はがき随筆           (日付は毎日新聞掲載日) 
     柴田初子                                 

 2010

 



     一冊の本 
       2009.12.29
                                 音読の会を始めて5年目を迎えた
                                 楽しく読むという主旨が効いて、あまり上手くなったとは思えないが、
                                 いろいろなジャンルの本にめぐり会える面白さがある。
                                 
                                そんな中で私は新聞の切り抜きを主に読んでいる
                                毎日の記事のなかで、これはという作品を選ぶのは朝一番の喜びである

                                 余談、女の気持ち、男の気持ち、コラム等
                                 切り抜いた新聞のファイルを読み返してみると、さながら一冊の本である。

                                来年はどんな本になるのか。
                                心に残る作品に出会いたいものである。  
 


     ついおく 
       2009.11.29
                              GHQが米国に持ち帰った「ベランゲ文庫」から見つけたという 「ついおく」
                              それが別府公園で約60年振りに復活演奏されました。

                              高校入学時には米軍基地、卒業時には自衛隊駐屯地だった、
                              この地を通学した思い出がよみがえりました。
                              
                              演奏した自衛隊第三特科群の音楽隊OBでつくる「サウンド70」の
                              平均年齢は70歳だとか。美しい歌声を披露した田北りえさん、
                              古希を迎えた私には最高プレゼントとなりました。ありがとう私の青春。

                              平和への願いを心に強く感じた秋の一日でした。  



     いのち 
       2009.10.16
                           救急車を乗り継ぐこと3回。
                           その度に「命の保障はできません」といわれ、死の覚悟をしたあの日を思い出す
                           病名腹部大動脈瘤破裂、父の96歳という年齢からすると、何が起きても不思議ではない。
                           
                           あれから一ヶ月が経ち、父は顔色もよく食欲旺盛で、リハビリに励んでいる。
                            
                           毎日ベットに広げた小さなノートに、日記を綴っている。
                           生きようとする力を後押しする神様が、この世に存在するようにも思える
                           
                           100歳という夢の坂を父と共にに上がっていこう。
                            


   どっち・? 
       2009.9.14
                         最近主人の物忘れがヒドイ。
                          昔のことはよく覚えているのだが、新しいことがらに対応が出来ない。 
                           「それは心配、早く受信したほうがいい、今はよい薬があるのだから」

                          周りの声に後押しされるように診察を受けると、
                          「昨日食べたものを思い出せますか?」と先生
                           「いえ、思い出せません」と主人
                           「ええ、いつも主人がつくります」と私
                          
                         「何を食べたか忘れても問題ではありません。認知症になると料理はできません」と先生
                            
                            最近料理は主人任せの私。
                            受信すべきは私? 
                            心の中に濃い霧が立ちこめてきた
 


     ・・・ 
       2009.7.26

                            ちょっとしたはずみで右手首を痛めてしまった
                            右手が思うように動かないので、左手が支える
                            包丁を持つ手も、物を持つ手も、ペンを握る手も。
                             時には左手が主役となる。

                              利き腕が使えないとなると動きが制限されるとあって
                              もっか本を読むことに集中している。
                              
                            毛利恒之著 「月光の夏」。
                            昭和20年初夏、学徒出陣の特攻隊員二人が、
                            鳥栖の小学校で、ベートーベンのピアノソナタ「月光」を弾き、
                            沖縄の空に出撃して行った。
                             
                              戦時下、数多くの青年が潔く命をすてさせられた。
                              平和の願いを、月光に託す。 


    忘れていたもの 
       2009.4.24
                         すがすがしい緑の中を高崎山に
                         点在する山桜を左に見ながら、別府へと帰る。

                           春霞の中をどっしりと落ち着いた
                           たたずまいをみせる鶴見岳は父のよう。
                           その後ろに控えめな由布岳は母のよう。
                           その二つの山に抱かれ悠々と横たわっているのは扇山
                           のんびりおっとりの長男かな。

                         目を右に転じると国東半島がゆるやかなカーブを描いている。
                         今日の別府湾はおだやかで、カモメが数羽、海面を低く飛ぶ。
                         いつも見慣れたこの風景、海あり、山あり、温泉あり、

                          豊かな別府に生まれ育ったことを感謝したい。


   ゆとり   
      2009.3.11

                          昨年の暮れ、3人からシクラメンをいただいた。
                          赤は細身ながら外の寒さにも耐え、
                          何事もなかったかのように元気だ。

                         深紅は少し太めで、水をしっかり吸い上げると、
                         冷たい風にもめげず、すっくと花茎をのばし、
                         大丈夫よとでも言いたげだ。

                           薄いピンクは寒さに耐えられないと、ぐったりしてしまう。
                           日中は外で日に当て、夜は室内にと手間がかかる。
                           元気なのあり、弱いのあり。 みんな違ってみんないい。

                          政治には閉塞感があり、
                          もはや笑うしかない状態になってしまった。
                          こんな時にこそ、花と語らうゆとりをもちたい。


   焦らず    
      2009.1.27

                          今年は原点にかえり、着物を着ることにしました。
                          白足袋をはき、こはぜできゅっと足元をしめると、
                          気持ちまで引き締まってきます。

                          着物って不思議。 足元。袖口。
                          裾から風が入ってくるのに暖かい。
                          祖母の着古した袖の袷は
                          何度も水をくぐって軽くなり,肌になじむ。

                          おばあちゃんから「がんばりなさいよ」と
                          背中を押されているような気がします。

                          100年に一度の恐慌といわれるスタートになった新しい年。
                          祖母の着物から伝わってくる暖かさは、
                          私に生きる力を与えてくれます。

                          焦らず、目立たず、今年も頑張りたいものです。



 ゼッケン 364   
    2008.11.13
                        今日は行橋・別府100キロウオークの日。
                         ゴールとなる近くの公園から、
                         早朝より完歩者を迎える拍手が聞こえてくる。

                         みなさんしっかりとした足取りで感心していると、
                         テープを切って記念撮影が終わるや、
                         緊張がとけたのか揃って足元から崩れていく
                         大変なことを成し遂げた証しである。

                          昼過ぎに立ち寄ると、
                          男性が椅子に座りアコーディオンを弾いている。
                          ゲートに誰か着くと、
                          曲目を変えながら次々と弾き続けている。

                          参加者のみなさんは、この音に癒されたでしょう。
                           ゼッケン364 お疲れ様でした。