●●「 World Topics 」◇◇◇[平成10年4月9日]☆No.00015☆●●

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☆ ___________発行者 所 輝美
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☆♪☆☆☆☆☆☆[目次]☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆♪☆

◇ママさん学級 初体験◇夏人ウスキ◇カナダ発

- イラストと文:夏人ウスキ -


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「ママさん学級 初体験」

唐突ながら、妊婦が出産する前に参加するというママさん学級に私も
出席することになった。...驚かないで欲しい。別に私が妊娠したわけ
ではないのだ。実は私の友人が妊娠九ヶ月で遅まきながらこのクラスに昨
今参加し始めたのだが、第四回目に限って旦那殿が出張で参加出来なくな
ったので私が代理の保護者として参加することになったのである(こちら
のママさん学級は夫婦揃って参加することになっている。まぁ、出産に旦
那さんが同伴するのが当たり前だから旦那さんも出産について勉強しなく
てはならないのは当然のことであろう)。

午後七時。私はお腹の中にボーリングを入れたような友人を車に乗せ、
郊外の病院にやってきた。友達は病院の隅の小さなプレハブのようなとこ
ろに私を連れていった。この時間でも日はまだ高い。病院の隣りの公園(
そこは奇しくも?私が結婚した教会があるところ)からは子供たちのはし
ゃぐ声が聞こえていた。

重い、いかにも病院らしいドアを開けるとお腹のでっかい女の人がジム
で使うようなマットを床に敷いて寝転んでいる。ううっ...。なんかこ
の人、今にも出産のうめき声をあげそうな体している...。そして次か
ら次へと横綱級の妊婦さんがどすこい、といわんばかりに部屋に入ってき
た(体のでっかい人に囲まれるとなんか圧迫される気がしてしまった)。



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十数人の妊婦と旦那達が輪になって腰を下ろすと、私服の看護婦さんが
真ん中にやってきた。いよいよママさん学級の始まりである。看護婦さん
は「先週の復習からしまぁす」とオモムロにおもちゃ屋で売ってるような
赤ちゃんの人形を手に取る。赤ちゃん人形はとってもリアルで体がウニョ
ウニョ曲がる。看護婦さんは赤ちゃんの両足を新体操選手のように頭につ
くまでグリッと股関節からへし曲げて蛙のようなポーズにし(かなり手つ
きが乱暴で、この人に赤ちゃんの面倒見てもらうことになったら結構、怖
いことになりそうって感じがした)、その赤ちゃんを今度は逆さずりして
「皆さん、このポーズはわかりますよねー?出産の時、こう出てくるんで
すよ」と自分のお腹のあたりから股の方へスルリと赤ちゃん人形を滑りお
ろす(あ、赤ちゃんてずぅっと逆さで頭に血が上っちゃわないのかしら?
)。そして「足はこう、外向きに開いて」と、がに股で踏ん張るポーズを
私たちに見せる。妊婦でも何でもない私にはちょっと刺激的。きっと、ご
主人達もきっと同じように感じてるのだろう...。




次にへその緒の話になった。こちらではへその緒はご主人が切る権利を
持っている。もちろん、血まみれで気持ち悪くて切れない、という方には
お医者さんにお任せすることも出来る。それで一応、自分達が切断する、
という前提でへその緒切り器を手にとって見せてもらった。プラスチック
で出来たニッパーと洗濯挟みの合いの子みたいな形で、クチバシがさすが
にへその緒を切るためか、ピタッとして固い、ギザギザしたカンジになっ
ている。でもすぐに壊れそうな、ヘナチョコのプラスチック製だから「本
当にこんなので切れるのかしら?」とか、「失敗してでべそにしちゃいそ
う」という不安が思わず脳裏をよぎってしまった。

一人、一人が“でべそメーカー(私は100%信用してない)”を見終わ
ると、看護婦さんは「じゃ、今日も陣痛トレーニングをしましょう」と言
い出した。なんじゃそりゃ?看護婦さんがそう言うと、ご主人達はぞろぞ
ろと立ち上がってマットを押し入れみたいなところから取り出した。私も
よくわからないまま、彼らにつられて友達用にとマットを一つ、運んだ。
妊婦たちはそれぞれ、そのマットに横になると、看護婦はどっかのサロン
かなんかでかかるようなクラシックの音楽をかけはじめた。「何よ、これ
?」と友達に尋ねてみると「これがこっちの陣痛の迎え方なんだって」と
言う。なんでも、陣痛が始まったら妊婦は横になって気を楽にして心地よ
い音楽を聴き、ご主人が背中をさすってただ、ただ、痛みを和らげるよう
にしてやり過ごすというものなのだそうだ。えぇ〜っ。だって、日本のテ
レビとかでは出産ってなると妊婦は「ヒッ、ヒッ、ハァー」とかいう呼吸
法でとにかく辛く激しい痛みと闘うでしょう?そんな試練の中でお呑気に
シューベルトとかなんかを聞いていられないような気がするのだけど..
.?私は横向きに寝ている友達の背中をさすりながらまだ体験したことの
ない世界を想像していた。
暫くすると、看護婦が映写機を使って陣痛がひどくなった時のイラスト
による体位集を紹介しはじめた。やはり、陣痛はすべてご主人と一緒にや
り過す、が前提なので体位ももちろんご主人と一緒のものばかりである。
もちろん、中には結構、きわどいポーズもある。まぁ、夫婦だからどぉん
な格好(例えば、妊婦が椅子に座り、ご主人が床に座って奥さんの股間に
頭を入れ、ちょうど肩車のようになりながら奥さんの太股をぐいっと固定
して持つポーズ)をしても許されるのだが...私はなんたってただの友
達だからこっぱずかしくってそんなこと出来やしない。極力、当たり障り
の無いやつを友達も選んでくれてそれをやってみるのだが、周りの夫婦は
みんな真剣に羽交い締めみたいなポーズから肩車まで果敢に挑戦していた
(でも本当にものすごい格好なんだけど、これ、クラシックの曲の最中な
のよね)。
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一通り、体位の研究?が終わるとちょっと休憩が入れて今度は病院見学
ツアーをすることになった。この離れ小屋から病院は細い通路で繋がって
いる。エレベータに乗って三階、そこに産婦人科がある。エレベータから
産婦人科に入るといきなりモニターで自分が入ってきたことを映し出され
る(信じられない話だが、以前、病院で生まれたばかりの赤ちゃんがさら
われる事件があったそうでそれ以来、来客者をモニターで監視をするよう
になったのだそうだ)。
モニターを潜り抜けると、こっちの病院だからそこは一面の赤ちゃんワ
ールドになってるのでは?とかなり、期待していたのだが、病院というも
のは万国共通なのか、所詮、病院...。白ーい壁が淋しくと続き、薄暗
い廊下には病院らしいポスターが貼ってあるだけで夢も期待もありゃしな
かったのである。がっくりきてると妊婦用の病室にぶち当たった。


こちらでは出産四十八時間は自動的に妊婦は病院に泊まらされる。一番
安いのはスタンダード、松竹梅で言えば梅コース。ここは四人部屋で隣り
のベッドとはカーテン一枚で仕切られているだけで、一言でいえば、産後
の集団合宿といったところだろうか。もちろんシャワーもトイレも室外で
共同。でもトイレにはこちらには珍しいビデ(“ウォシュレット”みたいな
やつ)がついているのが自慢である(あ、日本の人にはちっとも自慢にな
らないか...うちの実家にだってあるくらいだものね)。次にセミプラ
イベートルームの竹コース。これは同じ大きさの部屋に二人が泊まるので
かなり自由な空間が楽しめるコース。値段もちょっと上がるが、噂では保
険はココまでカバーしてくれるところもあるそう。まぁ、産後のひととき
をゆっくり、且つ経済的にもそんなに無理したくない方にオススメなのだ
ろう。そして最後は堂々松ランクに輝く、妊婦用プライベートルーム。こ
れはなんと美しいチャペル(しつこいようだが、私が挙式したところ!)
が見える、実に優雅な完全個室。しかもトイレ、バス付きなので人や時間
を気にせず好きな時にゆっくり落ち着いて“出来る”のが最大のポイント
である。その代わり、宿泊代もバァーンと跳ね上がるそうなのだが(うー
む、世の中、どこへ行っても金、金、金、の世界なんだなぁ...)。

病室の次に生まれた赤ちゃんが運ばれてくる部屋に連れて行かされた。
この日、生まれたての赤ちゃんは一人しかいなかった。ガラスのケースみ
たいなところに腕と足に名札をつけて寝かされている。顔は真っ赤で目は
横一文字で開いてるかどうかはわからない。無邪気に手足をもがくように
動かしている。へぇー、これが生まれたての赤ちゃんなのか。そして、私
の周りにいる妊婦さん全員がこの、目の前にいる赤ちゃんとほぼ同じくら
いの赤ちゃんがお腹にいてもうすぐ飛び出そうとしているなんて...。
うわぁ、妊娠って本当にスッゴイことになってるんだなぁ...私は妙な
感動を覚えた。

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その日は分娩室も見る予定だったが、何とこの日、全部で四つある分娩
室が全部、使われてしまっていて立ち入り禁止になっており、残念ながら
見ることが出来なかった(後で聞いたのだが、分娩室の二つは、いわゆる丸
型のバカに眩しい手術室用ライトが手術台を照らしつける、典型的な手術
室タイプの部屋で、残りの二つは昨今リニューアルした、手術うんぬんと
いうよりは前述のプライベートルームみたいな快適な普通の病室のような
作りになってるそうである。それにしても前者に当たって近くに置いてあ
る?メス(手術刀)かなんかでも見たら、激痛の妊婦が手術台の恐怖に襲わ
れ、余計、落着かなくなってしまうんじゃないかしら?あ、そんなこと怯
えてるどころじゃないっか)。ちなみにこちらはお話したように陣痛が始
まったらまず、マッサージとかして二人で痛みを癒せ、の世界である。だ
から分娩室を使えるのは本当に最後の最後、生まれる間際からのことなん
だそう(そう指導もしている )。...そう考えると、今、分娩室に誰か
がいるっていうことは、もう新しい命が誕生しかかってることなのだ(頭
半分くらいは出てたりして...?)。ギョギョッ、そんなこと考えると
ますます不思議な気分になってしまう...。
一通り、産婦人科の中を見終わると、今日の授業はその場で解散とい
われた。私はのっそり、のっそり、お腹を突き出して歩く友達もやがてこ
こで子供を産むのかと想像すると、なんだか彼女が人生の先を闊歩する、
勇敢な女性に思えてきた。時々、「あ、赤ちゃんが動いた」なんて私の手
をお腹に触れさせてくれる時なんか、本当!完璧に母親してるものね。
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実は昨日、彼女が女の子を出産した。これが載る頃、お母さんになるか
どうかだな、なんて思って書いていた矢先、ご主人からの「生まれたんで
す」という電話を受けっとった。そこで長い痛みと苦しみを終えた彼女が
一言だけ、「終わったよ」と電話口で私に喋った。本当にグッタリした弱
々しい声だったが、これが母親になった人の声なのか、と私はしみじみと
感じた。逆にご主人は普段冷静なタイプなのにかなり興奮していて声が震
えていたようだった(ちなみに「感想は?」とご主人に聞くと「ワーオ!
」なんてはしゃぐように答えていた)。あぁ、出産って人生の大きなドラマ
なんだなぁ...。
暫くしたら旦那と一緒にお祝い持って遊びに行こう。その時、彼女は
腕に赤ちゃんを抱いて立派にお母さん、やってるんだろうなぁ...。
う〜ん、普通の女性を何から何まで変えちゃうなんて...本当に出産っ
てスゴイッ!!

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