ダンスをしましょう♪1


 

ダンスをしましょう

私が手をさしのべたら
貴方はどうぞ手を取って

ダンスは1人では踊れない
それはきっと大事な会話にも似て…
 

「1・2・下がって…そこで女性が右にターンするのでターンのリード」
 すらりとした長身の青年が少年の腕をとったまま小さくステップを踏み軽く右にターンの真似をしてみせる。
「こ、こう?」
 ひときわ小柄な少年が慌てながらもいわれた通りに動きを追ってみせる。今度は本番とばかりにそのまま大きくターン、くるりと青年の腰に巻いたスカーフが翻る。

「そう…そのまま動きをいったん止めて決め…そして次の拍でまた右足から…」
 たどたどしいながらも青年と少年の一組は何もないがらんとした部屋に綺麗な影の動きを落とす。
「1・2.3で進んでひいて…右から反転左に反転、また右に1・2・3で下がってくるっとターン…、基本はその繰り返しです。大分憶えてきたようですね」
「うーんなんとか…」
 まだ自分と自分の足下しかみられない状態ではあるがなんとか流れはつかんだと言うところか。
「フォルちゃんすごーい」
 男二人で(しかも女性パートははるかに背の高いほう)という異様さはともかく、それなりに形になってくるくると踊る姿に 、先ほどまで生徒としてやはり先生と踊っていた少女(こちらは背の高い騎士と可憐な少女ということで 実に様になった)は歓声を上げる。
少女はさっきおそわったステップの復習に一人あっちにうろうろこっちにうろうろしながら隣の二人をちらちらとみている。正確には少年の方をだ。踊って欲しくてしょうがないらしい。

「やはりフォルト君は運動神経が良いようだしリズム感も言うに及ばずだから飲み込みが早いな」
「パルマンさんの教え方がいいからですよ」
 感心されたような口調に、えへへと照れて笑いながらフォルトは誉めてくれた先生を見上げる。
先生はヌメロスの元王子、エクトル殿下ことパルマン。
今では、ヌメロス国民の選んだ国の首相であり全権大使。
さすがにダンスはお手の物であるようで、フォルトより頭一つ以上高い背を意識させることなく相手役として女性パートを実に軽やかに踊ってくれた。
鎧に身を包み運命に対峙していたときのあまりにも実直で近寄りがたいほど鋭く澄んだ雰囲気も、生成のシャツに何の変哲もないズボンでくつろいでいる今は穏やかでおっとり真面目で控えめで優しい印象ばかり。
生真面目さだけは相変わらずのようで、もとよりそういう本質の人なのだろうと思わせられる、そんな人がくるりと踊る姿はなんとなく綺麗だとフォルトは素直に賞賛のため息を吐いた。
実際フォルトは踊るよりこういう人のために伴奏をつけて曲を弾きたくてたまらないのだ。
「あとは練習するだけだな。本番はもう少し早い」
「フォルちゃん早くあわせてみよう?」
しかし、はやく一緒に踊りたかったウーナはここぞとばかりにフォルトの腕を引っ張るのでフォルトは少し苦笑い。
「あ、うん、そうだねウーナ」
そんな共に旅をしていたときと何ら変わらない二人の姿をパルマンは微笑ましい気持ちで眺める。
「そうだな、できるだけパートナーと練習して呼吸を合わせておいたほうがいいだろう」

「はーいありがとうございました、あ、また後でみてくれませんか?」
「いいとも、いつでもいってくれ」
 まぁ、ダンスを披露しなければならない披露宴は一週間後だからこの調子なら、何一つ問題はないだろう。
あまり無理をしないように言い含めて、足音も立てずに部屋を出ようとするパルマンの前でばたんと大きな音を立ててドアが開いた。
 

「わーー待った待った!」
そのドアから大慌てで飛び込んできたのはアイーダとスレイドことキャプテントーマスだった。
 

「どうしたのアイーダ」
「ま、間に合った?」
アイーダはぜぇぜぇ息を切らして入り口で一生懸命息を整える。
「間にあったってなにが?」
 何事があったかとフォルトが駆け寄ってアイーダの背中をさすってあげる。
「何がってダンスの練習よ!私にも教えて!!」
 話を聞いてあわててかけてきたらしいその答えを聞いてフォルトは目を丸くした。
 

「アイーダって…ダンス好きだったんだ」
 

「なにいってんのよー、私とパペットは普段どうやって呼吸あわせの練習をしていると思うのよー」
ずるーい抜け駆け抜け駆け、と子供のように手をぱたぱたと振る。
呼吸からしてかなり遠くから一目散にかけって来た様子がうかがえるのに元気なことである。

「なんだ…そういうことか」

反対にスレイドは、がっくりと部屋の入り口で首を落とす。
こちらは血相変えて走っていくアイーダをただ事じゃないと意味も分からず追いかけてきたらしい。
事情も分からず意気込んで来ただけに空振りの脱力感はちょっと悲しい物がある。
「あら?トーマス踊らないの?」
うれしいお誘いとも取れる言葉にもトーマスは首を落としたまんま緩く手を振るだけだった。
 
 
 
 
 
 

「しかしなんだな、パルマンさんよ、あんたにこういう特技があったとはな」
 生徒だった3人とパペット一体が楽しそうにくるくると復習のダンスを踊っているのを眺めて、見学者と化していたトーマスがパルマンに話しかけた。
「得意というわけではない、スレイド殿。ただ一応王族の身だしなみとして一通り身につけただけに過ぎません」
「スレイド殿はよしてくれ」
「ではキャプテントーマスと…」
「トーマスでいい…」
「では私のこともパルマンで結構です」
仲良くなろうとしているのか突っぱねているのか分からない口調と内容にトーマスは苦笑する。
そういえば前の戦いの最中はほとんど喋ったりはしなかったっけ?
接点もほとんどなかったがみた目通りのというか、受ける印象通りの男だ。
いい奴だが話していて疲れる奴というのはこういう奴のことかもしれない、とトーマスは何となく納得する。
あまりにもぶつぶつに途切れたような会話に、なんとなーく疲れて壁になつきたくなる。
別に悪い奴じゃないし(むしろその反対)、バカでもない。
真剣で正直でくそ真面目で情にも熱くって、でもそれなりに融通も利くのだがなぜか本当にそっけない。
話し方もそうだが何に対しても、とにかく自分自身に対してあまりにもそっけないと、あの戦いの最中に何度もそう思ったっけ。今もそのへんの印象は全然変わらない。
それでもすらりとたつ姿は…
 

「でも今のはリングサークの王宮舞踏だろう?」
多少博識の所をトーマスも見せる。
「ええ、最も有名な古典舞踏の型です。少し難しいですが古典舞踏の傑作と呼ばれるだけあって、あれさえ憶えていればここの大陸ならどこの公式の場でも恥をかくことはないですから…」
「ふーん?ずっとみていたけどさ見事なもんだったぜ」
「ありがとうございます」
「あんたさ、一通りって言ってたけど一通りっとどれくらい?」
「一通りとは公式の場に認められている踊り、タイプで大きく分けて系統、派生したステップで54種です」
「全部憶えているのか?」
「ええ、最初からどれが向いているかなんて分かりませんでしたしそれぞれの体系に先生もつきましたから…
まぁ本当にたしなみ…というか、まぁ義理でというレベルですよ」

うげーといいながらもトーマスはどこかで感心する。
きっとこいつは必要だといわれてすべてに優を取るまでやったに違いない。そんな性格だもんな。
さっきのほとんど無意識で動いているとすらおもえた、軽やかで滑るようなステップをみればわかるが、かなり上級の域だ。真面目もこういう方まで行くとなかなか拍手物かも知れない。

「じゃぁさちょっと頼みがあるんだが…」

少し口ごもりながらもさっきから考えていたことをトーマスは口にすることにした。
言いにくいことこの上ないが確かにこいつが一番適任だろうと言葉を続ける。
つっこまれても躱し易いという面でも適任だ…
「俺にもあとで何種類か教えてくれないか?」
ダンスを…柄にもないが…。
「ええ、いいですよ」
理由も聞かずにあっさりと快諾してくれるこの時ばかりはその無頓着で鈍な性格に非常に感謝をしたトーマスで…
 

「アイーダ殿はダンスがお上手ですからね」
「……」
 

パルマンこともとヌメロス王子エクトル殿下。
王政がなくなった今でも国中が代表に選ぶだけの男。
ちょっとは侮れないのであった。


 

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あら?導入にもなっていない?
もともとは去年の5月いきなりイベントのために
転がり込んだほむら宅で死ぬほど眠いのに
みせられたパルマンロードパルマンのでてくる
場面ばかりを見せられると言う)がきっかけでした。
工場潜入のパルマンのキャラチップをみた私が
「なに、このこしみの…」
といったのが全ての始まりでした(続)

(2002.6.18 リオりー)