FESTIVAL D'AVIGNON

アヴィニヨン演劇祭公式ガイド 01


■アヴィニヨン演劇祭とその歴史

 プロヴァンスの主要都市アヴィニヨンは、日本の皇居程の大きさ
の城塞都市。毎夏ここで国際演劇祭が開かれる。
 期間は 3週間ちょっと。人気劇団を招待しての正式上演"IN"が市
の中心で、各国からの大小劇団の自主上演 "OFF"が市内外の劇場で、
連日公演を繰広げる。

 訪れる観客は10万人以上。朝から深夜までの公演と劇団の呼込み、
大道芸人とその人垣で、街はごった返す。 創始は1947年終戦直後、
演出家ジャン・ヴィラールにより教皇庁中庭での「芸術祭週間」が、
演劇祭の発端である。戦後の復興への欲求に、演劇の地方分権化と
民衆への開放という彼のテーマが重なった。
 
初期は創始者中心に続けられ、60年代に入って多様化し始める。
自主上演や舞踊も加わり、71年には"OFF"が定着する。五月革命を
経た70年代は、反テクスト主義の米国の諸劇団との葛藤、反商業主
義演劇の再検討がなされる。 80年代は演劇祭側の運営機構と、文
化政策による国の補助が強化。現在は、巨大化する祭祀の弊害と、
主題再検討が問われているが、来る2000年は、欧州文化首都の一つ
に選ばれている。 

■'98"IN"の模様

 演劇祭の模様は連日ル・モンドなどの新聞をはじめ、メディアで
も大きくとり上げられている。昨年、'98"IN"をその劇評等の記録
から覗いてみよう。

 中心会場の教皇庁中庭では、ストラスブール民衆劇場(TNP)の
『僣主オイディプス』が注目を集めた。独ロマン派詩人ヘルダーリ
ン版の脚色戯曲を、仏訳のラクー=ラバルトと、劇場支配人ジャン
・ルイ=マルティネリの共同演出で、神話的興奮をわき上がらせた。

 他にシェイクスピアの『おわりよければすべてよし』が、イリナ
・ブルック演出、太陽劇団の俳優により上演され、古典の息吹を現
代に再確認させた。

 仏古典では『ル・シッド』が演劇祭では51年ぶりに英国人D・ド
ネランによるテクスト尊重の演出で上演された。

 外国文化特集では<アジアの欲望>がテーマ。台湾の京劇風『マク
ベス』が台湾コンテンポラリー・レジェンド・シアターのアクロバ
ティックな上演で注目された。また日本から唯一、京都の神社の宮
司、飛騨富久と仏人振付師スーザン・バージの共演した「MATOMA」
による雅楽+現代舞踊が、野外ステージの月光の下、上演された。

■'98"OFF"のプログラムを見る

 アヴィニヨン演劇祭は演劇ファンならいつか行きたいと思うはず。
昨1998年の開催期間は7月10日から8月2日。

 それでは'98"OFF"のプログラムを覗いてみよう。プログラムの大
きさはA3版弱。赤黒二色刷りの、いわば巨大な"ぴあ"である。これ
は開催中街頭で無料で配布され、500 もの上演を網羅している。観
劇料金は大抵90F以下、2000円ほどだ。

 インデックスは、作家名(395←カッコ内は98年数、以下同)、
新作(166) 再演(268)作品名(500) 劇場(市内近隣103) 時刻 (10:00
〜23:00、時に真夜中アリ) 劇団(364)、加えて、子供向け(38)  大
道芸(8)の順序。多様な項目から公演を探せる。冒頭の<新作  再演>
という項目分けは、演劇からの新鮮な発語に耳を澄ます、フランス
文化の特色を感じさせる。

 作家名を見ると、トップがモリエール(10)。ラシーヌ(5)、マリ
ボー(6)など仏古典は人気が高い。今世紀で多いのはベケット(6)、
デュラス(5)。 他に、ユゴー(2)、ミュッセ(4)、ジャリ(2)、プレ
ベール(3)、イヨネスコ(3)。仏語圏以外ではホメロス(3)、シェイ
クスピア(2)、チェーホフ(2)、カフカ(2)、ブレヒト(3)、ピンター
(2)。古典、準古典、他に新作と多様にある。

 さて、参加する劇団の出身国を見ると、地元仏からが圧倒的。外
国陣は、ロシア(3)、ベルギー(2)、伊、スウェーデン、スイス、米、
ブラジル、イラク(各1)で、最多出場国は日本(5)でした。

 その日本からの参加者では、夏木マリの「アンプレショニスト」
(初演 '73年)が今年パリで再演。人間彫刻の大道芸人、雪竹太郎
('83年〜)は一人にして出し物2つ。'97年に参加のDA・Mの実験演劇
「アルク」は、昨年東京に"凱旋公演"を果すなど、各人がんばって
いる。

 最後に、プログラム表紙を見ると、世界各国の文字の波涛の上に、
赤い紙の帽子が乗っている。"情熱の赤"の"遊びの帽子"が、ロゴス
の頂点に浮いていて、演劇祭が象徴されているようだ。その波の影
は、飛びたつ鳥。アヴィニヨン演劇祭の意気込みが伝わってくる。

 今年、日本からはこんにゃく座などが"OFF"に初参加を予定。あ
なたも10万人の入場者に加わってみては?

 次号では、<南アメリカ>特集の今年の演劇祭の"IN"のプログラム
を中心に紹介する。
 
 

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