『愛してる。』


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Happy? Happy!10



   *

 次の日は休日なので、少し遅めに起きる。蓮は着替えてキッチンに向かおうとしたら、すでに隣のふたりは起きていたようで、
「おはようございます」
 と智鶴が遠慮がちに扉から顔を出している。
「あ、おはよう。ごめんね、すぐに朝ご飯作るから」
 蓮の微笑みに智鶴は少し頬を赤らめていた。ご飯のときに智鶴がぼそっと、
「なんだか今日の蓮さん、いつも以上に色っぽいです」
 その言葉に、蓮は飲んでいた味噌汁を吹きそうになる。
「ちょっ!?」
「なんかありましたか?」
 智鶴の言葉に秋孝はにやにや笑っている。
「秋孝、わかってるんなら智鶴ちゃんに説明してあげれば?」
 蓮は真っ赤になりながら残りの味噌汁を飲み干した。
「うーん、こういうとき……普通は奈津美に対して言うセリフだと思うんだが……。やっぱりおまえら、あべこべ夫婦なのか」
 今までの会話を聞いていた奈津美はけろりとしている。
「蓮の方がそういうのは慣れていると思ったんだけど……これは意外なものが見れたな」
「秋孝さんに見られたところで……なんともねぇ?」
「なんで奈津美は平気なんだっ!?」
 蓮はテーブルの上の食器を片づけながら、怒鳴っている。
 奈津美も片づけを手伝いながら、
「うーん。なんでだろう? 私、秋孝さんのこと、野菜とでも思ってるのかも」
「おまえなぁ……」
 秋孝は立ち上がり、奈津美の横に立つ。
「お仕置きが必要のようだな」
「うん? なにするの?」
 秋孝はにこにことしている奈津美の顎をつかみ、上を向かせる。智鶴は秋孝がなにをしようとしているのかわかり、止めようとする。
「アキっ!」
 智鶴の泣きそうな声に、秋孝はため息をつく。
「ちぃ、こんな女とも思えない奴に俺、間違ってもキスしないから」
 そうは言っても、この状態でキスをしないとでも言うんだろうか?
「してもいいけど、蓮に殺されても私、責任取れないよ?」
 秋孝はふと蓮を見ると、今まで見たことないような鋭い目で睨まれていた。初めて見る蓮のその瞳に、さすがの秋孝も身震いした。
「秋孝でも容赦しないからな」
 地を這うような低い声に、秋孝は奈津美の顎を離す。
「冗談でもそういうこと、やめてよね」
 奈津美は素早く蓮の元に走り、蓮に抱きついている。蓮はまだ秋孝から視線を外さないまま、奈津美を抱きしめてなでている。
「アキ! なんでそんなことするのよ!」
 智鶴はぎゃんぎゃんと秋孝に怒っている。あれは……尻に敷かれているな。そう思って、蓮はふと表情を緩めて、奈津美を見る。奈津美は泣いているのかと思ったら、蓮の胸にすりすりと頬を寄せている。
「うーん、やっぱり蓮の腕の中って落ち着く」
 怖がっているのかと思ったら、そうではなくて安心した。
 怒らせたら……実は蓮が最強かもしれない、と秋孝はふとそんなことを思った。
 それから少し話をして、秋孝と智鶴は家に帰ることにした。
「居心地良すぎていつまでもいたくなったけど、そろそろ帰るわ」
 その言葉に蓮と奈津美はうれしくなった。リラックスして過ごしてもらえるのが一番なので、なによりのほめ言葉だと思った。
「大したおもてなしできなくて、ごめんね」
 奈津美の言葉に智鶴は大きく首を振った。
「いえ、わたし、久しぶりに家庭の味を楽しめてよかったです。あの……また来てもいいですか?」
 智鶴の言葉に蓮は目を細める。
「オレの料理でよければ、いつでも来て。なんなら花嫁修業する?」
 そんな必要がないのは知っていたけど、とりあえずそう言ってみる。
「奈津美もだいぶ料理できるようになったし。オレ、教え方上手らしいよ?」
「蓮が作れるのなら、俺でもできそうだな」
 秋孝の意外な言葉に、三人一斉に視線を向ける。
「なんだよ? 蓮が台所に立つ姿を見て、男が料理するのもかっこいいなって思ったんだが……なにか悪いか?」
「おおお、秋孝さん! やっぱり気が合うね!」
 奈津美が握手でもしそうな勢いで、秋孝の言葉に同意している。
「蓮の台所に立つ後ろ姿に惚れたんだよねー。まあ、それだけじゃないんだけどさっ!」
 とのろけを聞かされて、秋孝は苦笑する。
「じゃあ、料理を教わりに来るよ」
「いつでもいいよー」
「ああ、それと」
 秋孝は真顔になり、蓮と奈津美を見た。
「これからも、よろしくな?」
 その意味深な言葉に奈津美と蓮は首をかしげる。
「あ、ああ。こちらこそ」
「うん、こちらこそ、よろしく。いつでもいいよ、ほんと」
 その意味をふたりが知るのは……もう少し後のお話。

 地下の駐車場まで一緒に行き、秋孝の運転する車を見送って、ふたりは部屋に戻った。
 いつも通りのふたりだけの部屋。蓮は奈津美を抱き寄せ、キスをする。
「奈津美……愛してるよ」
 耳元でささやかれ、奈津美の心臓はどきん、とはねる。
「蓮。私も愛してるよ」
 ふたりは見つめあい、どちらからともなくまたキスをした。



【おわり】





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