一行と別れて、下宿のマンションに戻り、荷物をまとめて、箱根に向かう。
ロマンスカーに乗らずJRを使って、小田原まで行き、箱根登山鉄道に乗り換える。
「これこれ。ここの名物だよな。スイッチバック運転。初めて乗ったとき、運転手がいきなり降りて後ろに歩いてくからどうかしたのか不安になったんだよな」
三井は、嬉しそうに窓の外を見ている。
二人は、小涌谷で降りた。
ここは、小涌園という大きな旅館があって、そこの大浴場が、一大スパリゾートとなっているが、その付近のほかは、かなり人の少ないところだ。
道はほとんどが、坂道になっている。
小涌谷の駅から続く、だらだら坂を登りながら、牧の別荘に向かう。
「何か静かなところだよな」
「そうだな。小涌園の周辺以外は、あまり人がいないよ」
「そういえば、そのあたりっていつも、駅伝中継やってるよな」
「あぁ、何ならそこで観戦するか?TVに写るかもしれないぞ」
「そうだなぁ」
「向こうに行くと小涌園だよ。でっかいポリネシアン風呂とかがあるから、遊びに行くのもいいな」
「知ってる!何かいっぱい種類あんだよな。水着ではいるから、温泉プールって感じだよな」
「そういううのも結構好きなんだろ?」
「う、うん。ゆったりと温泉に入って、浴衣丹前でぶらぶら歩くのが結構好きなんだけど、反面、でっかい温泉リゾートで遊ぶのも好きかも」
「さて、ついたぞ。ここがウチの別荘だ」
そう言って、牧が指差したのは、小さな旅館くらいある古風な日本家屋だった。
「へぇ。何か純和風?」
「まぁ、正面からの見た目はそうなんだけどな。この奥に新築した洋風の建物もあるよ」
「そうなんだ」
牧が玄関を入っていくのに、三井もついてはいる。
「只今到着しました」
「おじゃまします」
靴を脱いでいると、奥から、牧の母が出てきた。
「三井君いらっしゃい」
「すいません。押しかけてしまって。お世話になります」
「あら良いのよ。賑やかなほうがお正月らしいものね」
牧の母は、息子と基本的な骨格があまり似ていない、ほっそりとした色白美人だ。
にこやかに笑って三井を奥に誘う。
「紳一さん、あなたの部屋の隣に三井君のお部屋用意してますから、三井君をお連れしてね」
「わかりました。三井行こうか」
牧は、三井を促して離れに向かう。
離れは、今風の建物だ。
二階に上がり、二間あるうちの手前の部屋を開けて、三井に入るように言う。
「ここが、お前の部屋だ。俺は奥の部屋を使ってるから、何かあったら声を掛けてくれ。さてと、荷物を置いたら母屋のほうに顔を出すか」
そういうと、三井を残し、牧は奥の部屋に入っていった。
三井も、用意された部屋に入って、あたりを見回す。
八畳くらいの部屋の半分は板間、残り半分が畳敷きの変則の部屋だ。
洋間には小さなソファとテーブルがあり、畳の上には、布団が用意されていた。
クローゼットが開いていたので中を見ると、ハンガーが何本かかけてあったので拝借して、持ってきた鞄の中から服を出し、ハンガーに吊るしていく。
クローゼットの中に、バッグをしまって、ソファに腰掛けていると、牧が扉をノックした。
「準備できたか?」
「おう!」
三井は、返事して部屋を出て行く。
二人で、母屋のほうに向かう。
母屋の応接間に行くと、牧の父と母がいた。
改めて、三井が、世話になる旨の挨拶をして、牧の父の勧めでソファに腰掛ける。
これから大晦日と正月をはさんだ1週間ここで過ごすことになる。
牧の兄夫婦は、もう少し先にやってくるらしく、今はいない。
牧の母の勧めで、周りを散策することにする。
上着を持って、家を出て行く。
「相変わらず、牧っておじさんに似てるよな」
「そうか?」
「お兄さんもそろうと三人笑っちまうほど似てるもんな」
「うーん」
「おばさんは綺麗だし、お兄さんの奥さんもすっげー美人だし、目の保養だけどさ」
「それはつまり男三人はむさくるしいといいたいのかな?」
牧が、三井に軽くヘッドロックをかける。
「わりぃわりぃ。でもよ、2代続けて美女と野獣っぽいんだもん」
「俺たちは野獣なのか?」
牧は天を仰ぐ。
「何か、おばさんたちみてっとさ…」
「ウチの男どもは面くいなだけさ。俺だって、三井といると、美女と野獣といわれることがあるの知ってるか?」
「え?」
「バスケ部で、そういわれてるの知ってるか?後、お姫様と執事ってのもあるんだけどな」
「誰が言ってんだよ!」
「先輩方がな…。俺は結構風当たりがきついんだぞ、実は。三井ファンの先輩方が、いつも一緒にいる俺に、あたるんだよ」
「うそ…」
「こんなことで嘘はつかないよ。三井を狙う先輩がかなりいるから、できるだけ、先輩方と二人きりとかになるなよ。先輩方の中にお前一人とかな。他に必ず俺たちの学年の連中をいっしょに連れて行け」
「それって…」
「先輩のお手つきにされたくないだろ?」
「う、うーっ」
三井は、ぜんぜん気づいていなかったらしい。
「三井。頼むから、もう少し身の危険を察してくれよ」
牧は、三井の肩を叩き、話をきった。
小涌園の近くを回り、周囲を案内しながら、翌日からの予定を決める。
翌日から、箱根の森美術館や大涌谷、芦ノ湖の周辺に順々に出かけることにし、年始の初詣は箱根神社に行き、2日からは箱根駅伝を見てのんびり過ごし、4日に東京に帰ことにする。
「明日にでも、小涌園にいくか?」
「うん!水着持ってきたから行く!」
「一日ふやけるくらい遊ぶのも良いな」
「おう!」
夕闇が迫ってきたので、あたりの散策を終えて、家に戻る。
夕食は、牧の母の手料理をご馳走になり、温泉を引いた、母屋の純和風の檜風呂に入る。
「ふえー」
極楽極楽といいながら、三井が体を伸ばして浴槽に浸かる。
ゆっくり浸かってから、風呂を出て、部屋に戻ってソファでぼんやりしていると、牧が冷たい飲み物を持ってきた。
「俺も今から風呂に入ってくるから、寂しかったら母屋に行くといい」
「いや、何かほくほくして、ここでのんびりすんのも良いもんだから、ここにいるよ」
「そうか、じゃ、いってくるよ」
牧が戻ってくるまで、ソファに寝転がってごろごろしているうちに、なんだか眠気がさしてきて、三井は、うたたねをはじめた。
戻ってきた牧が、三井が幸せそうに居眠りしているのを見て苦笑する。
「三井、そんなとこで居眠りしてると湯冷めして風邪を引くぞ」
「うーん…」
「三井、起きないと好き勝手にさせてもらうぞ」
そういうと、牧は三井を抱き上げて、自分の部屋に運んでいった。
「やはり、寝入った人間を運ぶのはさすがに重いな」
部屋に置かれた大き目のベッドの上に、三井を置く。
「三井、いいのかな?」
牧は、三井の首筋にキスを落としながら、パジャマを手早く脱がしていく。
三井に愛撫を続けていくと、ようやく三井が目を覚ました。
「うん?…ん?うわ!牧!何やってんだよ」
じたばた暴れ始めた三井を、押さえ込んで、牧は、答える。
「いや、せっかくの三井の据え膳だから遠慮なく…」
「え、遠慮しろよ!」
「そんなもったいない」
そういうと、三井にキスを仕掛ける。
「う、う…ん」
はじめは抵抗していた三井も、だんだんキスに応え始める。
「まきぃ…」
三井の両腕が、牧の背中に回されると、牧は、三井に見えないように笑いをこらえ、三井の体を開いていった。
結局、牧の思惑とおりになった三井は、その夜、さんざん泣かされてしまったようだ。
そんな毎日が、これから一週間続くことになることを、三井はまだ気づいていない。
牧は、三井が、温泉に浸かると普段以上に無防備になり、かなり牧の無理が聞いてもらえることに気づいていたので、温泉の別荘に誘ったのだということは、三井には内緒である。
牧は、土屋や河田の誘いに乗って温泉に出かけた三井のガードをどのようにするかが、これからの課題だなと、腕の中で、泣き疲れて眠った三井を見て思った。
三井の年越し温泉旅行の第一日目が無事(?)終わろうとしていた。