特殊法人から独立行政法人へ

(国立コロニーを取り巻く情勢)

特殊法人心身障害者福祉協会国立コロニーのぞみの園(厚労省直轄)は、2003年10月より、独立行政法人「国立のぞみの園」となります。(他の32特殊法人同様)新法人に移行するとともに3年〜5年で縮小、あるいは廃止(解体)まで、現在、検討されています。

この間のおもな経過

2001年   7月 特殊法人改革推進本部(本部長 小泉純一郎)
       10月 独立行政法人化決定(特殊法人合理化計画)
2002年   8月 国立コロニー独立行政法人化検討委員会発足
       10月 特殊法人の廃止、
            独立行政法人の設立等についての基本方針
           (特殊法人改革推進本部決定)
2003年   1月 厚労省が脱施設化を発表
(知的障害者はどんなに重度であってもノーマライゼーションの理念に基づき地域での生活を可能にする考え方。)
           石原東京都知事、宮城県浅野知事が賛同
        5月 国立コロニー独立行政法人化検討委員会中間まとめ発表
保護者会への説明会 岡田座長 国公立施設は有害無用、職員はレベルが低いなど発言
        8月 最終報告発表

中間まとめ要旨
@ 基本的に新たな入所者を受け入れない。
A 地域移行を進め、定員規模を段階的に縮小する。
B 現在の入所者を半減させる。   
 というものでした。これは国立コロニーの解体・廃止を意味するもので、その上、時代がこれを要請している、とまで言っています。(現在コロニー入所希望は60人以上)
 その上、中間まとめにあわせ、日本知的障害者福祉協会と全日本手をつなぐ育成会の2団体が声明を発表し、それを新聞が大々的に報道するという方法でした。
 日本知的障害者福祉協会は
「今回の国立コロニー独立行政法人検討委員会中間とりまとめについては、入所者を出身地へ地域移行させることを、国自らが政策を推進する立場での検討委員会まとめであると考えられ、協会としてもこれを評価するともに、国立コロニー入所者の地域生活(出身地)への移行に伴う地域生活での支援を推進することとしたい。・・・・」
 全日本手をつなぐ育成会の声明はもっとひどく、
「・・・障害のある人にとって、30余年はあまりにも長い時間でした。多くの方が生まれ育った地から遠く離され、地域との交流もないままに過ごさざるを得ない生活でした。そのような状況を変えることができなかったことに、私たちは心から謝罪をしたいと思います。・・・・・」 
特に、毎日新聞では「戻っておいで古里に」「30年以上の隔離」と報道し、ハンセン病患者を連想させる内容で報道しました。
 これに対し、コロニーの入所者の保護者会は
「国立コロニーは、国により、他の施設では受け入れが困難な重度の知的障害者が、生涯にわたって、安心して生活が送れる場所として設置されました。
 保護者とその家族は、家庭が崩壊寸前の所を国立コロニーに入所できたことで救われております。
 その支援体制は、専門性を持った職員の方々の日々たゆまぬ努力によって培われております。どこでも誰でもができるものではありません。
 かつての私ども保護者やその家族と同じような思いを持ちながら、施設入所を待ち望んでいる保護者や家族は、この世の中に多くいます。私どもはむしろ幸せであると思うと同時に、国立コロニーのような施設はもっと必要なのではないかと思います。・・
中間とりまとめは・・・・今日の時代の要請に応じて転換していくための政策目標としては入所機能に関し、可能な限り大幅に縮小との記述がありますが、検討委員会は、国立コロニーの解体や職員のリストラを行うことを目的に議論しているのではないでしょうか。
時代の要請とは具体的にどのようなことか、入所機能の大幅な縮小を時代は要請してるのでしょうか。この記述については、ことさら大きな不安と怒りを覚えます。・・・」
と反論していますが、検討委員会は少数意見として処理し、全く相手にしていないというのが現状です。 
この数年、特に政府が社会福祉基礎構造改革の基、老人介護保険などに見られるように施設も民間企業の参入を奨励し、老人施設などは今やタケノコのように作られています。
 次は知的障害者福祉、精神障害者福祉が狙われているわけですが、その中でもとりわけ国立コロニーに対しては、最近、国の補助金(約30億円)が高い、職員の給与が高いなどバッシングが強かったのですが、小泉内閣のもと特殊法人改革と社会福祉基礎構造改革の両方からいっきに情勢が変わってきました。(ちなみに施設で補助金を受けてないところはありません)
 その上、北欧、アメリカを中心として入所施設は解体し、地域で生活を始めていることが世界の動きだということも厚労省は攻撃の材料にしています。
 しかし一方では、単に地域移行(出身地に帰す)を政府と厚労省が言い出していても現実には国立コロニーの入所者の最高齢者は80歳(平均年齢53歳)を過ぎていて、出身地には親も亡くなっていれば、家族もいないという人もおります。だいたいが保護者は兄弟姉妹となってきており、その保護者さえ高齢化している現実があり、面会・帰省などはできなくなっているのが実状です。
 関東近県の自治体(受け入れ先)でも、国立コロニーの地域移行については、
@ 地域移行を進める上で、本人にとっての不安材料は、金、独り暮らし、地域の反対である。
A 地元といわれても受け入れ体制はない。
B 国民健康保険、介護保険は所在地の市町村になることから障壁となる。財政的負担については、住所地特例が必要である
C 重度の方の地域移行は難しい。重度の方の地域移行の課題整理が必要である。
D 地元に戻しますよと言われても、これから先に進めない。
と言った意見で占められていました。要するに最重度の方については準備がないことを表明しているわけです。しかし、厚労省はこれらの自治体に予算の脅しをかけても引き取らせる、と言っているそうです。
 諸外国では、たとえばアメリカにおいても入所サービスで、利用者一人あたりの月額約150万円、グループホームでは45万円前後(カナダも同様)、日本は一人あたり月額約24万円、重度加算25%なら約29万円(2003年4月より支援費となる)。生活ホームなどは約7万円です。 このようにアメリカでさえ日本の何倍ものお金をかけています。それは主に人件費です。アメリカの職員配置基準はサービスにより異なり、利用者4〜8人対職員一人(実際処遇場面)です。(日本4.3対1だが24時間体制だと実際は少ない)非常に手厚いケアができています。
 日本で知的障害者が施設を出てグループホームを利用できるのは、身辺自立し、経済的負担能力のある人が中心です。言い換えれば身辺自立できていない重度・最重度の方は、現在の体制ではほとんど不可能ということです。アメリカではグループホームに45万円前後かけているので、施設に入所するような重度の人も地域生活に移行しやすいのです。入所施設を解体して知的障害者が地域生活へ移れるのは相応のコストをかけていることが前提にあり、日本政府・厚労省や検討委員会の言うこととは事情が異なります。

効率化・マニュアル化はできない
 福祉サービスや社会保障制度は質を得るには費用がかかります。その上、福祉は対人ケアであり人(職員労働者)が大切な資源です。福祉の核心は価値観も能力も特徴も違う人間が分かり合っていく大変さであり、効率化・マニュアル化といった合理化はできません。
 「国立コロニーは国で唯一の知的障害者施設である。地域移行を実践し、施設を解体できることをモデルとして示せ」と、今、厚労省・検討委員会は迫っています。
 小泉内閣は口を開けば構造改革といいますが、群馬県高崎市の国立コロニーで生活している507人の重度の入所者及びその保護者、そこで働く約300人の職員がこの小泉構造改革の考え方の犠牲にならなければならないのでしょうか。
 多くの専門的見識からすれば、現在の支援費制度、及び障害者福祉の実態から、重度・最重度の知的障害者の地域移行実践は弱者切り捨てになってしまう畏れが充分想像できます。