OSTRACISM CO.

三宅島からのメール


Subject: ちょっと重たい話です
From: IKEDA Yutaka <pushuca@mac.com>

 いけだ(大学合同・三宅島調査グループ)です。

 たくさんの人が自主避難している三宅島のことです。

 三宅島は今報道されているより少し危険な状態にあります。そのため、多くの人が島外に脱出を図っているのですが東京都は全島避難を頑として認めようとしません。

 予知連絡会が山麓での噴火の可能性を否定しているからというのが理由らしい。全島避難をすると島に帰ってこないのではないかという発言もあります。

 伊豆大島の時の前例から、火山災害の危険をマグマ噴火に限って想定しているようです。

 最悪の場合、噴石が山麓までとぶ…との悠長なコメントも出しています。
 勿論噴石はそれだけで十分に危険です。しかも噴石は既に山麓までとんでいます。裾野に鉢巻き状に付けられた都道に直径50cmの噴石が突き刺さっているのが見付かっています。18日の噴火でひとりの死傷者も出さなかったのは殆ど奇跡です。

 私たちは86年伊豆大島の調査で山頂付近の尾根に雲仙普賢岳で見られたような火砕流による堆積物を見つけ出しました。普通火砕流は地表を上から下へ流れ落ちるものです。山頂付近の尾根にそこより上の地面はありません。

 つまり、空から火砕流が降ってきたとしか考えられない。

 その後の調査によって同様な堆積物は三宅島や神津島からも発見され伊豆諸島に特徴的な現象であるらしいことも分かってきました。

 これらの堆積物はその直下に非常に硬い火山灰を伴う特徴があります。あまりに硬いのでカタと呼ばれています。

 そしてこれらの堆積物に覆われた多数の縄文遺跡があり、その後遺跡は途絶えます。

 伊豆諸島では同じような形式の噴火で縄文文化が壊滅しているらしい。

 8月18日17000mの高さに噴煙を上げる噴火が三宅島でありました。
 報道されている8000mという高さには根拠がありません。
 私の17000mという数字は噴煙が成層圏まで達しているという事実、(気象庁の8000mもこの事実からの推定だと思います。成層圏と対流圏の境界は最低でも8000mと考えられる。しかし、夏季には上昇気流の活発化によって境界が上がり平均15000mくらいになります。)
 新聞その他に掲載された複数の18日の噴煙画像とその撮影位置から計測すると少なくとも10000m以上の高さが必要であること、噴煙が南に流されているNASA画像が公開されていること、
http://visibleearth.nasa.gov/cgi-bin/viewrecord?2550
18日の高層気象観測で17000m付近に南への気流が確認されていること、以上のことからの推測です。これだけの高さにまで上昇した噴煙は滅多に無く、ピナツボ以来の規模であったといえます。

 10日以降、三宅島に降っている火山灰は実に厄介な代物で乾けば舞い上がり、少し湿るとすぐにカチカチに固まってしまいます。もう少し水が含まれると簡単に泥流化します。

 私たちはこれがカタの正体なのではないかと考えています。

 一度風化した岩石類が再び熱されて噴出した。と考えると風化物が石膏化または消石灰化しそれがセメントの役割を果たすならばすぐに固まることが説明できます。

 現在三宅島の山頂は昔八丁平だったところが大きく陥没し、すでに11億トンもの物質が地下に吸い込まれています。この現象は三宅島雄山の直下に直径50m長さ3000mの煙突状の空洞があると考えると事実に矛盾の無いシュミレーションが出来ます。

 ここに来て86年に見出した堆積物の意味がはっきりと見えてきました。

 急激に下がっていったマグマの残した空隙に岩や砂や泥そして水などが大量に落ち込み、何らかの切掛けでそれら飲み込んできたもの全てを再び一気に吐き出してしまうような噴火があったのではないか。

 噴煙が火砕流で出来ているような噴火。それが私たちが考える最悪のシナリオです。

 伊豆諸島の縄文人を絶滅させた噴火と今私たちが目撃している三宅島の現象とは同じものではないかということです。

 今、三宅島は咳をして沢山のカタを放出しています。いつ三宅島が嘔吐に転じてしまうか誰にも分かりません。(しないかもしれません。がその方がいいに決まっています。)

 山麓での噴火、またはマグマの噴出が予知連絡会から報告されていないということを根拠に著しい生命の危険があるとは考えられない。と結論する東京都の説明はあまりにも意味がありません。

 私たちは火山噴火予知連絡会でこの考えを報告し東京都に全島避難を働き掛けるとともに三宅島の方々に自主避難を呼びかけてきました。

 27日現在全島民の3分の1ほどが島を出ました。

しかし、確実に危機を回避することが出来ること島のコミュニティーをそのまま移動することが出来ること避難解除後の生活保障の担保を迅速且つ確実にとることが出来ることから全島避難命令が出たほうが良いことはいまだ変わっていません。

 とりわけ乳児、未就学児に関しては全島避難に繋がるという理由で避難指示すら出ていません。

 私たちは越権行為を含め、三宅島の危険回避、パニック回避のために出来うるかぎりのことをしようと考えています。

 しかし、いたずらに危機感や闘争心を煽るような結果を期待していません。

 ひとりでも多くの方に、東京都で起きている出来事を伝えることは必要なことだろうと考えメールというかたちで送信させていただきました。私たちがわかっていることを出来るだけ正確に伝えようとしたため
小難しい文章になってしまいました。おわびします。

 何事もなければよいのですが、何事もなくても前例と因習と政治性に縛られた東京都の意思決定方法は
あまりに無責任なことは明らかなので何とか変えて行けたらなぁ…とも考えています。

 自分たちが災害に出会ったとき同じような目に会うのは避けたいものです。

 ほんの少しだけ、三宅島へ関心を向けていただけると幸いです。

 騒ぎが収まったら三宅島に足を向けてみて下さい。良いところです。

P.S.
 村営牧場は噴石のクレーターで月面状態です。牛が何頭も死んでいました。

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IKEDA Yutaka
2000.08.28