Sweet darling, Sweet honey


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『闖入者』



 僕は目が覚めて、着替えるとすぐに智鶴の部屋へと行った。軽くノックをしてドアを開けると、少しパニック状態になっている智鶴がベッドの上にいた。
「智鶴、おはよう。よく眠れたようですね」
 僕の顔を見て、智鶴は少し落ち着きを取り戻したようだった。昨日着せた僕のだぼだぼのシャツのままなのに気がついた。それはそれでかわいかったけど……さすがにこのままで外に出すのは忍びなくなった。
「智鶴にあいそうな服を探していたんだけど、なかなかなくて」
 屋敷の中を捜したものの、智鶴が着れそうな服はまったくなかった。
「サイズを測ってもらうから、ちょっと待ってて」
 服と靴を準備するといったので、昨日のうちに手はずは整えていた。枕元にある電話に手をのばして、お願いする。
「食事はここに運ばせるから。もう少し待っていてね」
 サイズを測るのに僕がいるのも悪いと思い、退室した。
 食事を智鶴の部屋に運ぶようにお願いして玄関を通って自室に向かおうとしたら、玄関が開いて見知った顔が入ってきた。
「秋孝、どうしたんだ?」
 彫刻のように整った精悍な顔つきの男は僕の姿を認めると、
「深町。おまえの妹を見せろ」
「なんで知ってるんだ?」
「オレはなんでも知っている。隠し事したってすぐばれるからな」
 そう言ってずかずかと歩き始める。
「ちょっと待て! 智鶴は起きたばっかりだし、それに」
 秋孝はぎろり、と僕を睨んで、
「智鶴っていうのか」
 それだけ言うと、なぜかまっすぐに智鶴の部屋へと向かう。
 これだけたくさんの部屋があるのに、どうしてまっすぐにそこへ向かう!?
 秋孝とは、幼なじみだ。幼なじみというよりは、兄弟のようにして育った。そして僕は今、秋孝の第一秘書をやっている。昔からこの男に隠し事はできないし、していてばれたとき、困るのは知っていた。知っていたから……準備ができたらすぐに智鶴を連れてあいさつに行こうと思っていたのに。
「秋孝、待て! 準備ができたらすぐに連れて行くから」
 僕の言葉を無視して、歩みを進める。
「秋孝、ちょっと待て!」
 すでに智鶴の部屋の前に来ていた。
「なんで待たないといけないんだ。おまえの妹だろう?」
 そういうなり、ノックもしないでいきなりドアを開ける。
「秋孝! 待てって。いくらおまえでも、年頃の女の子なんだから。って、秋孝?」
 そして……秋孝はそのまま、固まっていた。
 秋孝を捕まえようと見上げたら、今まで見たことのない表情のまま、秋孝は遠慮なくずかずかと部屋に入り込んで、智鶴の前で立ち止まった。
「俺と結婚しろ。おまえには拒否権はない」
 僕は秋孝の言葉に、目を見開いた。
 智鶴は、秋孝の顔を見上げていた。
「はぁ? あんた、脳みそわいてるんじゃないのっ!?」







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