オープンスクールで中学生の諸君に講議した要旨です。毎年の第1回目の生物の授業で行なう内容を,講議しました。
『生物で何を学ぶか』

生物学は,3種類の疑問を「何が(What)」,「いかに(How)」,「なぜ(Why)」を明らかにしようとする科学の一分野です。具体的にはどのような仕事なのでしょう。
地球上のどんな場所にどんな生物がどんな生活をしているか,生物学者たちはそれを一つひとつ丁寧に調べ,記載してきました。この作業は,現在も続けられています。というのも,現在地球上で生活している生物は2千万種類ぐらいだろうと考えられていますが,名前のついている生物は200万種類ぐらいしかありません。未知の生物の中には,すごく変わった形をしたものや,変な生活の仕方をするもの,あるいは人の生活にすごく役に立つ物質を作るものもいるかもしれません。
二つ目の「いかに」は,「仕組み」を明らかにしようとする作業です。生物が生きていく・子どもを作って子孫を残していくのに,どのような仕組みが存在するのか,さまざまな実験の繰り返しから,目に見えない仕組みが明らかになりました。植物が水と二酸化炭素だけからどうやって有機物を作ることができるのでしょう。たった一個の細胞からどうやって何兆個も細胞が集まった複雑な構造と仕組みを持った多細胞生物の体ができるのでしょうか。まだまだわからないことはたくさんあります。
ここまでの二つの疑問「何が」「いかに」は物理学,化学,地球科学といった自然科学すべてに共通した疑問です。どんな自然現象がありそれがどんな仕組みで起こるのか,科学者は「仮説を立て」,「観察や実験で仮説を検証」し,「理論を確立する」という,定まった作業で明らかにしてきました。しかし3つ目の「なぜ」は生物学以外の科学ではその守備範囲を超えています。たとえば,「なぜ空は青いの?」という疑問にはその仕組みは説明できますが,「なぜ」青くなくてはいけないのかという疑問に答える術(すべ)を科学は持っていません。でも,「ニワトリのとさかはなぜ赤いのか」という疑問には,赤い色素が化学反応によって作られるという仕組みの説明とは別に,赤くなくてはいけない理由を説明することが,ちゃんと自然科学の方法でできるのです。その理由は,生物以外のものにはできない,生物だけが「進化」した(する)からなのです。
すべての生物は進化の結果として現在生存しています。そして今も進化を続けています。中学まで学んだ理科には「なぜ」という概念は含まれませんでした。今,「なぜ」という疑問を持ちながら,身近な生物をあらためて観てみましょう。



当日は熱心に聞いてくれてありがとうございました。オープンスクールの詳しい様子は武生高校HPで。

▼10月へ   ▲「理数生物」授業日誌表紙へ    ▲武生高校ホームページへ