特集5

「遥かなる人民の鐵路」

[予告編]

1989年春、デトニこと拙者は二度目の「転職」を控えていた。それは、同時に「伏魔殿」へ踏み入れることを意味していた。大好きなヨーロッパの鉄道どころか・・・「鉄趣味」すら続けてゆくことが出来るのか?絶望と不安だけが心をめぐる、新時代「平成」のスタートであった。チャンスは、今しか無い。「前職」を早めに辞し、「旅」に出ることに決めた。卒業旅行を皮切りに(大学時代に、日程に縛られない海外旅行に行かなかったことが、今でも悔やまれる)ヨーロッパは計3回、台湾に1回「鉄」旅行に行っていた。今回は・・・「どうせなら、今まで以上にスケールの大きな旅行に!」と・・・久々に意気込んだ。

構想時点では、ユーラシア大陸横断!後に大西洋を渡る・・・といった壮大なものであったが・・・次第に「現実的」な行程へと変化してゆく。最終的には「ユーラシア大陸」に収まったとはいえ、出発時点では全行程1ヶ月を超える「大旅行」の計画であった。

「持ち前の性格」(準備こそ旅行の楽しみ)故、多くのホテル・指定券類は事前に確保したものの航空券は、オープンチケットすら持たない「片道切符」!ホテルの予約も無いところが多かった。まず成田から乗った便は、日本人の姿など見当たらないPA(パンアメリカン)の北京行きビジネスクラスでした。

この旅行では、(鉄道の撮影が思うように出来ない?)中国・ソ連(当時)という社会主義国が含まれていたので、この両国では、珍しく「観光」を計画した。それでも、通り一遍の観光旅行にしたくは無いので、北京到着翌日の市内観光を終えた午後に乗り込んだ列車は、「旧満州国」の首都、長春行きの夜行列車「59次特快(北京15:50⇒長春6:18)」であった。


59次特快・7号車軟臥車専任の車掌。当時、鉄道乗務員の女性進出の光景は「社会主義国」の象徴のように映った。これから、数年もしないうちに・・・車掌は勿論、運転士も・・・日本に生まれる。台車は・・・「シュリーレンタイプ」のようだ。


「中国東北部」といえば、我々にとって連想するのは「残留孤児」と「SL」。時々、雑誌の写真で見るSLは、「迫力ある大型機」で、それも「急速に減りつつある」くらいの興味と知識しか持ち合わせずに「59次特快」の客となった。2月とはいえ、大陸の陽は長い。80キロ前後で、悠然と走る列車の車内には、中国語の歌が朗々と流れる。今までは「やかましい」としか感じたことが無かったが・・・ここでは・・・何ともいえない響きに聞こえる。列車の悠々たるペース、雄大な夕陽にぴったりのBGMだ。頻繁にすれ違う、長大編成の貨物列車。幾重にも交錯する線路。鉄道大国の象徴だ。線路沿いでみかける「人民」には・・・我々とは違う時、が流れているようだ。

車内は、2段寝台のコンパートメント。車端部に、大形の給湯器が備えられているのは、ソ連などと同じ。乗客は、持参した独特の「蓋付き湯呑み」でお茶を「すする」。「軟臥車」は、半ば外国人専用。同室したのは、長春の英語学校に赴任するアメリカ人の老教師であった。北京発車時にガイドが予約してくれた食堂車で夕食をとり・・・外を見れば一面の闇。列車の明かりに照らし出された線路脇の水路をみると、完全に凍りついている。暖冬とはいえ・・・「満州」は寒いのだ。


北京駅(現在は、どうなっているのでしょう?)にて「北京型」ディーゼル機関車を先頭に、発車を待つ「59次特快」。ヨーロッパの香り満点だが連結器は・・・何と「自連」だ!

59次特快のサボ。おなじみ、コルゲート入りの普通鋼製。かなり、「軽量化」しているためか、事故の際は「くの字」に曲がった痛ましい姿が眼に焼きついている。すべて、「英語発音標記」がある。日本語に比べ・・・国際的な・・・感じがする。

拙者が乗車した「軟臥車」の車体表記。「RW」は英語読みの頭文字。「24」は定員だろう。下の絵は、台車センターピンの位置か?ソ連への直通列車は、国境駅で台車交換をするから・・・納得がゆく。このクルマにはコルゲートが・・・無い。

「軟臥車」コンパートメント内の様子。手前のコップは、乗客に貸し出されるもの。紅茶ティーバッグは、同室のアメリカ人英語教師に頂いた(^.^)。身の回り品などを入れておく「網」は、日本と同じだ。独特のレースカーテンが目を惹く。窓は、凍り付いている。

1989年2月17〜18日撮影

共通データ:アサヒペンタックスSPF SMCタクマー35ミリF3.5・24ミリF3.5

TMX T−MAX depelopper 1:4  24℃ 6.5min.


凍てつく、長春に到着した。暖冬とはいえ・・・「寒い」というより「痛い」!寝台車のレースカーテンの様子がよく判る。そして・・・客車の屋根越しに・・・夢にまで見た世界が展開していた。

1989年2月18日  長春

キャノンEOS650 EF35-70(35) F3.5〜4.5 PKR  見事な、手持ちスローシャッターだ(゚-゚)v!

お待たせしました(*^_^*)


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