【番外編】『真理と摂理』《プロローグ》
辰己真理(たつみ しんり)と辰己摂理(たつみ せつり)。
このふたりがこの世に生まれ出た日、記録的な雷雨に見舞われていた。それは、このふたりのこれからの人生を表しているかのようで……ふたりの父である辰己一伸(たつみ かずのぶ)は不安な面持ちで、暗雲立ちこめる空を見上げるしかほか、なかった。
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一伸は妻を病気で亡くしていた。
ふたりの間には子どもはいなかったが、一伸はなによりも妻のことを愛していたため、周りが次の妻を、とさまざまな人間を連れてきたが彼は首を縦に振ることはなかった。
彼が四十歳を過ぎた時。ひとりの少女に一目ぼれする。少女は十六歳になったばかり。
樺茶色の癖のある柔らかい髪にはかなげな風貌に似ても似つかぬ意思の強そうな光を宿したハシバミ色の瞳。どこか厭世したようなその雰囲気に、一伸は心惹かれていた。
ふたまわり以上も年が違うことに周囲は猛反対したが、一伸はその反対を押し切り、結婚した。
名は実弥(みや)といい、身寄りのない娘だった。周囲の者は財産目当てだと実弥をいじめた。日に日に弱っていく彼女のためにと思い、彼は話し相手を雇った。実弥は彼女のおかげでずいぶんと明るくなり、一伸は安心していた。
そして実弥は、一伸の子を身ごもった。
出産が近づくにつれ、暗く沈む実弥を気にしつつ、一伸はその頃、仕事がとても忙しく、実弥のことを気にとめてはいたが、おろそかになっていた。それがのちに取り返しのつかないことになるとは思わず……。
そうして記録的な雷雨の中、真理と摂理がこの世に生を受けた。