ブランコ詳解

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「ブランコをこぐ」の物理的解説
 
 
 
\includegraphics[scale=1.2]{buranko_kaisetu1-1.eps}
 
 
 
 角運動量の変化量は,力のモーメントに等しい(後述参照)。 (詳細はここをクリック)。

 
 いま図において,質量$m$の質点Pが固定点Oのまわりを距離$l$,角速度$\omega$で回転しているとき,質点Pの角運動量は$ml^2\,\omega$で与えられる。一方質点Pに働く力が点Oのまわりにもつモーメントは,角$\theta$の向き(反時計回り)を正として $-mgl\sin\theta$である。よってこのとき次式が成り立つ。
$\displaystyle \bun{d}{dt}(ml^2\omega)$ $\textstyle =$ $\displaystyle -mgl\sin\theta$ (1)
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$\displaystyle \therefore 2ml\bun{dl}{dt}\omega+ml^2\bun{d\omega}{dt}$ $\textstyle =$ $\displaystyle -mgl\sin\theta$ (2)
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$\displaystyle \therefore \bun{d\omega}{dt}$ $\textstyle =$ $\displaystyle -\bun{g}{l}\sin\theta\uwave{-2\bun{\omega}{l}\bun{dl}{dt}}{}_{(\mathrm{a})}$ (3)

 上記$(3)$式の $\bun{d\omega}{dt}$が質点Pの角加速度を与える式で,これに距離$l$を乗じた値がPの接線加速度を与える。
 ここで大事なのは,$(3)$式の第2項$(\mathrm{a})$である。もしこの項がなければ,$\theta$が正の範囲では $\bun{d\omega}{dt}$は負,$\theta$が負の範囲では $\bun{d\omega}{dt}$は正となり,質点Pは$\bun{1}{4}$周期ごとに加速されたり減速されたりで,全体としては少しも振れは大きくはなっていかない。
 $(3)$式の第2項$(\mathrm{a})$には$\bun{dl}{dt}$の因子がある。つまり,支点Oからの距離$l$を時間変化させることによって, $\bun{d\omega}{dt}$の値を変えることができるのである。「ブランコをこぐ」とは,しゃがんだり立ち上がったりすることによってブランコの支点と人の重心との距離を変え,$l$を変化させることなのである。
 そこで,図の $\mathrm{A〜O'}$間にあって反時計の向きに回転しているときであれば, $\bun{d\omega}{dt}$が正であればPは加速されていく。この範囲では$\theta<0$ゆえ $-\bun{g}{l}\sin\theta$は正で,$\bun{dl}{dt}$が負,つまり距離$l$が減少(立ち上がる)すれば第2項$(\mathrm{a})$は正となり, $\bun{d\omega}{dt}$は全体として正となり,質点Pは加速される。その値は$\omega$が大きaいときに$\bun{dl}{dt}$が大きければよい。つまり,下方に達したときほど急速に$l$を小さく(急速に立ち上がる)していけばよい。
 つぎに最下点$O'$を越えて上昇していく場合を考える。この場合はPは減速されていくが, $\bun{d\omega}{dt}$の絶対値がなるべく小さければ減速のされ方が小さくて,より高いところに達することができるようになる。 $-\bun{g}{l}\sin\theta$は負であるから,第2項$(\mathrm{a})$が正であれば $\bun{d\omega}{dt}$の絶対値を小さくできる。そのためにはやはり$\bun{dl}{dt}$が負であればよい。つまり距離$l$を小さく(立ち上がる)していけばよいことになる。
 そして最高点にったっしたところでしゃがみ,$l$を大きくする。このとき$\omega=0$ゆえ,第2項$(\mathrm{a})$の効果は$0$である。
 以上より,ブランコを効率良くこぐには,上でしゃがみ,下で立ち上がるのがよい。
 

 

  角運動量について  
\includegraphics[scale=1]{buranko_kaisetu22-1.eps}
質量$m$の物体の位置$\Vec{r}$での速度が$\Vec{v}$であるとき, $\Vec{L}=\Vec{r} \times m \Vec{v}$なる物理量をこの物体の角運動量という。角運動量の時間微分をしてみると,

\begin{displaymath}\bun{d\Vec{L}}{dt}=\bun{d}{dt}(\Vec{r} \times m \Vec{v})=\Vec{v} \times m \Vec{v}+\Vec{r} \times m \bun{d\Vec{v}}{dt} \end{displaymath}

ここで2つのベクトルの積 $\Vec{A}\times \Vec{B}$をベクトルの外積(ベクトル積ともいう)といい,その大きさ $\vert\Vec{A}\times \Vec{B}\vert$は,2つのベクトルの互いに直角な成分同士の積である。したっがて,同じ2つのベクトルの外積は$0$となるので, $\Vec{v} \times m \Vec{v} \equiv 0$、したがって上式右辺第1項は0である。また, $m\bun{d\vec{v}}{dt}=\Vec{F}$であるから,上式は

\begin{displaymath}\bun{d\Vec{L}}{dt}=\Vec{r} \times m \bun{d\Vec{v}}{dt}=\Vec{r}\times \Vec{F}=力のモーメント \end{displaymath}

なる関係が導かれる。
 ここで角運動量の大きさ$\vert\Vec{L}\vert$は,

\begin{displaymath}\vert\Vec{L}\vert=\vert\Vec{r} \times m \Vec{v}\vert=\vert\Vec{r}\vert \cdot m \vert\Vec{v}\vert\sin\theta \end{displaymath}

ただし,$\theta$$\Vec{r}$$\Vec{v}$とがなす角である。ここで, $\vert\Vec{v}\vert\sin\theta=r \omega$であることから,

\begin{displaymath}\vert\Vec{L}\vert=\vert\Vec{r}\vert \cdot m \vert\Vec{v}\vert\sin\theta=m r^2\omega\end{displaymath}

となり,さきの$(1)$式が得られる。また, $\bun{\vert\Vec{L}\vert}{2m}=\bun{1}{2}\vert\Vec{r}\vert \cdot \vert\Vec{v}\vert$となり,これは上図斜線部の面積に等しく,これを面積速度という。角運動量は面積速度を2倍して質量をかけた量であるから,角運動量が保存されるとき面積速度も一定に保たれる。これを面積速度一定の原理という。