☆ 合宿

 翌朝、三井が練習に出かけるときに、牧、土屋、諸星も一緒に三井家を辞することになった。
 「二日間も本当にお世話になりました」
 牧が、代表して挨拶をする。
 「あら、そんな、これからも寿をよろしくお願いいたしますわね」
 見送りに出る三井母と姉に、会釈して一行は、駅へと向かう。
 「三井、すっかり邪魔してしまったな」
 電車に乗って、乗換駅につきそうになって、諸星が、三井に礼を言う。
 「あ?いや。べつに。バスケできて楽しかったし。あ、そうだ。できれば今度は、前もって言ってくれると良いんだけどよ」
 そうすると、笑いながら、土屋と諸星は、東京方面に向かって電車を乗り換えていった。
 「帰っていったな」
 「あぁ。牧が一緒に居てくれてよかったよ。俺一人じゃ、あいつら二人相手に出来ねーよ」
 「土屋だけでもかなり振り回されてしまったからな」
 「おう、口が回り出したら、手がつけられねぇよな。もう圧倒されちまうよ」
 「ははは…」
 「ま、当分会うこともないけどな」
 「そうでもないぞ。どうやら、国体の県代表で、俺達選ばれるらしいから、あいつらと会場でまた会うんじゃないか?」
 「国体?」
 「あぁ、土屋たちがいたから黙っていたが、うちの監督が、今年の国体派遣チームは、選抜メンバーで構成すると言ってたから、多分俺達も選ばれるだろ?」
 「そうかな?それならうれしいけど…」
 「たしか、海南と湘北のほかに、県大会の実績をみて、何人か集めると言っていたから…」
 「へぇ…」
 「多分、仙道や藤真、花形あたりかな」
 「なんかすっげー贅沢なチームになるんじゃねぇ?」
 「あぁ、そうだな。楽しみだよ」
 「おう!それで神奈川が全国制覇出来れば最高だよな!」
 「あぁ!そうだな!優勝できれば良いな。それに、何よりも、三井とチーム組めるのが楽しみだよ」
 「え?」
 「この二日、三井と組んで2ONしてたろ?とてもやりやすかったんだ。フルコートで三井と組めたらもっと楽しいだろうと思ったからな」
 「お、俺もすっごく面白かった!」
 「国体、がんばろうな」
 「お、おう!」
 「あ、降りなくては…。じゃぁ三井。この三日楽しかったよ。またな」
 「おう!またな!」
 牧は、海南の最寄駅で降りていった。
 三井は、牧の言っていた国体のことを考えて、わくわくした気持ちになる。
 (全国制覇だ!)
 知らないうちに、こぶしを握っている。
 いったい誰が、メンバーに選ばれるのかと、あれこれ予想しているうちに、三井の降りる駅がやってきた。
 (よし!練習がんばって、他のチームの奴らに呆れられたりしねーようにがんばるぞ!)
 気合を入れて、学校に到着し、部室に向かう。
 「ちゅーす!」
 部室に入ると、宮城が着替えていた。
 「あ、三井サン、おはようございまス!」
 「よぉ、宮城、久しぶり!」
 「はぁ、あ、そうだ、この間電話で聞きそびれたんっスけど、流川との練習どうでした?」
 「おう、仙道がちゃんと来てくれて助かったぜ」
 「あぁ、それならよかったっスね」
 「おう、昨日も流川が来たけど、ちょうど牧や土屋や諸星や仙道も来てたんで、一緒にバスケしたし、別に問題なかったぜ」
 「へぇ、そりゃ、何よりで…」
 なぜ、牧とか、土屋とか、諸星とかの話が出るのか、宮城は不思議に思ったが、尋ねることで三井の機嫌を、練習再開草々から損なうことはないと判断して、やめた。
 体育館に向かう道すがら、宮城と連れだって歩いているとき、三井が、牧から聞いた国体の話をした。
 「新キャプテンはなんか聞いてねぇのか?」
 「はぁ、合宿があるってのは、聞いたんスが、参加者とか細かいことはまだ何にも…。ただ流川が、明日から全日本ジュニアの合宿に参加するってのは聞きましたが…」
 「へ?全日本?」
 「はぁ、なんか、一年の有望株ってんで選ばれたらしいっス」
 「そっかー。全日本かー」
 ちょっと、羨ましい気がした三井だった。
 「…流川が、留守して、戻ってきたときに、がっかりしねぇように俺達もがんばらねぇといけませんね」
 「そうだな…」
 残った者には残った者の、やるべきことがあると思い直して、流川が不在の間、一層、バスケに打ち込もうと、三井は思った。
 流川は、一週間全日本に参加した。
 三井たちも、新体制で、あれこれと苦心しながら、練習のシステムを作り上げていった。
 後日牧から、電話で、牧自身も全日本に参加したと聞いて、少なからず複雑な思いもしたが、三井は、何が自分に必要なことか、十分過ぎるほどわかっていたので、当面の問題である体力作りに、日々の練習の大半を費やしていた。
 流川が戻ってくる頃、赤木の妹がマネージャーに加わった。
 桜木に、みんなで会いに行って、その回復力に安心しながらも、帰りに神社で早い復帰を祈ったりもした。
 それから、夏休みがもうすぐ終わろうとする頃まで、三井の回りは、バスケ三昧の夏が続いた。
 
 夏休みも後五日となった日、神奈川県の国体少年男子チームの合宿が、海南大学の合宿所で行われた。
 参加者は、海南大付属から牧、高砂、神、清田、湘北から、赤木、三井、宮城、流川、陵南から魚住、仙道、越野、福田、翔陽から藤真、花形、長谷川が参加している。
 桜木も、怪我の回復次第で、次回以降の合同練習から参加することとなっており、最終的に十二名のメンバーを決めることになるらしい。
 合宿所は、それぞれ四人部屋になっていて、二段ベッドが二基据えられている。
 割り当てをどうするかで、意見の交換が、現在行われているところだ。
 「同じ学校同士じゃ、あまりに普通で面白くないだろ?」
 藤真が、一同を見渡して同意を得る…と言うよりは、言う通りにしろという表情で、視線を動かす。
 「じゃぁ、くじでも引くか?」
 翔陽を除く各校の監督連から、チームの纏め役を任されてしまった、不運な牧が、解決を図る。
 「よし、それじゃ、各校で、それぞれ1号室から4号室までのくじを引いて、あわせよう」
 結局藤真の音頭で、紙に1から4の数字を書いた紙を4セットつくり、各校毎に、部屋番号を引くことにした。
 「一部屋だけ、三人の余裕部屋が出来るな」
 翔陽のメンバーが引かなかった部屋が、三人部屋となる。
 その結果、一号室、高砂、赤木、魚住、花形、二号室、清田、宮城、仙道、藤真、三号室、神、流川、越野、長谷川、四号室、牧、三井、福田となった。
 「なんだか、一号室にでかいのばっかり集まったな…」
 センター部屋となってしまった、一号室の面々は、不思議そうに自分の手元の1と言う文字を見ていた。
 「何だよ、牧が余裕部屋か…。考えてみりゃ、うちのメンバーは三人部屋には絶対なんねーんだよな」
 藤真が、失敗したなと言うように苦笑する。
 「すまんな」
 「ま、別に誰と一緒でも、あんまかわんねーからいいんだけどよ」
 藤真なら、同室に誰がいようと、ゴーイングマイウェイだから、そりゃ関係ないだろうと、何人が思ったかは、この際言わぬが花かもしれない。
 おのおの、決まった部屋に分かれていく。
 部屋に荷物を置いて、とりあえず自己紹介でもして、親睦をはかり、三十分後に着替えて体育館に集合ということになったのだ。
 「三井、今日から三日間よろしくな」
 「おう、同じ部屋になるなんてラッキーだよな」
 部屋に向かう道すがら、会話を交わす。
 三井は、とりあえず顔見知りの牧と同室になれたことに安堵していた。
 やる気で望んだ合宿だが、出来れば、バスケにのみ集中したい。
 同室になってしまった者との、よく知らないもの同士の、面倒な友好関係の樹立に、力を割かないですむように、実は願っていたのだ。
 もう一人の同室である(しかも三人部屋で、一人最初から面倒が少なかった)、福田についてはよく知らないが、牧に頼っていればうまく行くだろうと、三井は思った。
 「さて、自己紹介といっても、お互い、名前と顔くらいは、知っているよな?それぞれ対戦しているし…」
 福田は、こっくりと頷く。
 どうやら、無口な性質のようだ。
 「ま、とりあえず…。俺は、海南の三年、牧紳一。ガードだ」
 牧が、一応簡単な自己紹介をして、三井を向いたので、三井も、同じ内容の紹介をする。
 「俺、湘北の三年、三井寿。俺もガード。よろしく」
 二人に見つめられて、福田が、恥ずかしそうにぼそぼそと話す。
 「陵南の二年、福田吉兆、フォワードっス。よろしくお願いします」
 「何だ、三井も福田も、ずいぶんとおめでたい名前なんだな」
 くすっと、牧は微笑んだ。
 「そういえばそうかな」
 三井が、考えるように小首をかしげる。
 福田は、恥ずかしそうにしているだけだ。
 「まぁ、名前なんて、自分で決められるものでもないしな」
 「牧は、シンイチっていうから長男なのか?」
 「いや、兄がいるよ」
 「?でもイチなんだ?」
 「兄は、紳太郎なんだ。俺をシンジとか、シンジロウとか言う名にするには、抵抗があったらしいんだな…」
 「なんで?」
 「俺もよく知らないんだが、マキシンジという名のコメディアンがいるらしくて、わざわざそんな名にしなくても、ということだったらしいよ」
 「へぇ?そんなコメディアンいるんだ?」
 「あぁ、高度成長期に一世を風靡したんだとか聞いたよ」
 「へぇー」
 さすがに彼らの年代では、ウクレレ片手に歌謡漫談をしていた姿を知らないのは仕方ないが、彼らの親の年代では、ある程度世代の共通認識として、そのコメディアンの名は知られていたのだ。
 「ま、それはさておき、今日から、三泊四日の合宿、同室になるわけだしよろしく頼むな」
 「こっちこそ」
 「…っス」
 「福田も、俺達三年と同室だということで、そんなに気を使わなくても良いからな」
 牧が、福田に声をかける。
 「県選抜の合同練習のための合宿なんだから、バスケに支障をきたさないように、部屋に戻ればリラックスできることが第一だから、緊張しないで自分のペースを守るようにな。といっても、最低の共同生活のルールだけは守って欲しいがな」
 三井が、それは何?という風な顔で牧を見るので、牧が言葉を繋ぐ。
 「つまり、周りの迷惑になるようなことだけはしないということ」
 三井は、そうかというような、表情をする。
 寮生活で、何か特別なことがあるのかと考えたが、やはり、人が人の集まる世の中で、人として暮らすための最低限守らなくてはいけないことは、寮などの共同生活でも、家族と暮らしていても、一人暮しでも、結局は同じということなのだと、三井は思った。
 福田もわかっているような表情をして、頷いているので、牧は、安心して、ふと時計を見る。
 「さてと、練習まで二十分ほどあるな…。まずは着替えるか?」
 そう提案した。
 荷物を、ベッドに置くということで、どのベッドを使うかということになった。
 「どれにするかは、くじで決めるか?」
 「うん」
 三井も、くじのほうが良いと思ったので、同意する。
 三井は、どうもじゃんけんが弱いと、自覚しているようで、あまりじゃんけんをしたがらない。
 湘北のチームメイトは、三井のじゃんけんの癖を知っているので、(彼は必ず『最初はグー』の次にパーを出してしまうのだ)どんなときでも一番最初に負けてしまうのだ。
 三井の癖を知らない、牧や福田にも、自分が弱いと思い込んでいる三井は、じゃんけん勝負にでたがらなかった。
 福田は、どちらでもいいといった様子で、上級生二人に任せようとしている。
 結局、牧が作ったあみだくじに、名前を書いて、一人二本づつ横棒を書き加える。
 結局、牧が上を使い、その下を福田が使うことになった。
 三井は、もうひとつの二段ベッドの下を使うことになった。
 「福田、上を使わせてもらうが、よろしくな。そんなに寝相が悪いわけではないから、暴れることはないと思うが、うるさくて眠れないようなら言ってくれ。交代するから」
 二段ベッドは、さすがに体育会の学生が使用することを前提にして作られているので、つくりが頑丈で、牧が試しに上ってみても、軋む音もしないので、おそらく、これなら大丈夫だろうということになった。
 今後、使う場所も決まったので、練習着に着替えて、集合場所に向かうことにした。
 部屋を出て、歩いていると、二号室のドアが開いた。
 「あっ!三井さん!」
 中から出てきた仙道が、にっこり笑って、三井に抱きつく。
 「こらっ!何すんだよっ!」
 三井は、仙道から逃れたくて、じたばたと暴れている。
 「せっかく三井さんと、同じ部屋で三泊も出来るチャンスだったのに、どうして、俺があたらなかったんだろう…」
 悲しいといって、抱きしめた三井の肩口に懐く。
 「やめろーっ仙道」
 三井が、仙道の頭を押しやる。
 三井の声を聞いて、三号室の扉が開いた。
 流川が、いきなり現れて、三井を仙道から力ずくで引き離す。
 「さわんな!」
 そして三井を抱き込もうとしたときに、横から牧にさらわれてしまった。
 「仙道も流川も、本腰をバスケに入れてくれよ。せっかくの合宿なんだからな」
 呆れたように、牧が、二人を見る。
 「ったく…。俺はバスケしに来てんだからな!俺の邪魔すんなら、もうてめーらとは口きかねーぞっ!」
 三井が、牧の後ろから怒って言う。
 「何だよ、うるせーな…」
 二号室のドアが再び開き、藤真が顔を出した。
 目の前の様子を見て、呆れたように苦笑う。
 「ったく、また三井かよ。騒動の元は、いつも結局、その辺りなんだよな…」
 「なっ…!」
 あまりの言葉に三井は、切れそうになった。
 「そういうなよ。三井が別に何かしたわけではなくて、周囲が、騒いでいるんだから」
 牧が、あまりに気の毒になって、フォローに入るが、今一つ適当な言葉が浮かばないようだ。
 そろそろ集合時間が近づいてきたのか、他の部屋のドアも開き、メンバーが出てきた。
 一号室から、赤木が出てきて、廊下の様子を一目見るなり、自分の学校のメンバーが何か問題を起こしたようだと悟る。
 「流川?何かしたのか?…!三井、もしかしてまたお前か?」
 その一言に、牧のフォローで収まりかけていた三井の怒りが爆発した。
 「な…!てめぇ!いっつも、俺のせいにばっかりしやがってっ!」
 赤木に殴りかかろうと駆け寄ったのを、宮城が必死で止める。
 「三井サン、こんなとこで、やばいっスよ。こらえてくださいって!赤木のダンナも勘弁してくださいよ!他の学校に示しつかねーっす」
 三井の後ろから羽交い締めにして、二人に聞こえるように説得する。
 結局、騒ぎは、三井の周りで広がっていくようで、今や取り残された感のある、牧が、はっと気がついたように、その場の全員に声をかける。
 「さ、さぁ、集合時間だ。みんな、体育館に行ってくれ!」
 パンパンと手をたたいて、全員の気を引いて、移動を促す。
 我に帰ったみんなが、ぞろぞろと体育館に向かって動き出す。
 ご機嫌斜めを通り越して、気分最悪な顔をして一行の一番後ろからついてくる三井に、牧が近づいて、そっと声をかける。
 「三井、災難だったな…。大丈夫か?」
 「牧…。お、俺…。」
 「?…三井?」
 「俺、やっぱいねェほうが良いのかな…。俺の周りで、騒ぎが起こって…。俺が、望んだわけじゃねェけど、結局俺が悪いのかな…」
 牧の顔を見て、三井が、ぽろっと涙をこぼした。
 それを見て、牧は、内心三井を抱きしめたくなったが、いつ、前を行くメンバーが振りかえるかもしれないということに思い当たって、ぐっと我慢した。
 三井の背中を、ぽんぽんと、宥めるようにたたいて、三井に声をかけ続ける。
 「三井…。馬鹿なことをいうな。さっきの騒ぎは、お前のせいじゃないさ。仙道と流川の自己主張に巻き込まれただけじゃないか。それを、藤真や赤木が、勝手に勘違いしてるだけだ。あとで、俺が、赤木と藤真に状況を説明しておくから、気にしなくていい」
 「でも…」
 うつむく三井の肩をそっと抱えて、(この位なら、不自然ではないだろうと考えたのだ)牧が、努めて明るい声を出す。
 「さ、三井、練習だ。国体で全国制覇しなくちゃならないんだから、落ち込んでないで浮上してくれよ。な?」
 「牧…」
 「三井…。少しは浮上してくれたか?三井が浮上してくれるような、ネタを出そうか?」
 ようやく、気分が浮上してきて、牧の振った話しに耳を傾け出したような三井に、牧が、ふっと笑いかけて、話を続ける。
 「神奈川チームの監督は、監督達の協議で、湘北の安西先生に決まったらしいよ。確か、三井の目標は先生を全国の優勝監督にすることだったんだろう?」
 「!う、うん!」
 「なら、がんばろうな!」
 「おう!」
 安西監督を全国大会の優勝監督にするという、三井の願いを、国体で叶えることが出来るかもしれないとわかって、三井は、一気にやる気を出したようだ。
 あまりの変わりように、牧は内心驚いたが、それも、三井が、監督に心酔しているからだと思うと、面白いような、羨ましいような、少し複雑な気持ちだった。
 牧は三井を伴って、一番最後に体育館に入り、先に来ていたメンバーに各自でウオームアップを始めるよう指示をする。
 柔軟を始めた三井に、魚住が近づいてきた。
 「三井、さっきは、ウチの仙道が迷惑をかけたそうで、すまなかったな」
 傍で最初から見ていた福田から、一切を聞いたからと、魚住が恐縮する。
 仙道に視線をやると、福田と陵南のもう一人のメンバー越野に挟まれて、三井を見て、頭を下げさせられている。
 「いや、もう気にしてねーから」
 三井が、そう答えると、ほっとしたように頷いて、離れていこうとしたが、ふと思い出して三井に声をかける。
 「赤木にも、原因を伝えておくから。ホントにすまなかったな」
 そう言うと、今度は、赤木のほうに向かっていって何かを話しているようだ。
 赤木の視線が、仙道と流川に流れ、最後にこちらを見て、再び魚住に戻るのが判った。
 魚住の話に、一言二言答えて、頷いている。
 魚住が、こちらを向いて、大きく頷いているのを見ると、どうやら、赤木も納得したようだ。
 「判ってもらえた様で、よかったな」
 牧が三井に声をかけた。
 「うん…」
 「藤真にも声をかけておいたから、もう大丈夫だよ」
 「…サンキュ、牧…」
 とんだ濡れ衣だったが、とりあえず事態が収まったようで、三井は、ほっとした。
 「さ、練習だ。この個性の強いメンバーを、ひとつにまとめるのはなかなか骨が折れそうだが、がんばろうな」
 牧が、三井に笑いかける。
 「おう!」
 三井も、やる気を前面に出して、牧に答える。
 神奈川県チームの全国制覇への道のりが、今始まろうとしていた。