扉カウンターキリ番「714」リクエスト:For 鮎川れん 様

お題:「カッコイイ仙道とミッチー」でした

かっこいい…かどうかわかりませんが、私の持っている仙道の中で、この仙道が一番ましなんじゃないかと…(笑)

これは、発行済みのヤング・ソウル・ダイナマイトの続編になります。

まだ、お読みでない方の為に、今回HPで公開始めました。まずは、こちらからどうぞ→ヤング・ソウル・ダイナマイト1

とりあえず、ご希望に添えたかわかりませんが、これで、勘弁してください(笑)

 

ヤング・ソウル・ダイナマイト2

 

「?仙道?どこ行くんだ?」

三井は、北町の奉行所の前まで三井についてきていた仙道が、三井を奉行所に送り届けたあと、いつもと異なる道を歩み始めたので問いかけた。

「はぁ、ちょっと、湯島まで」

「湯島?」

「えぇ…富くじ買いに行こうかなと…」

「なんだよ、お前、富くじなんか買うのか?」

「夢じゃないですか。一攫千金ですよ。この一分が、千両箱になるんですから」

手のひらに一分金を載せて仙道は、三井に熱く語りかける。

「まぁなぁ。でも、ほとんどあたんねーって聞くぞ?せっかくの一分、捨てるようなもんじゃねぇか」

「えぇ…そうなんですがねぇ」

「で、当てて何すんだよ?」

「三井さんと、のんびり、お伊勢参りにでも行きたいなぁって…」

「はぁ?」

三井は、脱力した。

三井は、北町奉行の牧の元で常町周りの同心を拝命している。

一方、仙道は、旗本の次男坊。暇にまかせて、三井の市中巡回に付きまとっている。

三井と、仙道は従兄弟同士だ。仙道の父と、三井の母が兄妹だ。

大奥に行儀見習に行っていた三井の母が、急に戻ってきて格下の同心である三井の父の下に嫁いで間もなく、三井が生まれたことから、三井の出生には、謎が付きまとっている。

仙道は、三井の一年後に生まれたが、仙道の母が、産後体を壊し、亡くなってしまったため、三井の母が、仙道の乳母を買ってでたようだ。

そういうわけで、三井と仙道は、仙道の屋敷で乳兄弟として育てられた。

元服すると、三井は、父の跡を継ぐべく、同心の見習いに入った。

父の引退後、三井は、正式に同心となり、今日にいたっている。

そんな、三井に、お伊勢参りに行こうなどとのんびりしたことを言っている、仙道に三井は脱力してしまったのだ。

「あのなぁ、俺は同心なの。そんな暇がどこにあんだよ」

「この間、お奉行様にお尋ねしたら、別に構わないって…」

「なんだってぇ?」

「三井さんも、ゆっくり休んで気分を変える事もいいだろうって仰ってましたよ」

「はぁ?」

北町奉行の牧は、三井に弱い。絶えず、三井にセクハラを仕掛けてはいるが、基本的には、三井の我侭も聞いてやっている。三井の出生の秘密は、ある種公然となっており、牧も、牧が三井につけた手下の良太と花道も、三井を大切に守っているという感じだ。そして、毎日仙道が、三井の巡回に護衛のようについてきている。

現在、三井の実の父であろうと思われる、将軍が病床についており、跡目相続についていろいろ取りざたされている。後継者がいるが、どうやら同じように病に臥せっているという噂で、他の世継ぎ候補というと、幼年者が一人いるだけなのだ。三井が、俄然候補に踊り出ることもあるのだが、三井自身は、自分の父は三井の父だけだと言って譲らない。まして、将軍の後継者になどなる気はないようだ。

しかし、それでも、三井の周りは最近何かと物騒になっているようで、後継者が決まるまでは、三井を遠くに旅に出させるのも、一手かもしれないと奉行や、仙道は考えているようだ。

「じゃぁ、ちょっと行ってきますね。三井さん、今日は、奉行所になるべくいて下さいよ」

「あぁ?」

「何かあっても、俺が守れないですから」

「馬鹿野郎。俺がお前になんで守られなきゃなんねぇんだよ」

「俺が、守りたいんです。大切な三井さんを」

そう言うと、仙道は、そっと三井を抱きしめる。

「ば、ばかっ!こんなとこで何すんだよ!」

奉行所の前で抱きつく仙道に、三井はあせった。

三井と仙道は最近お互いの気持ちを確かめあった恋人同士だ。ほとんど蜜月状態になっている。

しかし、それとこれとは、話が別だ。

職場まで、そんな私生活を持って来たくはない三井は、仙道の頭をはたいて、奉行所の中に入っていった。

仙道は、三井の後姿を見送って、きびすを返し、湯島天神の富くじを買いに向かった。

仙道は、以前「陵南小僧」という盗賊の顔を持っていた。

三井とこういう仲になってからは、足を洗っている。

確かに、最近、三井の回りで、不穏な空気を感じる。三井を守りたい。

奉行所の中では、牧を筆頭に、与力や同心が三井を守ってくれているので安心できる。

しかし、何かと巡回中に因縁をつけられたりしてしまうのだ。

奉行所への行き帰りにも、神経を使う。

相手は、三井の幼い実の弟の近辺から来ているようだが、三井にはその気がないというのに、付けねらわれるのは、心外だが、相手にその気持ちは伝わらないようだ。

守るしかない。

仙道は、足を速めて湯島へと向かった。

 

「お奉行!何すんですかー!」

三井は、奉行所に入ってすぐに、奉行に茶室へ連れ込まれてしまい、あせっていた。

「三井を見ながら、朝の一服をしたかったんだよ」

茶を立てろと、三井を亭主の座に据える。

三井はしぶしぶ、手前を始める。

「なんで、こう一方的かな。俺は仕事にきてるんですからね。お奉行の相手しに来てるんじゃないですからね!」

ブツブツ言いながら、三井は牧に茶を供する。

牧は、三井の立てた茶を、美味そうに飲むと、三井に話し掛けた。

「で?」

「は?」

「仙道の次男坊とはどうなんだ?」

「どうって?」

「恋仲なんだろう?あの昼行灯が惚気ていたぞ」

「なっ!」

三井は絶句した。仙道が、言いふらしているということを、知らなかったらしい。

「三井を狙ってる奴は多かったが、あの昼行灯に掻っ攫われるとはなぁ。なぁ、三井。浮気するならいつでも声をかけてく…」

牧が言い終わらないうちに、三井が茶袱紗を投げつけた。

「何言ってんですか!俺は仕事につきますからねっ!」

そう言うと、憤慨しながら三井は茶室を出て行った。

残された牧は、ふっと笑いながら、大きく伸びをして、自分の執務室に戻るべく立ち上がった。

 

同心たちの詰め所にやってきた三井は、深刻な気配に身を引き締める。

「どうしたんですか?」

「あぁ、三井。昨夜また辻斬りが出たんだよ」

先輩同心の魚住が三井に答える。

「え?また?これで五日連続じゃ…」

「そうなんだ。それで、みんなと話し合ったんだけど、今日から交代で夜回りを強化しようっていうことになったんだ」

「はぁ」

「おそらく辻斬りは、同一犯だな。切り口がいつも正面から袈裟懸けに一撃だ。かなりの腕だ。みんな、気をつけてかからないと」

一同は、巡回場所や、交代要員を打ち合わせ、準備を整える。

三井は、その日の夜二番目に、魚住と一緒に回ることになった。

それまで、受け持ちの市中見周りに出かけようかとも思ったが、先日からの調書を溜めていたことを思い出し、今日はデスクワークで一日過ごすことにした。

途中、手下の良太と花道が顔を出したが、今日の昼と、夜の巡回の予定を告げる。

彼らは、また、当番の時間になったらやって来ると言い置いて、三井の代わりに市中見回りに出かけていった。

 

夜。

三井と魚住が、市中の巡回に出かけた。

二人の周りには、それぞれの手下が離れてついている。

この数日立て続けに起こっている辻斬りは、大川端で被害者が見つかっているため、その方面を巡回することにしている。

暗い大川端へ、提灯の明かりを頼りにやってきた。

川の両岸を二手に分かれて、巡回することになり、それぞれの配下とともに巡回を始めた。

巡回していると、三井の受け持つ岸側で、悲鳴が上がった。

三井は、良太や花道と顔を合わせ、悲鳴のあったほうへとかけていく。

提灯が地面に落ちて燃えている。

その明かりの向こうに、商人らしい男が倒れており、その先に、黒い影が立っていた。

「辻斬り!御用だ!花道!そっちの人を」

花道が、倒れた男を介抱しようと、抱き起こしたが、男は既に事切れていた。

「ミッチー、だめだ。もう死んでる」

「くそっ!観念しやがれ!」

「三井サン!気をつけて」

三井が、十手を手に黒い影に対峙すると、相手が、ふと反応した。

「三井?其の方が、三井か。それは好都合、探す手間が省けたというもの」

そう言うと、三井に向かい、剣を構える。

「なっ!何だと?」

「其の方をおびき寄せる為に、こうして出歩いていたが、ようやくそれも終わりだ。其の方を最後にな」

三井に、切りかかるべく、間合いを詰める。

「三井サン!」

「ミッチー!」

良太と花道が、三井を庇おうと近づいてきたが、二人の前に、新手の敵が四人現れた。

どうやら、忍びの者らしく、良太と花道に緊張が走る。

良太が、とっさに呼子を鳴らすが、相手の攻撃にあい、続けて鳴らすことが出来なくなった。

「ヤバいっすよ!三井サン。こいつら、始めから三井サン狙ってたらしいっスよ!」

「ミッチー!」

応戦に必死の二人は、三井を助ける余裕がなく、あせった声を上げる。

三井は、間合いを外しながら、一旦十手をしまい、刀に手をかける。

思い起こせば、実戦は初めてだ。手に緊張が走る。

「ふっ、少しは出来るようだが、まだ甘いな。あの世で、己の出生の不運を呪うがいい」

そう言うと、相手は、斬りつけてきた。三井は、ギリギリで相手の切っ先をかわし、再び刀を構える。

何度か、そういう対峙があり、三井の羽織は、いつの間にやら無残にもズタズタになってしまった。

体力があまりない三井は、長時間の緊張に疲労が現れてきた。

そして、何度目かに斬りつけられたとき、二の腕を相手の切っ先が掠める。

「うっ!」

刀を取り落としそうになったが、かろうじて、刀を構えなおす。

「そろそろ遊びも終わりだ。観念するんだな」

そう言うと、相手は、刀を上段に構え、再び攻撃に転じようとした。

その、三井と敵の間に、黒い影が飛び込んできた。

敵の振り下ろす剣を、横に払い、三井を庇って前に立つ。

「大丈夫ですか?三井さん」

「せ、仙道!」

「すいません、遅くなりました。大川端で巡回って聞いて、慌てて飛んできたんですが、反対側の魚住さんのところに行っちゃって、呼子を聞いて、あわててこっちにきたんですよ。間に合ってよかったです」

そう言うと、相手に対峙し、再び剣を構える。

「良太、花道。三井さんを頼んだよ」

ようやく、相手を倒した二人が、三井の周りを守る気配を受けて、仙道は声をかける。

「おうよ!仙道」

「それで安心だよ。じゃ、いきますか」

仙道は、逆に攻撃に転じ、相手の刀を遠くに払い飛ばす。

「辻斬りなんて許しがたいけど、三井さんを攻撃するなんて、もっと許せない。本当は、斬っちゃいたいけど、三井さんの仕事もあるから、今はこれで我慢するよ」

そう言うと、切っ先を返し、峰打ちで、相手に叩きつける。

昏倒した相手を、良太と花道が捕縛したところに、魚住の一行が到着した。

「すまん、三井。遅くなった。呼子の音が一度しか鳴らなかったんで、場所の特定に時を食ってしまったよ」

二の腕のかすり傷を、仙道に止血してもらっている三井に、申し訳なさそうに謝る。

「いや、仙道が来てくれたから助かったよ」

三井は少し元気がない。

辻斬りの犯人は、良太と花道によって奉行所に引き立てられていった。

被害者の身元と、良太たちが倒した忍びの者達の探索を魚住とその手下達が受け持ち、三井は報告をしに、一旦、仙道に守られて、奉行所に戻ることになった。

道々、三井が、ポツリポツリと語る。

「辻斬り、俺をおびき寄せるためだったんだ…。俺がいなけりゃ、六人も人死にがでなくて済んだんだよ…」

「三井さん…」

「俺は、三井の親父の跡を継いで、同心になって、ここで暮らしていこうって思ってんのに…」

ぽろっと三井の頬に涙がこぼれる。

「三井さん…」

仙道が、三井をそっと抱き寄せる。

「何で…。何でそっとしておいてくんないんだよ…」

しがみつく三井の背を、優しく撫でて、仙道が語りかける。

「三井さん、やっぱり二人で、お伊勢参りに行きましょうよ。ね?気分転換にもなるし、戻ってくる頃には、上様のご病気も平癒してますって。ね、そうしましょう」

「…バカ」

顔を上げた三井の、頬に伝う涙をそっと唇で拭いながら、仙道は嬉しそうに呟く。

「俺は三井さんバカなんですよ。ずっと…。生まれたときから」

「せんど…」

三井の唇に、仙道はやさしく口付ける。

「さ、お奉行様に報告して、今日は帰りましょうよ。ね」

仙道は、奉行所へと三井を促した。

 

牧に、結果を報告した三井は、二の腕の傷が癒えるまで自宅待機を命じられた。

その間に、牧が、南町奉行の赤木と供に江戸城に向かい、今回の顛末を老中達に報告を入れた。

将軍家のお家騒動だけに、極秘の捜査が行われ、結果、世継ぎの病は、幼い弟の周囲の画策によるものと判明し、病の進行を食い止めることが出来、今は平癒に向かっているとのことだ。

また、今回、陰謀を計った者達の処罰も決まり、幼弟はわずか2歳で寛永寺に預けられ、仏門に入ることとなった。

一方、牧たちは、三井の処遇について、このまま三井家の跡を継ぎ、同心として一生を送ることを老中達に確認させ、余程の理由がない限り、将軍家とは無関係でいられるように話を取り付けた。

 

自宅待機を命じられて数日が立つ。

今日も三井は押しかけている仙道と、並んで縁側に腰をかけ、茶を啜っていた。

「あ、今日は湯島の富くじの抽選の日ですよ」

「へぇ」

「ね、見てくださいよ『鶴七百十四』番。何となくあたりそうでしょ?」

「はっ、どこからそんな根拠がでてくんだよ」

「結果は、良太と花道が調べてきてくれるって言ってましたけど、もうすぐでしょうかねぇ」

茶を啜っていると、木戸先で、噂の二人の大声がする。

「せ、センドー!大変だ!当たったよ!鶴の七百十四!大当たりだよ!」

「なんだってー!?」

 

数日後、日本橋の橋のたもとに、旅支度の三井と仙道、良太と花道の4人の姿があった。

見送りにきている、牧が、にこやかに三井の手を取る。

「じゃぁ、気をつけてな。代参よろしく頼む」

「は、はぁ…」

「俺の手紙も忘れずに、大阪城代の土屋に渡してくれよな」

火付盗賊改め方長官の藤真が、三井の顔を覗き込んでにっと笑う。

「俺の京都所司代の木暮への手紙も忘れずにな」

南町奉行の赤木も三井に念を押す。

「わ、わかってますって…」

結局、仙道の伊勢参りにかこつけたほとぼり冷ましの主旨に同意した牧は、自分の、伊勢神宮代参を三井に命じて、それを名目に三井を旅立たせることにしたようだ。

藤真と、赤木も同調して、上方まで足を伸ばして期間を延長させる手を使っている。

無論、三井は、上司の命令で、良太と花道は護衛で公費出張だ。

仙道は、自分の当てた資金もあるのでついていけるのだが、藤真の計らいで、火盗改めの臨時職員扱いで公費出張にしてもらっていた。

通行手形も上方まで、四人分作ってもらい、途中、箱根で三井の二の腕の傷を温泉治療することも予定に入っているため、往復でほぼ一年の長期旅行となったようだ。

 

江戸の治安を守る三人に見送られて、三井たち一行は、日本橋を渡り、西への旅に向かった。

 

2001.6.13

 

 

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Revised: 2001/06/13 .