☆ 仙道2
つれないですよ三井さん。
人前じゃ、何もしちゃいけないんですね。
我慢できるかなぁ…。
でも、三井さんに嫌われちゃ元も子も無いから、努力します。
あ、遅れちゃいましたね。
済みません、三井さんに恥ずかしい思いさせちゃって…。
今朝は、桜木に邪魔されたけど、明日からは、ちゃんと起こしますから。
そう、眠る三井さんにお目覚めのキスってのも良いですよね。
眠れる森の美女ならぬ三井さんって所ですか。
あれ、三井さんが、あんなところで牧さんと仲良く話している。
何か、心の中がモヤモヤして、プレーに身が入りにくいな…。
これって、嫉妬ってやつかな?
どうしよう…。
よし、ちょうど、交代だ。
邪魔してやるっ!
なんでオレってこんなに情けないんだろう。
三井さんに呆れられてるんじゃないかな。
牧さんや、湘北のメンバーにいちいち妬けちゃうなんて…。
そう言えば、オレ、今までこんな気持ちになったこと無いよな。
人と付き合ってもこんな気分になる事って無かったのに…。
でも三井さんを見ていて、あの楽しそうな笑顔が、自分に向けてじゃないと思うと、我慢できなくなるんだよな…。
わざと、和やかに歓談してるところに割り込んだり…。
だめだ!だめだ!
もっと三井さんを信頼しなきゃ。
両思いなんだから、余裕持たなきゃな…。
離れ際に三井さんが言ってくれた言葉。
済みません、ホントに三井さんに気を使わせちゃいました。
『仙道、あんまり変な所まで気を回すなよ。俺、そんなに節操ナシじゃねーからな』
一応、オレが恋人だって認めてくださるんですね。嬉しいです。
大人にならなきゃ…。
もっと三井さんを、包んで上げられるような、懐の広い男にならなきゃ…。
三井さんがんばります。
少しでもステップ上がれるように、がんばりますから、待ってて下さいね。
☆ 三井2
うーん。
仙道ってば、肩抱きたがったり、困っちゃうぞ。
こんな事桜木達に知られてみろ!
ひやかされて五月蠅くってしかたねぇじゃんか。
そこんとこ解ってねーよな。
嫌いになるって言ったら、納得したか…。
何か、ホントに先行き不安…。
練習は、やっぱり楽しい。
選抜されたメンバーだけあるよな。
その中でもやはり、牧や仙道や流川が頭一つでてるけど…。
俺も負けたくねー。
このチーム、まとめるのは大変だけど、うまくかみあえば、すっごいチームになるよな。
がんばらなきゃ。
とにかく進学のためには、このチームでいい結果出さないといけないんだよな。
でもなぁ、ホントは何も考えないで、ただバスケだけしてれば幸せなんだけどな。
バスケ続けるためには、ここで踏ん張らないと行けないんだよな。
ふうー。
世の中甘くねぇよな…。
仙道…。
俺が、話する相手に妬けるなんて…。
それが、とにかく、きりがないんじゃねぇ?
桜木や赤木にまで嫉妬するなんて…。
一体どういえば良いんだろう。
うまく言えないんだけど…。
そう、俺ってそんなに頼りないのかな。
ちゃんと、仙道のことは解ってるんだけどな…。
他の奴等とは違うところにいるんだけど…。
俺はそんなに節操ナシじゃないって、とりあえずあいつに言ったら、何か変な顔してた。
☆ 練習後
練習は、その後もスムーズに終わり、ミーティングが行われる。
各自気になるところを、話し合って、明日の課題とすることにした。
その後、夕食が終わって、各自部屋に一旦戻ってくる。
「あー、疲れた。やっぱり、合宿ってのは気疲れするよな」
三井が、ベッドの上で大きくのびをする。
「そうですね、やはり他校の先輩がたくさんいると、気が抜けませんからね」
仙道が相づちを打つ。
それに反応して三井が、仙道に向き直る。
「それって、俺のこと?」
仙道は、ちょっと困ったなという風に、首をもたげて否定した。
「三井さんは、別です。まぁ、別の意味で緊張はしてますけど…」
「なんで?」
三井が詰め寄ったのに、少し視線を逸らして、仙道が呟くように話す。
「三井さんが、他のメンバーと仲良くしているのを見ると妬けちゃったり、他人の前では、そんなに仲良く出来ないのに、自然と目で三井さんを追っていたり、結構自分でも情けないと思うんです。そんなオレを見て、三井さんが愛想尽かせちゃわないかと気が気で無くって…」
「馬鹿だな…。オレと恋人になろーとする変な奴は、お前くらいしかいないって」
三井は、ベッドに腰掛けた仙道の隣に、同じように腰掛けて、そっと仙道の肩に手を置いた。
仙道は、三井の手を取り、残りの手で腰を抱き寄せ、抱きすくめる。
「三井さん」
「ちょっ…!仙道!苦しいって!」
三井の抗議に少し力を緩めたものの、仙道は三井を腕から放そうとしない。
「すいません、オレ、何か自分がこんなに女々しいとは思いませんでした」
「ったく…。さっきも言ったけどよ、俺はそんなに節操ナシじゃねーから、ちゃんとお前のこと考えてんだぜ」
「え?どういう風に?」
「例えばだな、合宿が終わったら、どっかに遊びに行こうとか、一緒にストバスしようとか…。他には、国体で一緒にがんばって全国制覇したいとか…。まぁ、そんな感じかな」
「三井さん!嬉しいです!ちゃんと考えてくれてたんですね」
「あぁ、だって、幸せになるんだろ?」
「そうですよね、昨日言ったことをすっかり不安で忘れてしまってました。一歩ずつゆっくりと幸せになろうって言ったんですよね」
仙道は、三井を再び抱きしめ、三井の肩口に顔を埋めた。
廊下が騒がしくなった。
三井は、仙道に放してくれるよう、肩を叩く。
三井が、仙道の腕から逃れたちょうどその時、部屋のドアがいきなり開いた。
「ミッチー!フロ行こうぜ!」
赤毛の後輩が、大声で叫んでいる。
「ばかやろう!びっくりするじゃねぇか!部屋にはいるときは、ノックぐらいしやがれ」
三井が、桜木の不作法を咎める。
「何だ?急に入られて困るもんでもあるのか?」
「べつにねぇけどよ…。エチケットだろーが!」
「ふぬっ…」
桜木が、理解しがたいと言った表情をして、立っている後ろから、宮城が声をかける。
「まぁまぁ、花道の不作法は今に始まった事じゃねぇでしょ?それより、どうします?フロ、一緒に行きません?」
「あ、あぁ、行くよ!ちょっと待てよ」
三井は、そそくさと支度を始める。
ふと、仙道に気付いて、声をかける。
「仙道、お前も一緒にいかねぇ?」
「はぁ、そうですね」
仙道は、少し困ったように応え、とりあえず支度を始める。
三井の支度が整ったのを見て、仙道は声をかけた。
「三井さん、オレ、すぐに追いかけますから、先に行って下さい」
「そうか?」
三井は、仙道の顔をちょっと見た。
仙道が、頷いてどうぞというのを見て、入浴道具を抱えて、部屋の外で待っている桜木達の元に向かった。
浴場は、体育会系の合宿所だけあってかなり大きめで、ゆったりとしている。
服を脱いで浴室にはいると、牧や赤木、藤真、花形等主に3年生がすでに上がりかけていた。
「何だ三井、今からか?」
「おう」
牧に尋ねられて頷きながら、三井は、洗い場をキープする。
「ミッチー、背中流してやろうか?」
桜木が、声をかけてきた。
「え?、い、いや、遠慮しとく」
「ふぬ?なんでだ?」
「だめなんだよ。俺、背中触られんの弱いんだっ…!」
言いかけて、うっかり失言したことに気付いた三井は、口を噤んだが、桜木のにんまりした顔を見て、どっと後悔した。
「ほう?どれどれ…」
桜木が、にやにや笑いながら、三井の背中をそっと、指でなぞる。
「ひやっ!や、やめろよっ!」
三井は、必死で抵抗しようとするが、浴室で、しかもあまり動くと腰のタオルが落ちそうで、それほど無茶に暴れられないため、純然と力のある桜木の方がやはり有利だった。
上がりかけていた周りの連中は、一体何が始まったのかと、二人を見ている。
赤木は、さっさと上がってしまい、普段のように雷が落ちる心配もなく、桜木は調子に乗って触っている。
弱い背中を、桜木にほぼ触られ放題になっている三井は、もう涙目で、近くの宮城に助けを求める視線を流した。
「花道、その位にしとけよ。三井サン、もう限界みたいだぞ」
「ふむ、そうだな」
桜木は、ようやく三井を解放してやった。
三井は、というと、解放されて、一気に安心したのか、脱力していた。
「ミッチーさっさと洗わないとのぼせるぞ」
桜木に言われて、ようやく我に返った三井は、ぶつぶつと文句を言いながらも、躰をさっさと洗い始める。
髪も躰も洗い終わり、湯船にゆったり浸かってほっと一息ついた頃、ようやく浴室に仙道が入ってきた。
「何だ、仙道、遅っせーぞ」
三井が声をかけると、仙道は、浴槽の三井を見て、ふっと微笑んで答えた。
「あぁ、そうなんです。ちょっと気を抜いて、ぼーっとしてたら随分時間たっちゃって」
「なんだそりゃ?」
仙道が、背中を向けて、洗い始めたので、三井は、浴槽の中でうんとのびをして、上がることにした。
「仙道、先上がるぞ」
「あ、はい」
三井は、声をかけた後、桜木達とともに浴室を出ていった。
水気を落とし、パジャマを着て、脱衣場の外に置いてある扇風機の前で涼んでいくことにした。
自販機で水分補給しながら、今日の練習のあれこれを話題にしてみる。
「ミッチー、センドーと仲良しになったのか?」
急に思いついたように、桜木が三井に尋ねた。
「あ?」
「何かさっきから、ずっとセンドーのこと気にしてるぞ」
「そ、そうか?」
「何かあんのか?」
「何にもねぇよっ!同じ部屋だから気ぃつかってんだよ」
「三井サンのことだから、弱み握られたんじゃねぇですかい?」
「んなわけねーだろっ!」
「それじゃ、どうして…。まさか妖しい仲なんて言いませんよね」
「なっ!何いってんだよっ!それこそ、ありもしねーことだって!」
宮城のつっこみに、三井は、心臓が止まるかと思ったが、かろうじて答えることができた。
「へぇ、それじゃ、ただ、同室だから気を使ってるだけって事なんですか?」
「そーだよ」
「ミッチーでも気を使うことあったんだな」
「馬鹿やろーっ!この気配り人間の俺様のどこを見てやがる」
二人にさんざんからかわれて、いい加減切れかかった三井が、ふと、視線を浴場の入り口に向けたとき、なにやら深刻そうな仙道と眼があった。
ふっと視線を外して、仙道が、彼らの後ろを通って部屋に帰っていった。
「ふぬ?、センドーは、どうしたんだ?」
あまりに覇気のない仙道の様子に、桜木が首をひねる。
「なんかあったんでしょうかね?」
宮城も不思議そうに、眼で仙道を追う。
三井は、仙道の様子に不安を感じたが、ここで慌てると桜木達の思うつぼだと、極力仙道を無視することにした。
「三井さん、同室のよしみで、様子聞いてやったらどうです?」
「うっ、そ、そうだな…。」
宮城に背中を押されて、三井は、仙道の後を追うことにした。
「じゃ、三井さん、また明日。遅刻は禁物ですよ」
「お、おう、わかってるよ」
「ミッチー、おやすみ、明日はこの天才が起こしてやるから、安心して寝てて良いぞ」
桜木と宮城の言葉に、手を挙げて答えて、三井は、仙道の後を追いかけた。