愛から始まる物語


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透明なパレット03



     *     *

 理園は現在、芸能プロダクションでプロデュース業にいそしんでいるようだ。海外で高く評価されていただけあり、斬新な売り出し方をしたりしていて理園自体も話題になっている。理園が手掛けた人物をテレビでよく目にするようになった。

 双子はと言うと、いたずらっぷりがさらにパワーアップしてしまい、雇ったベビーシッターさんたちはほとんどの人が一日でギブアップを宣言してしまうほど。だれに似たんだ、この奔放っぷりは。
 
「二人とも、あんまり大人を困らせないの。あなたたちが試してるのは分かるけど」

 はい?
 
「だって、あかちゃんあつかいするんだぜ」

 
「もうあかちゃんじゃないもんなぁ」

 なんだ、このますますの口達者っぷりは。
 
「ふみおをこまらせることはしないから、もういらないよ」

 舌っ足らずなところはかわいいんだけど、しゃべっている内容に頭が痛くなる。

「と言ってるんだけど」

 うーん……。文緒もそろそろ動けるようになるし、仕事中も二人がベビーシッターさんをいじめてないか気になって仕方がないから、やめることにするか。

「分かった」

 なんだか妙な敗北感を感じるんだが、気のせいにしておこう。考えすぎたら負けだ。

「自分の子どもの頃を思い出して嫌になるわ」

 と文緒はぼそりとつぶやいている。文緒ってこんなに奔放だったかなとふと考えて、よく振りまわされていたことを思い出した。それは今も変わらない。
 なんで俺の周りってこんなにわがままな人間が多いんだろう。

「むつきー、あそぼうぜ」
「なにして遊ぶ?」
「たたかいごっこー!」

 またかよ!
 佳山家には仮面ライダーのDVDが大量にあって、二人は借りて来ては必死になって見ていた。俺もこっそりはまっていたのは内緒だ。
 それを真似していろんなライダーになったつもりで変身して遊ぶのが彼らの言う
「たたかいごっこ」
だ。

「しかし、意外だったな。あんなにDVDが大量にあるなんて」
「私も小さい頃、文彰と一緒に見てたなぁ」
「ライダーキック!」
「うわぁ!」

 不意打ちを食らい、冗談抜きで驚いた。敦貴は得意そうに笑っている。

「すきあり!」

 今度は後ろから瑞貴に抱きつかれた。そのままおんぶをすると、敦貴がずるい! と抗議している。
 こうしたなにげない日常が俺はうれしくなる。
 自分が小さかった頃、俺の世界には母しかなかった。
 だけどこの二人には、たくさんの人に囲まれている。これからどんどん世界が広がっていくのを思うと、うらやましい。
 きっと楽しいことばかりじゃないと思う。辛かったり悲しかったりいろんな感情を覚えることだろう。
 透明の心のキャンバスにこの子たちはどんな色を乗せて行くのだろうか。その手にあるパレットにはどんな色が乗っているのだろうか。

「仮面ライダーブラック!」
「じゃあぼくはクウガのアルティメットフォーム!」

 どっちも黒かよっ!

「アルティメットフォームはきちんとめがあかいんだぞ!」

 二人の会話を聞いていると、色を混ぜないできちんと独立していることを知り、安心した。黒さえも塗りつぶすほど強烈な色をきっとこの二人ならつかむことができるだろう。

「咲絵は何色だろうね」

 なんとなくそう話を振ると、

「しろだよ! ほら」

 二人は同時に咲絵を指さす。その瞬間、けぽっと飲んだばかりのおっぱいを戻してくれた。

「うわぁ、タオルっ!」

 うん、確かに白い。そして妙な予言をするな。
 二人はそれぞれの手にタオルを持ってやってきた。甲斐甲斐しく世話をしてくれるのはうれしいんだが、タオルは一枚でいいんだ。
 どちらのタオルを使うのかでけんかを始めてしまった。もう、好きにしてくれ。
 文緒は苦笑しながら二人を見ている。俺は気がついたら二人のけんかに巻き込まれていた。

 幸せの色は何色なんだろう。
 俺はその色を知ることができるのだろうか。
 それとも、すでに知っているのに分かっていないだけなんだろうか。


「今度はサイクロンジョーカー」
「ぼくはアクセルで!」

 二人はポーズをとって変身して見せている。

 まだ二人のキャンパスは小さいし、パレットも小さい。絵筆の使い方だって下手くそだ。だけどこうして何気なく暮らしていくうえでも刺激を受け、たまには刺激的な探検をして新しい世界を見つけて行く。色の見つけ方も上手になり、色の選び方も絵筆の使い方もうまくなる。
 二人にとって理園と行った「たんけん」はとても楽しかったようで、思い出したかのように話をしてくれる。二人の話を聞く限り、あの池はあの時と変わらず存在しているようだ。幸せ・願いを抱えた人が来るのをきっと待っている。
 俺が行けなくなってしまったのは、この二人と出会ったからかもしれない。文緒にも幸せをたくさんもらったが、二人からはもっともっと、今までの人生のあの苦しい思いを帳消しにしても有り余るほどの幸せをもらった。それは眩しすぎて色を確認することができない。だけど俺はきちんと色をつかみ、心のキャンバスに描いている。

 この子たちも同じように今、この瞬間の何気ない時もきちんと色をつかんで描いているのだろう。
 子どもたちの無限のキャンパスの上に塗られた色を想像して、俺の心は温かくなった。

【おわり】

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