ダンスをしましょう♪2


ことの始まりは2週間ほど前にさかのぼる。
場所はアイーダのおじいちゃんであり天才人形師ロゼットの工房でミッシェル他、あのときの事件の時一緒に旅をした関係者が一堂に会したときだった。

あの事件より半年…
あの時のメンバーが集まるのは、もともと約束されていたことだった。
お互いの世界の事情を把握するためつながりが欲しかったミッシェルとマクベイン。
今回は忙しくてできなかったが、こんどこそこっちの世界の海岸線を調べ上げすべての海を走破したいトーマス。単純にその後の状況を知りたがったフォルト、ウーナ、アイーダやマイルとアヴィン。
おのおのの事情により情報交換、報告会と称したその予定された集まりに最初に提出されたのは一見事件と何ら関係ない一枚の招待状だった。
 

「王宮主催の舞踏会?」
 

持ってきたのはパルマン。
差出人はブロデイン王国のデュオール。
さりげなく薄紅色の品のよい紙に金糸の鮮やかな縁取り。

その内容は…

「なになに”主催はブロデイン国デュオール王”ああ、やっと王になるのか。
”招待状…”ほほぉ王宮舞踏会の誘いのようじゃな。
”ひとつ、王位継承のお披露目、ひとつ長年険悪だったヌメロスとの国交回復を共に祝して。
ひとつ、そして何より世界を騒がした暗黒の太陽が消滅し、世界に安定と繁栄の来たことを世界的に宣…」

「何バカなこといってんのよ!」

マクベインに読み上げられる招待状の中身に憤慨したのはアイーダだった。
「なにが世界の安定と繁栄よ。あの事件から半年。今世界はまだぼろぼろなのよ。あっちこっち傷ついた土地や人や建物であふれているわ。
特にブロデイン国とヌメロス!そこって問題起こした国じゃないの。
そんななかみんな一生懸命復興しようとし始めたばかりなのよ。
それなのにバカ王子、上の連中はすべてが終わりましたってのうのうとどんちゃん騒ぎをしようってーの?」
ばんっと机を叩いて立ち上がり、止める間もなくアイーダは一気にまくし立てた。
「おいおちつけってアイーダ」
 間髪入れずの沸騰にあわてて押さえにはいるのは隣に座っていたトーマスだが、まったくアイーダは聞く耳を持たない。今にも止めに入ったトーマスの腕を捕まえてぶん投げそうな剣幕だ。
さらりと額にかかる髪の下には純粋に怒りに燃える目。
それほどこの知らせは、彼女にとっては許せないものだったらしい。
それは世界の痛みに心を痛めるやさしいアイーダらしい怒りともいえた。

「こんなもんみせられて落ち着けっての?こんなバカ騒ぎのために命はったんじゃないわよ。だいたいぱるまんさん。こんなの許していいんですか?この文面だとヌメロスは間違いなく共催扱いじゃないですか!」
「まぁ、…そうなるな」
いきなり怒りだしたアイーダの剣幕におどろくでもなく、どことなくいやそうにパルマンは素直に肯定する。

「そうよ、私たちあちこちあるいてまだいっぱい傷ついた人を見てきたわ。
パルマンさんだってまだ王都は復興していないでしょ。それなのに…」
「ウーナ」
アイーダに同調をするウーナに賢しげな目を瞳をしばたかせて、とりあえず止めにはいるのはやはりフォルトで…。
マイルとアヴィンは離れた位置からすこし難しい顔をして、気持ち的にはアイーダに同情を示すがとりあえず無言で静観。
 

「以上ブロデイン王国代表デュオール…”と。

だいたいことが終わって半年か。まぁいい敷きじゃろうな」
そんななか、ことの騒ぎを全く無視してへーぜんと招待状を読み上げたマクベインがのほほんとやはり伽の外にいたミッシェルに話しかけた。
「ええ、タイミングとしては一番いい時期でしょうが、まだまだ国力が安定しない中よく踏み切ったと思いますよ。デュオール王は」
にっこりとまた騒ぎを無視して言葉を返す大魔導師はちゃんともうデュオールを王と呼ぶ。もしかしなくても結構嫌みな男。

「そちらは共催と」
アイーダにつかみかかられているパルマンに助け船を出すようにミッシェルはやはりのほほんと笑いかける。
「恥ずかしいながら我が国はあちらに比べるとまだまだひどい状態にありますし、金銭的余裕がそこまでないので…デュオール殿はそこまで考えてこの形を取って下さったのだと思いますよ」
国交回復という名前を持ってして共催といえば聞こえは良いが財布はあちらだと、パルマンはあっさりばらす。
苦笑というかいやそうな顔の元はどうもこの辺か。
「前も思ったが若いくせに大したやり手だな」
うんうんと1人分かった顔でマクベインは頷いている。
「どういうこと?じいちゃん」
やはり、何か在るなと思っていたのか、単純に事情を静観するつもりだったのか、大人しくも深謀ともいえる海色の瞳を隣に向けて説明を求めるフォルトにマクベインはもったいぶった態度で説明をはじめる。
わざとらしい態度にパルマンが苦笑したのは意識的に無視。

「奴は世界に安全宣言を出すつもりなんじゃな」
「安全って何が安全よ」
「分かるけど、話聞いてから怒れって」
ぶちっといまだに納得しないアイーダをトーマスが一生懸命止める。
「あのな、おまえらは事件の中心にいたから何があったか知っておる。
もう黒い太陽が出ないのも分かっている。
しかしだな、世界のほとんどの人はどこまで知っていると思うか?
世界は戦争をしていて物資は途絶える。
いきなり黒い太陽が現れる。
いまは落ち着いているけどまたいつ、なにが起きるか分からない、
これから自分たちはどうなるんだろうってな」
「だから…」
「ちょうどいいんじゃないか?黒い太陽は出ません、戦争していたおとなりとも
こんな仲良くなりましたから何も心配しなくていいですよっていうんじゃな。
のにあの国が音頭をとるのは一番効果的だろう」

「だからって舞踏会なんて」
アイーダはどうしてもこの上流階級の無駄遣い的なイベントが気に入らない。

「こうみえて王家って言うのは大変でしてね。王家が縮こまっていれば国が疲弊して弱く情けなくなって見える。自分の国の自信のためにも少々無理しなければならないときもあるんですよ」
「お前は上の連中といったがな、確かに奴らは上の連中なんじゃよ。そして上の連中は上の連中で下々とは違った義務やら役割がある。クジャクのようなはったりでも自分の国の力と繁栄と国策を広め、誇示するのは奴らの大事な役目の一つじゃ」
「下の人たちも上のことを文句を言う割には、自分のかついでいる王家が貧弱なのは嫌がるものですしね」
ミッシェルがその斜め後ろでにっこり笑ってフォローを入れる。
「まぁ、本当にはったりという奴ですけれどもね、全世界の大使そのほかをお招きしていますのでいいアピールにもなります」
穏やかにパルマンが話のあとを引き取る。
「それに復興が始まって半年だ。そろそろあちこち疲れてきているはずだ。そのねぎらいと骨休めもかねているんだろう?」
「ええ、この日はおふれで全国民に休養をとらせ、国から酒、そのほかの振る舞いをだしますし…恩赦も…」
ふぅと何かを思い出すような仕草のあと疲れたようにため息をつくパルマン。
この男もその準備にだいぶ神経を使っているようである。

「と、いうことだ、アイーダ」

やんわりとなだめたのはやはりおじいちゃんでアイーダは両手を上げて席に戻りため息をつく。
まだ多少納得がいかなくても聡い彼女のことなのでとりあえずは呑み込んだらしい。
「了解。大変なのね」
王家ってのも。と苦笑一つでとりあえず大人しく席に座った。
 

この頭の回転の速さと切り替えの良さがアイーダのいいところといえばいいところ。

「そうだな、内情が分かっていてつなかければならないはったりって言うのは一番つらいな。デュオール殿は実によくやっている」
自分も王子だったがはったりは苦手中の苦手でずっととてもこんなことはできないと思っていたとパルマンは笑う。
「いやいやおヌシもよくやっているではないか」
そうマクベインに言われてパルマンはほんのり顔を赤くしてまた苦笑する。
「いえ、やはりやってみて向いていないことがよく分かりますよ。まだまだですね」
ヌメロスはあの時以来王政を廃止した。
一時的にという形でパルマンが代表を務め復興の音頭をとっていたが、今度正式に代表を決める投票と決議がなされ、ダントツ圧勝、ほぼ満場一致でパルマンがえらばれてしまったのだ。
パルマンはもとより何かあると自分でかっとんで行く性格で王子であり正統な王位継承者であったころから跡は継がないとかたくなに思っていただけあってこの結果には苦笑するしかない。
しかし何よりも自分が望んだ民主制の選んだことである。
今度こそ反対も出来ずに初代元首に収まって、慣れない仕事に神経をすり減らしているのである。
「いやいやいまの話し方といいなかなか堂に入っていましたよ。」
「それに、その格好もなかなか似合っているぞ。」
「そうですか?」
とてもそうは思えないんですけど、とパルマンはじっと自分の服を見下ろして、苦笑する。
彼はいつもの軍服ではなく白いシンプルな縦襟カラーのシャツに繻子の細いスカーフをタイのように結び真珠の留め具で上品にまとめている。細いダークグレーのズボン、上着は瞳の色と合わせた深いでも鮮やかな緑に白の縁取りのされた外交官の外套を大きめに羽織っていた。
髪は相変わらずの癖っけだが、少しばかりきれいにそろえられ、わざとふわりと右目の上にかかるように整えられている。
髭はきれいに剃られ、すんなりとした長身を居心地悪そうにイスの上でまるめている姿は、その童顔もあいまって新人の秘書官あたりとしかみえない妙なかわいらしさがあってマクベインはやんわりとそこをからかう。
イスの後ろに控える護衛長兼海軍艦隊長官ガゼルも部下や護衛というよりお目付役に見えてしょうがない。
軍服の時も、強面(無表情)にも関わらず、にじみ出る品の良さとやさしさ、不器用さのある人で、190cmの身長の割には線の細いこともあってか、腕の割には軍人としては浮いた印象の拭えない駆け出し士官のイメージがつきまとっていたが。
「えーそんなこと無いです似合いますよ」
素直な賛辞はやはりフォルトから。
「そのような恰好をしているということは、これから他へ外交ですか?」
「ええ、」
今度こそあからさまに疲れたような表情でパルマンは笑って首を縦に振った。
「この招待状を配ると同時に元首会談です。今回で私も正式な元首に決定しましたので、顔見せの意味を込めて挨拶回りです」
まだ始まって間もない行脚の精神疲労にぐったりしているところを見ると本当に彼にとってはこの仕事が”苦手”らしくて笑う。

もともと、彼はその責任の重さをよく知っている人間だからできないと思いこんでいるだけで本人の人格、人を引きつける能力、話し方、リーダーシップ、実際の能力には全く遜色無い男でありそれは部下も回りもそれこそ国民なんか手放しで賞賛し、期待し、認めている。
またそれが分かるから重く感じるのかも知れないのだが…。
その重さをちゃんと自覚できる人間が向いていないわけもないのだ。

「で、わしらも参加しろと」
招待状を眺めながらマクベインはのんびりとパルマンに視線をやる。
「もちろんです。あなた方はこの事件の解決に当たってもっとも活躍した方々です。申し訳ありませんがほぼ強制という形で」
「まぁしかたがないか」
「我々もですか?」
首を傾げるミッシェル。
「ええ、できれば。そちらの世界の存在をいきなり公表するわけにはまいりませんがデュオール王が個人的につなぎをほしがっておりますので、今回は私の個人的な招待客ということになります」
「ええ、私たちはかまいませんよ、ね」
「おう、特に問題ないな」
「連絡入れた方がいいかな」
来訪者組は顔を見合わせて少し笑うと快く承諾した。
 

が、ここで安易に承諾できない人間が1人…
 

「ねぇ、パルマンさん。舞踏会だよね?」
フォルトである。
「そうだが」
「おどんなきゃいけないの」
「別に強要ではないが…おまえたちは間違いなく第1級主賓だからな。
作法から言うとまず舞踏会のホスト(主人)が…まぁこの場合デュオール国王になるが女主人と踊る。あの方はまだ妻帯されてされていないから、彼に選ばれたものはその候補と言うことになり今その鞘当てで大騒ぎだろうがな。
その後第一級主賓と主催者側の重臣の代表がダンスを披露する。
それから無礼講だ。俺やおまえたちはここにはいることになる。」
「断るわけにはいかないんだよねぇ」
「これはお披露目という意味のある形式だ。今回は特に舞踏会の趣旨上おまえたちのお披露目はかかせない。
全員とは言わないが誰か代表を出してもらうことになるな」
「やっぱり?」
代表となれば絶対にやり玉にあがるだろう(というか他にいないだろう)
自覚のあるフォルトはがっくりと肩を落とす。
先ほどの落ち着いた賢い子供はここで大きな壁か深い膿にぶち当たったようで、藁にもすがる思いでもう一人のやり玉であろうウーナを振り返ると
「フォルちゃん。すごいね。王宮で舞踏会だって。王様におよばれするのよ。
お姫様みたい…」
などと女の子らしく夢やあこがれ一杯の目をきらきらさせている。そういわれてしまえばさすがにフォルトは腹をくくらなければならないと悟りがっくりと肩を落とした。
「ダンス…王宮のダンスなんて全く知らないんですけど」
このまま人前に出るだなんて、まさしく動物園のパンダの子供の気持ちだ。
じゃぁふだんの大道芸はどうかといえばそれは芸を見せるという自負があるので問題ないのだ。
芸もなく衆人環視にさらされろなんてまさしく見せ物状態だといっていい。

「何じゃフォルト、踊れないのか」
「爺ちゃん踊れるの?」
「いいや王宮の正式なのはさっぱりだな」
「そうだよね」
じゃぁいうな。こんな時にややこしい。と口にしないのはお利口なフォルト。

「そういえば私達も知りませんねぇ」
とは当然ながら来訪者組。
まぁ来訪者組はお披露目されないから(されたら大変)良いのかも知れないけれども折角の舞踏会踊れないのは面白くないといえば面白くない。

「ならば、一緒にカヴァロに行きますか?」
そんなざわめきのなか、提案したのは行脚中のパルマン。
「自分はこれからカヴァロに行くのですが、ご一緒しませんか?
芸術の都カヴァロでしたらダンスなど教えてくれる人も多いでしょうし、芸術家達とも顔見知りのようですしいろいろ調達しやすいのではないですか?」
フォルトにとってはとりあえず藁で、他の人にとってはとても楽しそうな提案に
一も2もなく一同はカヴァロに行くことになった。
 
 


 
 
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ああ説明だけで終わってしまった。苦手なのに。
「腰蓑?」
だってほらキャラチップの腰のあたり…オレンジのものが。
白いシャツに赤いベスト、こんなジーンズ?ズボン。
相変わらず趣味が悪いというかただ単に分かり易くするためにでも
やりようがあるだろうと言うようなキャラチップ。
のなかでもわりと地味な方ではあるんですけど。

しかしそれを裏切るオレンジ…。
「なんだろね」おしゃれかな?だとしても趣味が悪すぎ。
「タオルじゃない?労働者タオル(笑)」
オレンジの労働者タオル似合うかもしかし
ふっと頭に浮かんだ一言。
「ダンサーみたいなショールかもね」
イベントの日ということもあって、妙ににハイな二人は夜中
その場は大爆笑となりました(笑)。
 
 

(2002.6.18 リオりー)