失恋から始まる恋もある


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《四章》「放置されていた荷物はお宝の山?」



「はい、なんでしょう」
「ここに置いてある段ボール箱ですが、」
「ああ、これらですか」
「中身はなにが入っているのですか?」
 奈津美の顔は、すでに働く人間の顔だった。一之瀬はやる気になった奈津美を見て、うれしくなった。
「さすが在庫管理の鬼と言われた小林くん、いいところに目をつけました」
 一之瀬は奈津美ににっこり微笑んだ。
「実は、」
 一之瀬の言葉に、奈津美はぐいっと身を寄せた。
「わたしにも分からないんですよ」
「………………」
 一之瀬はからからと笑った。
「中身を見て、確認してもらってもいいですよ」
 一之瀬のその言葉を聞くやいなや、奈津美は段ボール箱に走っていった。
「……在庫管理の鬼ですね……」
 奈津美はカッターを片手に、次々と段ボール箱を開けていった。奈津美は中身を見て、絶句した。
「なんでここにこれがあるのよっ!?」
 中身を見て、叫んでいる。
「さあ……?」
「私がこれをどれだけ探していたかとっ!!」
 中身がなにか知らないが、奈津美にとってはいいものらしい。
「一之瀬さんっ!」
「はい?」
「これさえあれば、この会社、今期の利益は倍ですよ……」
 ふふふふ、と不敵に笑っている。
「今からこれ、どれだけあるのか確認しますっ!」
 奈津美は着ていた制服の上着を脱ぎ捨て、ブラウスの袖をめくった。
「そこで暇をもて余している佳山蓮!」
 蓮はフルネームで呼ばれ、反射的に立ち上がった。
「手伝って!」
 蓮は渋々立ち上がった。
「でオレ、なにすればいい?」
「端から箱を開けて」
 奈津美は慣れた手付きで次々と段ボール箱を開ける。
「あ?っ! これまでっ!!」
 蓮も段ボール箱を開け、中身を見た。
「なんですか、これ?」
 見たことのないものが入っていた。
蓮の問いかけに奈津美はやってきて中身を見て、
「あああ?っ!」
 その場に頭を抱えて座り込んだ。
「なに、このお宝の山っ!?」
 蓮はなにがなんだか分からなかった。
「しばらくここの在庫を確認するわよっ!」
 奈津美の豹変ぶりに蓮は驚いた。
「とにかく、箱を全部開けてっ!」
 奈津美の言葉に、一之瀬も参加するようで箱を次々と開け始めた。
 蓮はやる気なさそうに自分の机に戻り、ノートパソコンを広げた。奈津美は蓮を一瞥しただけで、なにも言わなかった。
 部屋には段ボール箱を開ける音と、パソコンのキーを打つかたかたと言う音しか聞こえなかった。
 段ボール箱を全部開け終わったらしい奈津美は、ふう、とひとつ、ため息をついた。
「結構な数があったわね……」
 奈津美はふと時計を見ると、お昼を過ぎていた。
「ご飯にしましょうか?」
 一之瀬の言葉に、奈津美は頷いた。
「あまり縛り付けたくないんですが、極力ここから出ないでほしいと言われてまして」
 出入りがあるとそれだけこの課が公のものになる可能性がある、と言うことか。
「大丈夫です、私、お弁当です」
 奈津美は自席に戻り、お弁当を出した。一之瀬は冷蔵庫からコンビニ弁当を出し、レンジで温めていた。蓮は変わらず、キーを叩いていた。
 奈津美はふと蓮に目をやり、また違和感を覚えた。少しうつ向き加減なシルエット……つい最近、どこかで見た?奈津美は気にしつつも、お弁当を食べた。
 奈津美はお弁当を食べ終わり、すぐに作業に戻った。次はこの段ボール箱の海から同じ商品を固める作業だ。この作業が大変で、かなりの体力仕事になる。
 奈津美は先に全部の段ボール箱の中身を見て、なにがどこにあるのか確認した。紙に書きなぐり、段ボール箱地図を作る。奈津美は自分のメモを睨み付け、なにをどこに移動させるかを考えた。
 奈津美はメモを片手に、段ボール箱の移動を開始した。なんとなくパズルゲームをしている気分になる。段ボール箱はそれほど重くないからいいが、数が半端ではないので、かなり辛い。が、弱音を吐かずに奈津美は移動させる。
 移動も半分くらい済んだところで、無言だった蓮がようやく、口を開いた。
「まさかそれ、手書きの紙で在庫管理するんじゃないだろうな?」
「そうだけど?」
 奈津美の予想通りの返答に、蓮はわざと大きなため息をついた。
「そんなことだと思った」
「じゃあ、どうするの?」
「作ったよ、在庫管理システム」
 蓮はノートパソコンを指し示した。
「?」
 奈津美は蓮の指すものを見るために机に戻った。
「これ……」
 奈津美はノートパソコンの画面を見て、びっくりした。社内システムの在庫管理ツールに似たような画面が写し出されていたからだ。
「ちょっとハッキ……もとい、社内システムに無理矢……あ、いや」
「蓮くん、またやっちゃったのですか?」
「一之瀬さん、よしなにっ」
「私は見てませんよ?」
「一之瀬さん、ありがとぉっ!」
 蓮は一之瀬に投げキッス。一之瀬は蓮の投げキッスをバットを振る振りをして、打ち返していた。


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