☆ 三井3
ったく仙道ってば、うじうじ考え過ぎんだよな。
俺が、言ってること信じてないのかな。
こんな事はちょっと恥ずかしいけど、意志の疎通のために仙道に近づいて、肩に手をやると、こいつってば、ぎゅって抱きしめるんだもんな。
キスされんのかと思ったら、ただ、じっと抱きしめてるだけだった。
なんだ…。
はっ、何か、俺、期待してたみたいじゃんよー。
うわーっ、ハズカシー。
じたばたしたら、あっさり放してくれた。
うわっ!
ちょうど桜木が部屋に突っ込んできやがった。
こいつってば、ホントに礼ってもんを知らねーよな。
しかし、あっさり仙道が放してくれてよかったよな。
下手したら、仙道の腕の中にいる所見られたかもしんないんだ。
ひえーっ!やばいとこだった。
フロかぁ…。
こういう合宿所のフロってあんまり好きになれねぇよな…。
ま、ここのは、昨日入った様子じゃ、そんなに酷くねぇけどさ。
温泉は結構好きなんだけどな…。
同じ大浴場でも随分違うよな。
仙道何やってんだ?
さっさと一緒にくりゃいいのに。
さ、桜木のやつっ!
いい気になりやがってっ!
弱点なんか見せたくなかったのに…。
でも、我慢できねぇっ!
誰か助けてくれっ!
ふぅ、やっと落ち着いたぜ。
ったく桜木のおかげで、ゆっくりもできねぇ。
あれ?仙道どうしたんだ?
今頃までぼぉっとしてたなんて、変な奴…。
何か具合でも悪いのかな?
こっち向かねぇし…。
俺なんかしたか?
なんか、面白くねぇからもう先出ちゃうぞ。
桜木―っ!
何いってんだよっ!
宮城までっ!
俺と仙道が妖しい関係だとぉ?
なんでそんなこと言うんだ?
確かにそのとおりなんだけどさ…。
でも、ばれるよーなことしてねぇし、宮城の憶測なら、否定してとぼけるしかねぇよな…。
こんな奴等になんかばれたら、もう明日はとんでもない所まで話し広がってんじゃねぇか?
あっ?
仙道…。
どうしたんだ?
何か、怖えぇ顔してる。
まさか、今の話しマジにとってんじゃねぇだろうな?
それってやばいんじゃ?
まいったな…。
どうしよう…。
とにかく、追いかけて、今の話は、あいつ等をごまかすための作戦だって言っとかないと…。
待てよ!仙道!
☆ 仙道3
なんか、情けなさに拍車がかかってるよな。
三井さん済みません。
三井さんが肩に手をやってくれて…。
嬉しいけど、ちょっと押し倒したい気分になります。
この距離が限界ですね…。
おや?
桜木?
ノックぐらいして欲しいな…。
三井さんとフロか…。
あこがれるけど、今は無理だ…。
躰が反応なんかしたら、口聞いてもらえないかも…。
とりあえず先に行ってもらおう…。
上がる頃を見計らって入るとしよう…。
ゆっくりとやってきたのに、まだ入ってるんですね。
三井さん長風呂なんですか…。
こっちをそんなにじっと見ないで下さい。
あぁ、やっと出ていってくれた。
…。
ちょっとショックです…。
三井さん、同室だから、気を使ってくれたんだ?
まさかとは思うけど…。
何か、どうしよう…。
三井さんとも目を合わすことできないや。
もうだめかもしれない…。
☆ それが答えだ!(再び)
黙々と歩く仙道の後を、三井は小走りにはしっていった。
「まてよ!仙道!」
三井は、ようやく部屋の前で、仙道を捕まえることに成功した。
腕を掴む。
「仙道」
「三井さん…」
「と、とりあえず中にはいらねぇ?」
三井は、仙道を促すと、5号室の中に入った。
「仙道、今の話し聞いて、何か誤解してねぇか?」
「誤解ですか?えぇ、してましたよ。三井さんが俺のこと好きになってくれたって有頂天になってましたけど、それって、大きな間違いだったんですね。三井さんは、同室のオレに気を使って話を合わせてくれたんでしょ。それなのにオレ、舞い上がっちゃって情けないですね…。さぞ、三井さんには滑稽に写ったことでしょうね」
「ち、ちがう!」
「何が違うんです?」
「俺があいつ等に話してたのが、ウソなんだよ!言ってただろ!あいつ等にばれるくらいだったら無かったことにするって!その位ばれたくねぇんだ」
三井は、仙道に、必死になって説明する。
「そんなこと、やっぱり元々が、違うんですよ…。間違ってたんです」
「なんで解んねぇんだ?オレの言うこと信じられねぇのか?」
三井は、仙道の手を取る。
「信じる事が、今のオレには出来ないんです」
しかし、疑心暗鬼になっている仙道には、どうしても信じられないのだ。
「どうすりゃ信じてくれるんだよっ!」
「どうって…」
三井は、少し考えるふうをして、おもむろに仙道に向き合い、彼の両肩に手を置いた。
少し、背伸びをして、仙道に口付ける。
「…三井さん…」
仙道が、驚いたように三井を見つめる。
三井は、首筋まで真っ赤にしながら仙道の目を見て話す。
「解ったか!俺は、お前となら、こんな事が出来るくらいに、お前のこと考えてるぞ。それじゃだめなのか?まさか、俺が、誰とでもこんな事出来るなんて思っちゃいねーだろうなっ!」
「三井さん…」
仙道は、がばっと、三井を抱きしめて、肩に顔を埋める。
「仙道?」
「すみません、オレ、何か自信なくしちゃって…。でも、三井さんが気持ち示してくれて、もうすごく嬉しいです。オレで良いんですよね?」
「解ったんだな?」
「はい!」
「それならいい。これから、変にいじけるんじゃねぇぞ」
「えぇ。肝に銘じます」
仙道は、腕の力を一層強める。
「仙道…。ちょっと苦しい…」
三井が、それに抗議をする。
「あ、すみません。つい…」
「どこにもいかねぇって」
「三井さん…。それ、約束してくれますか?」
「?約束?」
「えぇ」
「あぁ、どこにもいかねぇよ、だから、ちょっと腕緩めてくれ」
「じゃぁ、約束…」
言いながら腕の力を緩めた仙道が、三井に、キスを仕掛ける。
三井が、先ほどした軽く唇が触れるそれではなく、かなりディープなキスだ。
「!…」
驚いた三井が、仙道の胸を叩く。
それを無視して、仙道は、強引にキスを続ける。
あまりの強引なキスに、三井は、息継ぎも忘れそうになり、酸欠に近い状態で気を失いそうになる。
三井の膝から力が抜けて、崩れ落ちそうになるのに、仙道がやっと気付き、キスを終えて三井を支える。
仙道は、力の抜けた三井をベッドにそっと横たえて、三井が正気に戻るまで、髪や額にキスをし続ける。
「三井さん…。好きです。何か、時間が経つごとにどんどん好きになってます…。ずっとこうしていたい。ずっと一緒にいたい。三井さんと一緒に夢を追いかけたい…。オレ、だんだん欲張りになってしまって…。歯止めが利かなくなりそうで怖いです…。」
「せ…んど…」
ようやく我に返った三井は、仙道の、まじめな眼を見て、抵抗をしようと動かした手を元に戻した。
仙道は、再び、顔を寄せて深くキスした。
今度は、おずおずとではあるが、三井も仙道キスに応える。
仙道は、それに勢いづいたように、三井のパジャマの中にそっと手を這わせた。
それには、三井がたまらず抵抗を始める。
「ん、んーっ!」
目に涙を溜めて、躰を捩る三井を、仙道が、諦めて解放する。
「…三井さん…」
泣くほどいやだったのかと、仙道が不安そうに三井を見るので、三井は、あまり言いたくない弱点を申告することにした。
「仙道…。これは勘弁してくれ…。あ、勘違いすんなよ。嫌なんじゃねぇ。触られんのがだめなんだ。俺、背中とか、脇腹とか触られんのすっげー弱いんだ…」
「え?そうなんですか?」
「お、おう…。さっきも桜木に背中流してやるって言われて逃げまわっちまったくらい、弱えぇ。あのまま続けっと、俺、涙流して笑い転げちまうぞ。」
そんなこと自慢にもならないが、なんだか仙道が触られるのが嫌で暴れたと勘違いしそうなので、三井は、正直に申告しておく。
「そうだったんですか…。良かった。てっきりオレが触るのいやなんだって勘違いするとこでした」
三井は、内心やっぱりと思ったが、懸命にも言葉には、しなかった。
再び、仙道が、三井の額や髪にキスをし始めたので、三井は、心持ちびくびくしながらも、大人しくしていた。
唇に触れるようなキスを繰り返して、仙道が嬉しそうに呟く。
「キスまでは、許可もらったって思って良いんですね?」
「んー、ま、まぁな…。出来たら、息の出来ねーのはパスしてーけど…」
「息なら出来ますよ、ここで」
そう言って指先で軽く鼻をつつく。
「そんな余裕―ねぇよ…」
恥ずかしいが、とりあえず自己申告しておく。
何となく、三井は、仙道には、包み隠さず話した方が、後々こじれないということを、悟ったようだ。
そんな三井を、仙道は、嬉しそうに抱きしめた。
「あぁ、このまま抱きしめて眠りたいですよ、三井さん」
「うーん…。ちょっと狭いんじゃねぇ?」
三井が、現実的な答えを返す。
「そうですよね…。いくらセミダブルのベッドでも、オレ達くらいのが二人じゃ、かなり窮屈ですよね。合宿の疲れが翌日に響くなんて事は、あっちゃいけませんものね…」
仙道が、いかにも残念と言った様子でこぼすので、三井は、吹き出してしまった。
「仙道、お前、まるでだだっ子じゃねぇ?」
「三井さん、笑わないで下さいよ。オレ、真剣に考えてるのに…」
「わりぃ、でもよ、合宿終わったら、いつでも会えるだろ。別に今無理しなくっても良いじゃねぇか?」
「でも、一晩一緒なんて、無理でしょう?」
「お前、寮か?それとも自宅?」
「オレ実家は東京なんで、今は下宿です。学校の近くにワンルーム借りていて…」
「なんだ、すっげーぜーたくじゃねぇ?」
「はぁ、どうも寮の暮らしに馴染めなかったというか、同室になる相手が、オレと合わないらしくて…。うまく行かなくて退寮したんです」
「じゃぁ、時々泊まりに行ってやるよ。別に、お前が俺ん家に泊まりに来たって良いし」
「ホントですか?」
「あったりまえだろ?俺達つきあってんだぜ?いちおうさ。何も合宿中だけじゃなくって、これからずっと、続いてくんだろ?」
「えぇ、えぇ、そうです!ずっと続けて、幸せになってくんですよね」
「だから、別に、今夜狭くって出来ないことだって、合宿終わればさ」
「狭くって出来ないこと…」
仙道は、あえて、聞き返した。
もしかしたら三井が、積極的になってくれているのかもと、淡い期待を抱いたからだ。
「うっ、だから、お前が、言ったんじゃねぇか。抱きしめて眠りたいって!」
「あ、あぁ、そのことですね」
やっぱりそう言う意味じゃなかったかと、仙道はちょっと残念そうに答える。
「なんだよ?それ…」
それを、三井は、不足ととったようだ。
「いえ、ちがうんです。三井さんが、もしかして、キス以上のこともOKしてくれたのかって思って…」
「キス以上のこと、OK?」
三井は、仙道の言葉を反復して、はっと、思い当たったようだ。
一瞬にして、真っ赤になって、照れ隠しに仙道の頭をはたいた。
「三井さん…。いたい…」
「ば、ばかっ!何いってんだよ!ビックリすんじゃねーか!そんな意味で言ったんじゃねぇよ」
三井が、真っ赤なまま抗議する。
「解ってますよ。一つ一つステップ踏んで行くんでしたよね」
「そうだよ。ちゃんと覚えてんじゃねぇか」
「昨日から、キスがランクアップしましたから、その先もなるべく早くステップ越えたいですね」
「うっ…。それは…。かなり覚悟要りそうだから、ちょっと待ってくれよ」
「おや?どこかで情報仕入れたんですか?」
「そうじゃねぇよ。これ以上触られたりしたら、俺笑い転げてしかたねーって…。あれ?ちょっと待てよ。仙道、これから先ってそんなに、覚悟要ることなのか?」
「え?」
「今お前言ったじゃねえか。情報仕入れたかって。つまり、かなり覚悟が要るって事なんだろ?」
「あ、いや、そう言う意味じゃ…」
仙道は冷や汗もので、ごまかそうとする。
「何ごまかしてんだよ仙道!」
三井が、仙道の腕から逃れて、ベッドから起きあがって、仙道を睨む。
「実は、三井さん、オレもこれから先って、なんか、話しに聞く程度なので。実際には良くわかんないんですよ。だから、三井さんが、本当の情報手に入れたのかなって…」
仙道が、苦しい言い訳をする。
「ホントか?」
「ホントです!この先に進むには、二人で、じっくりと、調べる必要ありますよね。お互い理解と合意の上でっていうのが、オレの希望です」
まだ、疑い深そうに三井が仙道を見ているが、仙道が、下手に出ているので、少しづつ三井の表情が落ち着いていく。
「隠したりすんじゃねぇぞ…」
三井が折れて、一件落着のような雰囲気が漂う。
ここぞとばかりに仙道は、三井を抱きしめ、優しく、頬にキスをする。
「えぇ。解ってます。何でもこれからは、包み隠さず、三井さんに話しますって。そうしないと今日みたいに、変な誤解しちゃうかもしれないし…」
「そうだな。今日は、なんか勘違いばっかりだったよな」
「まだまだ、二人の間ってよくわからないことが多いし、お互い話し合うことが大事ですよね」
「そうだな」
「とりあえず、三井さんの今思う大事なことって言うのはなんですか?このくらいは聞いておきたいです」
「もちろんバスケだよ。国体の全国制覇さ。お前もそうじゃねぇ?」
さっきまでの三井の甘い雰囲気が一気に消えた。
「えぇ、そうです。三井さんと神奈川代表で全国制覇。これが、オレの直近の目標です」
仙道も、三井を腕身抱き留めながらだが、真面目に答えを返す。
「そうだよな。だから、この合宿は、重要なんだ。やっぱ、他のメンバーの癖とか知らなきゃなんねーし。覚えることいっぱいだよな」
「えぇ、そうですね。後2日で、成果がなくっちゃいけませんから」
「じゃ、明日のために、もう休んだ方がいいんじゃねぇ?」
時刻は、いつの間にか時近くになっていた。
体力が勝負の、バスケ部員にしては、若干不安のある三井は、少しでも躰を休めなくてはならない。
「そうですね。躰が疲れていちゃ、出来るプレーも出来なくなってしまいますからね」
二人は、そろそろ休むことにした。
歯を磨いて、寝床を整える。
「じゃ、また、あしたがんばろうな」
「えぇ、じゃ、お休みなさい」
「おう、おやすみ」
軽くキスを交わして、それぞれのベッドに潜り込む。
しばらくして、三井の寝息が聞こえ始めた。
仙道は、今日一日の自分を振り返った。
とにかく、三井に、助けられてばかりだった。
余裕のない、ただのだだっ子のような、今日の自分を反省する。
三井に頼られるようにならなくては、男として情けないし、三井にも顔向けが出来ない。
三井が、ちゃんと自分のことを考えてくれているという事が解った点は、収穫であったと思う。
まずは、合宿を無事終えて、国体で、結果を出す。
三井とのことは、たぶんそれ以後の話になるだろう。
三井自身の話もそう言う感じだったから。
「三井さんの未来に、オレが無くてはならない人間でいられるようにならなきゃな」
心に、強く決心しながら、、仙道も眠りの中に入っていった。
こうして、三井と仙道のすったもんだの、恋愛2日目が終わろうとしていた。