『想いは言葉に乗せて』


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【番外編】Happy Birthday ※巡視点(中編)



     ◎◎◎◎◎


「あー、マジでやりてー」

 昔のことを思い出しながら家でごろごろしていたら、円が上に乗りかかってきた。

「あんたが我慢するなんて、恐ろしすぎる!」
「うげっ。円、ちょっと最近、太ったん──んぎゃああああ!」
「あんたね、女に向かってなんてこと言うのよ! えーい、罰だ!」

 円はオレの上でさんざん飛び跳ね、降りるときにお尻を思いっきり叩いてくれた。

「ってーな。もう、なにこの凶暴姉貴」
「失礼なことを言うからでしょ。それに、我慢してるあんたなんて気持ちが悪すぎ! やりたいのなら、とっとと襲っちゃえばいいじゃない。輪くんがやり方、教えてくれるわよ」

 健全たる高校生、やりたいに決まっている。だけどな。

「一方的だとか無理矢理はオレの美学に反する」
「ぶーっ。び、美学! なにそれ! もー、あんたは相変わらず、厨二病患者ね」

 好きに言えばいい。

「輪くんじゃないけど、そんなだからあんた、他の男に盗られちゃうのよ」
「あれは……ちょっとしたミスだ」
「ちょっと? 明らかに痛恨のミスでしょ」

 痛いところを突くな。
 ああ、分かってる。まさか上手くいくとは思ってなかったんだ。
 いつまでもうじうじ見てるのが耐えられなくてけしかけたけど、相手はもてもての土井先輩だったから断るだろうなと思っていたんだ。それがまさか、上手くいくとは思わなかった。
 というか、あいつ、絶対にオレのこと意識して奏乃の告白を受け入れた! オレが奏乃にちょっかいを出してなかったらあいつは断っていた! ほんっと、むかつくヤツだ。
 だけど奏乃が例え別の男を見ていても、オレは離れられなかった。あいつはほんと、危なっかしい。ちょっとばかり、妹のような気持ちも持っていた部分もあった。

「巡くんって要領が悪いところがあるよねぇ」
「……おまえと輪みたいな外道なこと、できないからな」
「ほーんっと、ひっどーい」

 とは言うけど、こいつらだってわざとこういう役目を果たしている部分もあるんだよな。損な性格をしている。

「そーいえば、サッカーが上手な土井くんだっけ?」
「ん、ああ。奏乃が今、付き合ってるヤツだけど」

 円の口からいきなり、土井先輩の名前。なんだか嫌な予感がする。

「やっぱり、そうか。うーん、円ねーさんが腐ってる巡くんのために、特別に情報を教えて、あ・げ・る」

 そういって円はウインクして、投げキッスをしてきた。

「……うぜー」
「ひっどーい! じゃあ、もう言わない」

 気にはなったけど、こういうとき相手にすると図に乗る。だから無視した。

「もう、巡くんったら、意地悪っ」
「意地悪はオレの専売特許らしいからな」

 奏乃にいつも意地悪と言われているから、どうやらオレは意地悪らしい。

「とりあえず、あんたのためじゃないんだからね! これはかわいい奏乃ちゃんのためなのよっ!」

 明らかにツンデレなセリフを吐き、円は予想通りのことを口にした。

「土井先輩、二股どころか何人も女がいるらしいのよね」
「そんなの、分かってたよ」

 高校の頃から男には評判が悪かったもんな、土井先輩。目当ての女の子を盗られたという話はよく聞いていた。
 分かっていたのに、オレは奏乃を喜ばせたくて奏乃のスケッチした気になるフォームをあいつに教えて、株を上げさせた。罪作りだよな、オレも。

「めーぐーるー! あんたっ! 分かっていながら、奏乃ちゃんをあんな狼にっ!」
「心配するな。奏乃の天然危険物っぷりを知らないからそう言えるんだ」

 あいつのあの無防備さは逆に男を躊躇させるには充分過ぎるんだぞ。だからオレだって何年も手を出せないでいるんだから。土井先輩なんてもっと女慣れしてるから、絶対にあの奏乃の天然ぶりに手を焼いているはず。

「奏乃をなめんなよ」
「わかんないわよー。奏乃ちゃんだって女だもん。あんなエッチな男に迫られたら嫌って言えなくて、あーれーって」

 その一言にまさかと思い、勢いで聞いていた。

「……円、おまえ、土井先輩と……?」
「あったりまえじゃーん。いい男を見つけたら、即食べる!」

 ……ああ、どっちも最低だ。

「だから、早いところあんな男から奏乃ちゃんを救い出さないと」
「オレは奏乃を信じてる。もしも奏乃の処女を奪われてもだ!」
「……巡くんってたまに最低なことを平気で口にするわよね」

 軽蔑した視線を向けられたけど、そんなのしらねぇ。

「オレは童貞なわけだし!」
「……しかもそこ、威張るところじゃないから!」
「なんでだよ! 女なんてただ、面倒なだけじゃないか! オレは奏乃一筋! 奏乃のために童貞を捧げる……!」
「……なに、この乙男」

 しっかし、ほんっと最低だよな、土井先輩。あいつを信頼してではなくてオレは奏乃を信じているから託したんだ。
 手さえもまだ繋いでないってところを見ると、オレの方がかなりリードしているわけで。

「くくく……。勝つる!」
「なにが『勝つる』よ。エッチなクセに手を出さないなんて、女側からすれば『あたしってそんなに魅力がないのかしら?』って不安になるものよ」
「そんなことない! 奏乃のほっぺは柔らかくてすべすべだし、おっぱいも思ったよりあるし!」
「……最低」

 あー、ムラムラしてきた!

「とにかく、あたしが見ていて心臓に悪いから、早くあの魔王からかわいい奏乃ちゃんを救い出してよ」
「言われなくても分かってるよ。きっかけがないと無理だな」
「きっかけなら、あたしがいくらでも作ってあげるわよぉ」

 円に任せていいのか分からないけど、言わなくてもこいつは勝手にやる。

「お願いはしないけど、なにか進展があったら、知らせろよ」
「はーいはい。かわいい弟には弱いのよねぇ」

 そう思っているのなら、もうちょっと目に刺激の少ない服を着ろよ、馬鹿姉貴っ! 家だからって無防備にノーブラでネクリジェ一枚というのはどうなんだよ。乳首透けて見えるぞ。
 それにしても、最近の奏乃は元気がない。そろそろヤツが本性を現し始めたのか?

 それからしばらくして、円から連絡が入った。
 曰く、明日と明後日、夕方に土井先輩とべったりひっついてバスに乗るから奏乃に目撃させろって。二日に分けたのは、タイミングがずれた時の保険だとか。そういうヤツなんだよな、あいつは。
 ということで、無理矢理口実を作って奏乃にバスに乗っていちゃべたしている土井先輩と円を見せた訳だが……。わが姉ながら、エロい。土井先輩も鼻の下を伸ばし過ぎだろ。
 当たり前だけど、奏乃はショックを受けている。円の仕込みなんだけど、知っていてもオレだって怒りで脳みそが沸いてきそうになる。
 いいだろう、おまえがそういう男なら、オレはおまえから奏乃を奪う! 正確には、奪い返す!
 こういう時のために土井先輩の連絡先を本人から聞いておいたんだよな。ふふふ、オレが意味もなく野郎と仲良くなるわけ、ないだろう! ふはははは!
『明日の十六時に河川敷で待つ』
 うん、シンプルな果たし状だ。送信っと。
 あいつと奏乃との間でもなにかあったらしく、神妙な返事が来た。
『分かった。サッカーで決着をつけよう』
 ふふふ、いい返事だ。練習試合ではいまいち、勝敗がつかなかったからな。

「ふははは、オレは勝つ!」
「そこまで持って行けたのは、あたしのおかげよ!」
「わかってるって」
「お礼は?」

 偉そうに胸を張っている円を見て、ため息がこぼれる。

「お礼ってこうすればいいのか?」

 突き出している胸をつかんで指先に力を入れてやる。

「ああんっ。巡くんってば、ほんとにどーてーなの? その手つき、超やらしいんだけど」

 ……どうやら、変に悦ばせてしまったらしい。

「悦ぶな、ヘンタイめっ」

 ああ、どうせなら奏乃のおっぱい、触りたい……。
 


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