京に住んでいることの利点と言えるのだが、 本当のところは、現地まで出かけて、周りの景色や空気を肌に感じながら拝観しないと理解は深まらないのだろうとは思う。

・Windows 10へのアップグレード(2016/01/29)
 2016年1月になって、Windows 10へのアップグレードを実施した。 以下は、その経過である。
 Windows 10が2015年夏に登場して以来、 MicrosoftからWindows 10への無償アップグレードへのお誘いの表示が、PC画面上に頻繁に出るようになった。
 無償アップグレードの対象OSは、Windows 7およびWindows 8.1だそうだから、 多くのパソコンユーザーがMicrosoftからの通知を受け取って居るはずだ。 Windows 10がリリースされて数か月後、気になって周りの人に聞いてみた。 すでにアップグレードを行った人、行うつもりのない人などまちまちだった。 対応方法にPCの持ち主の性格が反映されるようで、これはこれで面白い。
 筆者のパソコンは2014年に組み上げた自作PCで、OSはWindows 8.1 Pro 64bit DSP版である。 メールのやりとり、写真の修正、ホームページの更新などがパソコンでの主な作業で、現状で特に不満はなく、 アップグレードの必要性をあまり感じていなかった。 それに、Windows 10の内容がそれほど新規性やインパクトのあるもののように思えなかったのも、 静観し続けていた理由だ。 でも、いつかは最新のOSに移行した方がいいわけで、そのタイミングを見計らっていたというのが正しいかもしれない。
 Windows 10の登場後、半年たった2016年1月。 そろそろ移行してもいいかなと思い始めた。 半年も経てば、新製品につきもののいろんな不具合も修正され完成度も上がっているだろう、との読みだ。
 まずネットで情報収集し、念のため「Windows 10 完全理解(日経PC21編)」という解説本も購入して、概要を把握した。
 実際のアップグレード作業はMicrosoftの指示に従って行い、約1時間で終了。 基本的な操作法は、Windows 8.1から大きく変わっていないので、操作に戸惑うこともない。 引き続いて、良く使うアプリケーションソフトと周辺機器(プリンター、スキャナー)の動作チェックだ。 問題はなさそうで、これも予想通りだ。 若干の設定変更やセキュリティソフトの再インストールを行い、これで一件落着と思っていたら、気になる点が一つ見つかった。
 アップグレード後、デフォルトのWebブラウザーがIEからEdgeに変更されたのに伴い、 筆者のホームページもEdgeで動作確認と更新作業を行うことにした。 ところが、Edgeで表示中の画面のソースを「メモ帳」で表示する方法が見つからない。 仕方なく、Edge上のボタン(「IEで開く」)を押して、いったんIEで同じ画面を開いてからソースを「メモ帳」で表示し、 編集作業を行っている。 筆者のホームページでは、ホームページ作成用のソフトを使用せず、直接HTMLで記述しているので、 わざわざIE経由で「メモ帳」を開くのは面倒だ。 ネットで調べてみると、同じ疑問を持つ人の質問が載っているものの、要領を得た解決法が載っていない。 なんとかならないものだろうか。

 上記の文章を書いて半年ほど経ってから、知人のKさんから、フリーウェアのエディターCrescent eveを使う方法を教えていただきました。 シンプルな機能でなかなか使い勝手のいいソフトです。 (2016/8/20追記)

・高尾山温泉(2016/01/01)
 高尾山のメインの登山口である高尾山口駅脇に、新しい温泉施設「京王高尾山温泉/極楽湯」が開業した。
 言うまでもなく日本は温泉大国だから、登山のついでに温泉に入ったりすることは普通だし、 登山基地が温泉だったりする例は数多い。 私自身にも思い出に残る登山と温泉の組み合わせはたくさんある。
 高尾山の場合、八王子市内に今までも温泉施設があるにはあったが、山を下りた後に利用するとなると、 乗り物を使わなければならない不便さがあった。 それが、高尾山温泉が登山口にできたことにより、登山後に気軽に立ち寄れることになった。
 高尾山温泉の開業は2015年10月末。 興味があったので、すぐに利用してみたかったが、秋の行楽シーズンと重なっていたので、しばらく敬遠していた。 春と秋の高尾山の特に週末の混雑ぶりは半端ではないので、そのごく一部の人が温泉に押し寄せるだけで、 どうなるかは容易に想像がつくからだ。
 紅葉目当ての行楽客がひと段落した12月中旬の土曜日、早朝から高尾山を歩いたのち、 11時ごろ登山口に下ってきた。 時間が早いので、駅周辺に下山者の人影はまばらだ。 これなら、ゆっくり湯に浸かれそうだと思い、高尾山温泉ののれんをくぐった。 料金は1000円。 まだ新しい施設なので、館内はどこも清潔できれいだ。 肝心の温泉は、露天風呂に内風呂、サウナと一通りそろっている。 この日は冬晴れの青空が広がっていたので、やはり露天風呂がいいと思い、露天岩風呂のぬる湯を選んだ。 温度計の表示を見ると40度台。 長く浸かるにはちょうどいい湯加減。 すぐに肌がぬるぬるしてくるのがわかる。 泉質がアルカリ性単純温泉のためだ。
 露天といっても雄大な景色が広がっているわけではないが、天然石で囲まれた湯船に首まで浸っていると、 ぬるぬる感と相俟って極楽気分になれる。 それぞれの風呂に数人ずつくらいの客数だったから、足も延ばすことができ窮屈感がなかったのもよかった。
 今回は温泉に浸かっただけで、食堂などの付属設備は利用しなかったので、これらについてコメントはできない。
 とにかく、本格的な温泉気分を手軽に味わえるうえ、隣は駅なので、 湯冷めしないうちに電車に乗りこむことができる便利さがいい。
 ここからは付け足しの希望だが、暑い季節用として、温泉でなくてもいいから、 ワンコイン(500円)程度で汗をシャワーで流せて着替えができる施設が欲しいところだ。 夏に高尾山を歩くと、汗かきの私は、シャツも汗びっしょりになってしまう。 電車に乗る前に汗を拭いてシャツを着替えさっぱりしたくても、適当な場所がない。 仕方なく、ケーブルカー清滝駅前広場にある木陰のベンチを利用して着替えているが、男だからできることだ。

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