ダンスをしましょう♪3

 
 
 
 天蓋付きベッドはにはハイビスカスが敷き詰められ
お風呂は薔薇風呂だった…
 
カヴァロについた日のウーナの日記を見れば
つかれたような字でそれだけが記されていただろう。
 

異世界へようこそ〜
まさにそこは異世界。
華麗なる芸術と富と華燭の都。
 

実際は日記にかかれたような、そんなものでは済まなかった。
宿泊用にと通された建物は金の入った大理石の床にびろうどの絨毯。
通された部屋も一部屋が、もと住んでいた家ぐらいの広さで続き部屋。
どちらも同じ作りで暖炉の前には毛皮の敷布、最高級オーク材のアンティーク家具に宝玉の埋め込まれたガラス細工の置物。
びろうどのソファにはドライフラワーの詰められた絹のクッションに紗のカバー。
天蓋付きベッドも羽毛の布団からすべて絹に豪華な刺繍付き。
何ものかですら分からないので日記に記しようもない調度品の数々。
来てしばらく彼らは抜き足差し足で歩いたものだった。
そしてことは泊まる部屋だけでは終わらなかった。
まずこの町に着いたときから、楽団付きで市長自らお出迎えに、町の案内も自らの解説つき。どこへ行っても市民達は彼らの顔を覚えていて、歓迎の挨拶をくれる。
晩餐も豪華きわまりなく、材料の名前も知らないような山海の幸をふんだんに使った華麗なる品々た。

まさしく芸術と文化の町。

そもそも芸術とは金持ちの道楽であり、その華麗さ洗練ぶりはいかなる国王の晩餐も敵わない。
財力、環境も桁違いである。
もちろん彼らはそれほど大したことをしているつもりはない。
彼らにとってはプラスアルファの日常。
ただ自分達を救ってくれた人に心づくしの礼をしているだけなのだ。
相手の当惑も省みずかもしれないが。
カヴァロの…いや世界の救世主の歓迎としては全く妥当なものだといえる…が、

それは、普段大地の寝床に星の天蓋のフォルト様ご一行にはひたすらに驚くばかりの歓迎だった。そしてその驚きはすぐに重圧になった。
 

なんせ常に案内人使用人が付き、始終全てを完全にフォローしようとする。
マクベインが女をくどくついでに酒を飲みに行こうかと場末の酒場にでも行こうとしようものなら酒場は貸し切りにされ、最高級のワインやブランデーが並び、
ウーナがみやげを買いに行きたいと言えばこの町の名産や飾り物が山と運び込まれる。
貧乏人の自覚があるものに、この状況が負担にならないわけがないのだ。
町を見て回りたいと言えば6頭立ての馬車が用意され
服も最高級の服が毎日さしいれられ、町の歌劇団から毎夜のごとく招待状が届く。
女の子らしく姫君のような生活にあこがれなど抱いたことがあるウーナですら、最初は喜んだものの、長続きはしなかった。
なんたって住み慣れない、着慣れない食べ付けないの3拍子。
衣擦れの音が気になって寝られないなんて理由が反対なら姫君の条件にふさわしいものかも知れないが…
絹特有の音がきになるというとまさしく貧乏人の慣れのなさを暴露しているようなもので、綿に変えてくれとは恥ずかしくていえない。というか勇気を出して口にしたら最後、絹が最高級の金銀染め絵のついた綿織物などになるだけなのだ。今度はさぞかし金箔がかさかさなる音が気になってしょうがないに違いない。
「あたし絶対に玉の輿は狙わない…」
フォルト以外に目がいかない人間が何いっていやがるんだ、だが、言いたくなる気持ちはよくわかる。
 
 

とうぜんダンスも何人もの生え抜きの講師が1からみっちり教えるための体勢を即座に整えてくれた。
 

確かに有り難い…ありがたいのだが…。
 

1からというと本当に1から。それこそ挨拶から足の出しからの順番までである。別にフォルト達ははダンスのプロになろうというのでもなければ、貴族社会にデビューというのでもない。ただ単に一度っきりの舞踏会で恥をかかない程度、恥をかかさない程度に一曲踊れればいいだけなのに…。
もちろん憶えていて悪いことではない。
 

ありがたい…の…だが…。
 

「つかれる…」

フォルトのつぶやきが今の彼らの全てだった。
とりあえず口に出来た感想のは…だが。
 
 
 
 

いかなる環境も乗り越える…とは彼らの自負だが、。
乗り越えるとは自分で自分なりの環境を整えるということだ。
しかしながら今回は全てが用意されている。
言う前から、差し出され好きに選べでは頭が着いていかない。
端から見ればうらやましい環境…なのかもしれない。
王侯貴族すらお呼びのつかない贅沢をとはこういうことではなかろうか。
少なくともパルマン殿下を見ていると一体この差は何だろうと思わずにはいられない。

その彼らをここに連れてきた張本人にして当のパルマン殿下はというと、一晩だけ泊まって次の日には次の目的地へと旅立っていた。
もちろんパルマンの目的は招待状配りと顔見せというもだ、用事が終われば次に行くのは当然なのだが事態がこうだともしかして面倒な相手をこちらに押しつけて逃げたのでは無いかと勘ぐりたくもなってくる。
 

 被害者はもちろんマクベイン一座だけでは収まらなかった。
その華麗かつ豪奢な災難は、一緒にこちらの国の最高文化を堪能という軽い気持ちでついてきた、来訪者達にも降りかかった。
一週間と持たず、船の整備と理由を付けて逃げ出しトーマスと、魔導研究という理由で遺跡に籠もったミッシェルはいいとして、カヴァロ占領下でパルマン達に手を貸したアヴィンとマイルは逃げる理由も見つけられないままにやはり歓待責めに会うハメになった。
もちろんこれらの行為を災難と呼ぶのは失礼な話であると彼らも理解している。贅沢を楽しむだけの素養があればこれほど楽しめる場所も状況もないだろう。それも分かっている。
しかし悲しいかな彼らはいなか村育ち、山育ち、世界放浪という人生をたどってきてどこを探してもそんな貴族趣味的な素養などツメの欠片ほどもでてこなかったりするわけで…。

そして限界は彼らのほうに訪れた。
 
 

「勘弁してくれよ!」
と、最初に切れたのは、短気な方のアヴィン。
といっても切れた相手はマイルだったりするあたりが、性格的な限界をみせている。
これをカヴァロの人の前で言えたのなら少しはかっこよかったかも知れないが、しかしそこまで彼らの善意に恩知らずにもなれず、彼はとりあえず部屋でマイルとふたりっきりの時に口の中で毒ついただけにとどまった。
それにマイルは溜息の返事を返す。
気持ちは同じと言うところか、それとも親友の癇癪にやれやれと思ったためか。

「脱走しねぇか?」

短絡的解決法はもちろんアヴィンから。
それを止めるのももちろんマイルの役割。

「脱走して行方不明になったら、捜索隊がでるんじゃない?そうすると僕らの身柄はフォルト君達マクベイン一座の預かりになっているようなものだから迷惑かかるだろうねぇ」

もちろん、別に彼らは彼らで単独の存在なのだが、この世界で人に接するときは身分保障のようなものとしてこの国の人の(しかも信用の置ける人物)が間にはいるのが一番問題がない。今回はマクベイン一座と一緒にカヴァロに招待された関係上、彼らの行動は間違いなくフォルト達の責任に繋がる。だから、ことは簡単にいかないのだ。

「奴らも連れてさ」
「彼らはたぶん動かないよ」
「なんでだよ」
「ダンスを憶えなければいけないから」
「……」

そうなのだ。いくら彼らが招待客とはいえ流れの民。
どうしても嫌なら理由など何でも付けてでていく手はいくらもある。
しかし彼らには”王宮でお披露目ダンス”という死刑台に引きずり出されるような気持ちになれる使命がのしかかっているのだ。
これをクリアしない限り、出て行くだけの勇気なぞもてるわけもない。
そして彼らの預かりになっているアヴィン達の運命もしかりなのだ。

「どこかでダンスの先生も調達しなければいけないわけか…」

がっくりとうなだれるアヴィン。勝手の分からないこの世界で何でそんなものを探さなければ行けないんだろう。
畑違いもいいところ、
盗賊団を一つつぶしてこい、とか、そういう方がよほど楽かも知れない。

「しかたがない」

打つ手が見あたらず、というかそもそもあまり何も考えていなかったのだろうが、暗澹たる気持ちでうなだれるアヴィンを見かねたのか、マイルがやれやれと溜息をついた。

「?」
「相談しにいこう、というか助けを求めて見ようよ」
「だれに」
「…ぼくは、このことを相談できる人って、この人しか思い浮かばないんだけど」

はてなマークを浮かべた表情を返すアヴィンにマイルは悪戯っぽい苦笑を返した。

「パルマンさん」

考えればパルマンの名前がでてくるのは当然のこと。
彼らのここの世界の中での少ない知り合いの中で、カヴァロ市長と交渉できるだけの立場の人間で…
そして彼らの気持ちを一番分かってくれそうな人間
要するに一番貧乏くさいということなのだが

彼らをここに連れてきた張本人、パルマン…だったりする。
 

やはりというかそれしかないというか…。
 

とりあえずテレポートを使ってパルマンの船にマイルがとんだ。
 
 




 
 


サブタイトルは善意の狂走曲…というか競争曲(爆)
実際昔の大商人というのは、王侯貴族すらマネできないような
贅沢をした人もいるみたいですね。
ちょっとそういうのをかいてみたくて入れてみました。
自分で稼いだ金だからまぁ貴族共よりも共感を持ちますが…。
やだ…関わりたくはないですね。
接待ゴルフやパーティですら、私つきあいたくないんですから…。
家で大人しくはんてん着てお茶漬けの方が好きです。私は…(笑)

しかしまた説明文だけで。いつ本筋に戻るのかしら(爆)?
「腰蓑」君のおかげで妙にダンスが出来るパルマンさんが生まれました。
「だって王子様だもん。それくらいできるよね」
「いや、根が真面目だからもう全部
完全に出来るまでもくもくと…」
「先生の方がたじたじになったり(笑)」

そんなこんなで妙に脱線した王子様イメージが出来上がって
行くのでありました。
次には本筋に戻したいですねぇ…(人ごとみたいに)。
ダンスダンスダンス
 

(2003.8.10 リオりー)