Sweet darling, Sweet honey


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【エピローグ】



 アキとくだらないことで喧嘩をしたり、彼方とも深町のことで言い合いをしたり、深町相手に切れて怒ったりしながら、わたしは日々を過ごしていた。
 アキのお父さんにもようやく挨拶をすることができたし、そこで初めてアキのお母さんとアキのかなり年の離れた弟と対面することができた。アキのお母さんはアキの弟を溺愛していて、ああ、アキはこれを見たくなくてお母さんのこと避けていたのかな、と思ったり……。
 わたしのことはお父さんもお母さんも弟も受け入れてくれて、わたしはすごく安心した。というのも、どうやら高屋の家と辰己の家は昔から仲が悪いらしいのだ。アキのお父さんは深町のことを息子同様にかわいがっているみたいで、だけどそれが逆に高屋の親戚からはものすごく嫌われる原因になっているというのもわかって、それに関しては同情したけど……でもなぁ、真理さんと一緒なんだよな……と思ったら高屋の親戚が嫌う理由もわかる気がして……とても複雑な気分になった。
 結婚、という具体的な話も上がってきたのは、わたしの大学が決まったころ。
 すでに簿記の一級は取得していて、無事に志望の大学に決まり、将来の見通しが前よりもできてきたのもあり、だれからともなくその話が出てきた。

 そうそう、その前に真理さんの話をしておきましょうか。
 真理さん、あれからやっぱり社長解任になり……会社は相当ダメージを受けたみたいだけど真摯に対応して、どうにか立て直してきたみたい。真理さんはのらりくらりとしていたみたいだけどやっぱり実刑は免れなかったみたいで、判決の後の映像を見る限りでは、少ししょんぼりしていた。
 でも、わたしにはわかっていた。その瞳の奥には、全然反省の色がなくて、むしろ挑戦的な光が見えて、そのうちこちらになにか仕掛けてくるな、というのがわかって、憂鬱になりながらテレビを見ていた。あれくらいのことでへこたれるような人じゃないのを知っている。困ったことにならなければいいけどな……。

 そして結婚話。
 戸籍を取り寄せて初めて知る真実。
 なんと! わたしは非嫡出(昔風にいえば私生児)だったのだ。
 そうだよね。パパはママと駆け落ちしたというから、パパは離婚していないんだよね。だけどパパはきちんと認知はしてくれたみたいで、戸籍の父の欄にはパパの名前が記載されていて、それだけは安心した。
 これがなにかアキとの結婚に不利になるかな、と思ったけど、アキはそのことはわかっていたようで、心配することはない、と言ってくれた。
 学生の身分で結婚? と思ったけど、アキとしてはわたしになにか形のあるもので示したかったみたい。それに、とアキは言う。高屋という名前はそれなりに役に立つんだ、と。制約や縛りなどいろいろあるけど、たまには役に立つからと言うけど、別に今のままでも困ってないんだよねぇ。
 ということで、私の卒業を待ち、入籍することになった。といっても、名字が変わっただけで特になにも今までと変わりはない。結婚って憧れるよね、と教室で話している女の子がいたけど、なにも変わらないんだけど……。なににあこがれているのかさっぱり分からなかった。

 アキがたくらんでいた計画。それは、新会社設立。最初聞いたときはええ!? と驚いたけど、アキはそれは夢に終わらせるだけではなく、きちんと実行にうつせるだけの力は持っていて……。
 アキは奈津美さんと蓮さんを見事に巻き込んでいた。奈津美さんに激しく言われたらしいけど、前にまた一緒に働きたいと言ったのはおまえだろう? と言ったら、黙るどころか三倍くらいになって返ってきた、と苦笑していた。
 それはねぇ……。言われても仕方がないと思うけどなぁ。
 そしてその会社というのがなんと! 結婚をプロデュースするという内容の会社だから、アキもなにを考えてるんだか。TAKAYAグループの力を最大限に悪用? して出会いから結婚、新生活まで一括でお任せください、なんだって。
 儲かるのか? はたして需要はあるのか?
 と思っていたら、予想外に順調らしい。
 それもこれも、奈津美さんのおかげ、みたいなんだけどね。
「いやぁ、ちぃも手離せないけど、あの奈津美は仕事の上では絶対に必要だな」
 と奈津美さんのこと、お気に入りの模様。
「ということでちぃ。早く卒業して俺の会社に就職してこい」
 と言いながら、すでにコキ使われてるんですけど?
 具体的になにをしているかというと、ここの会社のモデル。以前のCMでずいぶんと反響がよくて、わたしはあれだけでモデルの仕事は辞めようと思っていたのに、どうやらその願いはかなわなかった。とにかくわたしは、二足のわらじ状態でそこそこ充実した生活をしていた。
 彼方と深町は相変わらずあの調子みたいだけど……。彼方はというと、深町と一緒にアキの会社で仕事をしているみたい。彼方はわたしより一足先にすでに入籍済。地味に結婚式も挙げて、わたしとアキもお呼ばれした。結婚式に初めて出席して、結婚式っていいもんだな、アキはこれをやりたくてあの会社やってるんだろうな、と思ったら、早く大学を卒業してアキの仕事の手伝いをしたい、と思えた。
 これで深町も落ち着いてくれたらいいんだけど、と思っているのは甘かったようで……。やっぱりことあるごとに揺さぶりをかけてくる。ほんと、どこまで本気でいるのかわからないから困る。それとも……これはパパへの復讐の一環なのかな?

 そんなある日、わたしは自分の身体の変化に気がついた。
 えーっと……。前の生理、いつだった?
 わたしは記憶をたどる。あまり気にしていなかったけど、ずいぶん前のような気がしてきた。
「あ、あのね、アキ」
 その日、いても立ってもいられなくなって、アキに相談する。
「生理が来ないんだけど」
 わたしの言葉にアキはきょとんと目を丸くする。
「えーっと、それって……?」
 アキは一見、冷静に見えるけど、右手と右足が一緒に出ているところをみると、相当パニックに陥っている様子。
「じい、妊娠検査薬なんてあるか?」
 アキの内線にじいが血相を変えて部屋へやってきた。
「ち、智鶴さま!?」
 手には箱が握られていて、手渡された。に、妊娠検査薬なんて……初めて見た。
 そりゃあ……ねぇ。結婚したから避妊なんてどうでもいいよね、なんていい加減なことを言ってしてなかったんだから、できちゃっても不思議はない。だけどやっぱり、学生の身分なんだから自重しろよと言われたらそれはまあ、返す言葉もありません。
 説明書を見て、その通りに使うと。待つまでもなく、陽性反応。あらー、どうしよう。
 なかなかトイレから出てこないわたしにアキは心配したようで、とんとん、と戸を叩いている。
 その結果をいくら見つめてもそれは覆せない事実。わたしはあきらめて出て、見せる。
「あー、うん」
 アキも戸惑った顔をしている。わたしもひきつった顔をしている。いや、確かにほしいとは思っていましたが。こうもあっさりできるものなの?
「うーん、まあ……。早いに越したことはないとは思っていたんだけど……こうも早いと……戸惑うよな」
「うん」
 それがお互いの率直な意見。
 だけど、なんだか不思議。わたしのお腹の中にはわたしたちが気がつく前から新しい命をはぐくんでいて。わたしが知らない間にも、どんどん大きくなっている。
「わたし、生むよ」
「当たり前だ。俺の子でもあるんだから」
 そう言ってアキはわたしをギュッと抱きしめてくれた。
「学校もやめないで通うよ」
「当たり前だ。子どもができたからってやめられたら困る。大変だろうけど、俺もできる限りサポートするから」
 それがどれだけ大変か、その時のわたしはわかっていなかった。けど、どれだけ大変でも、アキがいてくれるから大丈夫。
「ちぃ、ありがとう」
 アキのその言葉にわたしは泣きそうになった。なんでいきなりそんなことを言うのよ。
「俺のこと、好きになってくれて、ありがとう」
 ううん、それはわたしのセリフ。パパとママがいて、それだけでその時はわたし、幸せだった。だけど……あの火事でふたりは死んでしまい……途方に暮れていたわたしの元に深町が来てくれた。悲しみに沈みそうだったわたしに強引にアキはプロポーズ。あまりのことに、パパとママがいなくなった悲しさを忘れてしまった。それからずっと、アキのペースに振り回された。最初、本当にその強引さが嫌だった。だけど、知れば知るほど、その強引さは実はわざとだっていうのもわかったし、実はとってもさみしがり屋で誠実な人というのも分かった。みんなが馬鹿で変態、というのもわかるほどたまにおかしな言動を取るけど。わたしはアキと出会えたこの奇跡に感謝した。
 それからもいろいろと大変だったけど、わたしは無事に男の子を産んだ。
 この子が奈津美さんと蓮さんの子どもと彼方と深町の子どもと、アキの弟とひと騒動を繰り広げるのは……もっとずっと後のお話。
 それはまた……機会があれば、またね。

「ちぃ、ありがとう。愛してる」

「アキ、愛してるよ!」

【おわり】









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