ラグランジュ点

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 人工衛星が地球の引力のみを受けて円運動する場合、軌道半径が決まればその周期も決まります。したがってたとえば月と同じ周期の人工衛星を打ち上げる場合、その軌道半径を月の軌道半径と同じにしておきさえすればよいわけで、その軌道上であれば人工衛星の投入位置はどこでもよいことになります。
 しかし地球ばかりでなく、月からの万有引力も受けているとした場合、この人工衛星が月と同じ周期で円運動できる位置は5箇所しかなくなってしまいます。
 一般に、質量がきわめて小さい物体(この場合なら人工衛星)が他の質量の大きい2天体(この場合では地球と月)からの引力を受け、2天体と同じ周期で周期運動し得る位置は5箇所しかないことが知られています。これらの点をラグランジュ点といい、それぞれL1、L2、・・・、L5などと呼ばれます。そのうちL1〜L3は2天体(この場合は地球と月)を結ぶ直線上にあり、L4とL5は2天体とちょうど正三角形をなす位置にあります。L1〜L3は不安定なつりあい点で、この位置から少しでもずれるとずれがますます大きくなっていくのに対して、L4とL5はきわめて安定なつりあい点で、多少のずれが生じても復元力が作用し、この位置から大きくずれていくことはありません。
 下のアニメでは、ラグランジュ点L1、L2、L3、L4について、その安定性をシミュレートできます。黄緑色で示した点が人工衛星にあたります。薄いグレイで示した点は、それぞれのラグランジュ点を示します。
 右側の図は、質量の大きい2天体に固定した座標系から見た相対運動を示したものです。背景の等高線は「ゼロ速度曲線」と呼ばれるもので、万有引力と遠心力の合力による等ポテンシャル面みたいなものです。山の等高線に相当すると考えると衛星の動きが理解しやすくなります。しかしこの系は回転座標系のため、物体には慣性力として遠心力のほかにコリオリの力も働き、そのため衛星は予想外の動きをすることがあります。このことが、ラグランジュ点の安定性に大きく関わっています。

操作法   「ラグランジュ点切替」:グランジュ点が L4->L1->L2->L3  の順に切替る。
緑球の初速変更:「Reset」または「Stop」を押し、緑球の中心にカーソルを合わせた後、運動させたい方向にドラッグする。線の長さは、速度の大きさに比例する。
緑球の位置変更: 「Shift」キーを押しながら、「天体の初速変更」と同様にしてドラッグする。


 このシミュレーションはルンゲクッタ4次法で行っていますが、これはあくまでも近似的な数値解析に過ぎず、したがって一般に時間経過とともに誤差が蓄積されていくことは避けられません。
 にもかかわらず、L4点では、黄緑球が薄いグレーで示したL4点の先になり後になりしながらも、決して大きく軌道からずれていくことはありません。それはL4点では黄緑球に復元力が働くためです。このことを確認してもらうために、初期設定で黄緑球の配置位置をL4点から意図的に少しずらしてあります。さらに初期のずれを大きくする場合は、「天体の位置変更:」にしたがって黄緑の球の位置をドラッグしてみてください。
 これに対し、L1、L2、L3の位置は、6桁以上の精度で正確に設定してありますが、シミュレーションによる誤差のため1、2回の回転でL1、L2から徐々にずれ始め、その後ずれは急速に増大していきます。


解説:
 3つの天体が引力を及ぼし合いながら行う運動を論ずる問題を、3体問題といいます。この場合、力は万有引力のみを考え、天体は全て質点として扱います。運動方程式は、3天体の合計9個の座標に対するそれぞれ2階微分方程式として記述され、全体として18階の連立微分方程式となります。この方程式の解を求めることはきわめて至難で、18世紀頃から数学者等の関心を引いてきました。そして、この連立微分方程式は積分を繰り返すなどによって解析的に一般解を求めることはできないことが分かってきたのです。しかし、特別な初期値に対する特殊解は知られています。その内の2つはラグランジュ(仏)が1772年に発見したもので、正三角形解直線解といわれます。他の1つはごくごく最近見つけられたもので、8の字解とよばれています。
 正三角形解は、3個の天体が初期値として正三角形の頂点にある場合であり、直線解は3個の天体が初期値として質量によって決まるある比率で1直線上を並んだ場合です。これらの場合、3個の天体は相互の距離の比および形(正三角形や直線)を一定に保ちつつ、3体の共通重心のまわりを回転するというものです。各天体の運動は同一離心率のケプラー運動となります。つまり、これらの解の位置に天体が配置した形で運動するときに限り、各天体は一定の相対位置を保ったまま運動できるのです。
 3個の天体のうちの1個の質量が他の2つに比べてきわめて小さいとき、質量の大きい2天体がその共通重心のまわりにケプラー運動をすると考えることが出来ます。さらにこの運動が円運動であるとき、取り扱いはさらに単純化出来ます。これを円制限三体問題といいます。この場合の正三角形解、直線解の位置をラグランジュ点といいます。ラグランジュ点は合計5カ所ありますが、正三角形解ポイント(L4,L5点とよぶ)はとくに安定で、木星の軌道上を公転しているトロヤ群小惑星(約1000個の小惑星群)が存在するのは、太陽・木星の正三角形解の位置にあたる。