万太郎俳句評釈
1
竹馬やいろはにほへとちりぢりに(p7)
庵原群興津町とや注連の打(p10)
初場所にとゞきし梅のたよりかな(p14)
長羽織著て寛濶の二月かな(p19)
つたへけり梅の湯島の家元と(p22)
梅咲くや小さんといへば三代目(p27)
泣蟲の杉村春子春の雪(p31)
雛の夜の雛の料理や金田中(p34)
いづれのおほんときにや日永かな(p38)
花時の鏡山とて泣く芝居(p42)
花曇かるく一ぜん食べにけり(p46)
仰山に猫ゐやはるわ春灯(p50)
ボヘミアンネクタイ若葉さわやかに(p54)
更衣気がさを鬢にみせにけり(p57)
おもかげをしのぶ六日のあやめかな(p61)
みじか夜やおもひおもひの椅子の向き(p65)
獺に灯をぬすまれて明易き(p69)
親一人子一人螢光りけり(p74)
2
見ゆるもの霞む空のみここ五階(p81)
浪裡白跳河童の多見次ほとゝぎす(p85)
夏じほの音たかく訃のいたりけり(p89)
トラックにのり貨車にのり日の盛り(p92)
涼しき灯すずしけれども哀しき灯(p97)
あさがほやはやくもひびく哨戒機(p101)
番町の銀杏の残暑わすれめや(p104)
死ぬものも生きのこるものも秋の風(p108)
味すぐるなまり豆腐や秋の風(p112)
はつ雁の音にさきだちていたれる訃(p117)
名月やこの松ありて松の茶屋(p121)
十三夜はやくも枯るる草のあり(p126)
寒さとはカラ二のつなぐ間なりけり(p130)
周総理小春の眉の濃かりけり(p134)
門の辺の八つ手の霜をおもふかな(p138)
水仙やホテル住ひに隣なく(p142)
熱燗のいつ身につきし手酌かな(p146)
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり(p151)
3
茶屋へゆくわたりの雪や初芝居(p157)
沖かけて波一つなき二日かな(p161)
わけもなく手さきの冷ゆる餘寒かな(p165)
獅子舞やあの山越えむ獅子の耳(p170)
手をしめてしめて位初したりけり(p175)
鎌倉の春豊島屋の鳩サブレ(p179)
校長のかはるうはさや桐の花(p183)
芥川龍之介佛大暑かな(p187)
菜の花の黄のひろごるにまかせけり(p191)
薫風や岩にあづけし杖と笠(p195)
日本海みたきねがひや冬ごもり(p200)
夕焼の風に消えゆく真菰かな(p204)
満月蕭條たまたま冬の虹えたり(p208)
涙もろくなりたるは年年のくれ(p212)
芒枯れつくして年も了りけり(p216)
菊市やつれ立つ中の娘分(p220)
しぐるるや大講堂の赤煉瓦(p224)
冬服の紺ネクタイの臙脂かな(p228)
あとがき[平成四年七月]
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富士見書房
平成4年10月10日発行
四六判上製カバー装
233ページ
定価2427円(+消費税)
装幀:熊谷博人
ISBN4-8291-7217-7
★ 「俳句研究」平成3年1月号より4年6月号まで18回連載。
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