《五章》「在庫管理」
「品物のマスター、社内システムの中にあるはずよ」
奈津美の声に蓮はすぐに探し始める。
「これか!」
蓮は次々と画面を呼び出し、奈津美の言う品物マスターを探す。探していた者はすぐに見つかり先ほど作ったばかりの在庫管理ツールもどきにデータを結びつけ、パソコンを持って奈津美のところへ行く。
「小林先輩、」
その言い方に、あの日のことが思い出され、奈津美はドキッとした。
「な、なに?」
あの日、奈津美が泣きやむまで隣に黙って座っていてくれた男を彷彿とさせられ、奈津美は妙に動揺した。
「はじめましょうか?」
蓮はそんな奈津美の動揺を知るはずもなく、作業開始の言葉を告げた。
* *
それから、その作業は一週間かかった。思った以上に品数があり、細かく分けていたら時間が経っていた。
「これで終わり!」
蓮は型番を確認して、軽やかに入力して確認、エンターをぱしっと叩き、
「はい、入力終了!」
「お疲れさま」
蓮は右手を上げ、奈津美の右手にぱしっ、と軽やかにタッチした。
「!?」
奈津美はかなり驚いた顔をして、蓮を見た。
「なにか?」
蓮は奈津美の反応に驚いて、きょとんとした。
「あ……いや…」
女子校育ちの奈津美は、男性にあまり免疫がない。向こうがそんな気がなくても、つい、意識してしまう。
ふと、貴史を思い出し、涙が出そうだった。忘れたと思っていたのに。
「小林先輩、次はどうしますか?」
蓮の言葉に、奈津美はハッとした。今は仕事中だ、感傷的になるのはあとにしよう。