何も言えない強気の自分 13



 

 ギィン…二つの白刃が信じられないほど重い音を立ててお互いをはじく。
 

ビクトールとマイクロトフ。
 

この並でない戦士達は、戦いとわかった次の瞬間から全力を出せたし、実際今もその力を相手にぶつけて見せた。
並の戦士ならその一撃を受けとめたら最後、腕がしびれてしばらく使い者にならなくなるだろう。
そんな重い剣戟を二人はまるで流れる水のごとく上へ下へ、はじかれては繰り出し、繰り出しては受け止めてを繰り返していた。
打ち合う刃からはぜる火花が陽光の中、目に見えるほどに…。

まさしく力対力
そしてその重さからは考えられないほどのスピード対スピード、技対技。
 

戦いは全く長期戦の様相を呈した。
単純に一対一の勝負では技と正確さでマイクロトフがわずかに有利、しかし足場など悪条件があればそのぶんだけイレギュラーに慣れたビクトールの有利。
しかしどちらも紙一重の差の上に成り立つ絶妙なバランスのタイトロープ。
多少の有利不利などたった一撃がでひっくり返されてしまう、一瞬の試合の無限の積み重ね。
 

わずかな差をみせて、マイクロトフの正確な一撃がビクトールの剣の鍔元に入る。
ギィン…白刃が斜めに当たる嫌な音が振動となって、刀を持つ手を苛む。

「ちっ」

剣を取り落とさなかったのはビクトールだからであろう。
打ち込まれた刃を削るように、しかし最小の衝撃で斜めにうちはらう。

しかし、かろうじて受け流したものの、腕に走るしびれに、ビクトールは舌打ちして、体勢を立て直すために半歩下がって間合いをあける。
すかさずマイクロトフは一気に間合いを詰め決着をつけようとする。
わずかな隙も決して見逃されることはないそれは獣の領域。
マイクロトフがそのとどめの一撃を振りかぶった瞬間に半歩下がったビクトールの足が土を蹴り上げて、マイクロトフの鳩尾にむかってとばされる。
腕の痺れは本物でも、終われたように半歩下がったのは誘いの一手だった。
気付いたときには遅い。
跳ね上げられた土はマイクロ等の顔面をおそう。
一気に詰めにかかった前傾姿勢では下がることもできず、顔をかばえば必殺の蹴りが入る。
しかし、マイクロトフは下がることも、顔を庇うこともしなかった。
マイクロトフはとっさに跳ね上げられた土が目に入らないようにだけ留意して、そのまま顔をつっこませ、振り下ろす剣の柄をそのままビクトールの蹴り足にたたき込んだ。

「うぁった…た」

「ちっ…」

お互いの必殺をかわしたものの、バランスを崩した両名は次の瞬間、はかったように後ろにとびずさり体勢を立て直す。
 

「やるな…」
柄で殴られた側の足の状態を確かめるように、その足でとんとんと地面を叩いて、ビクトールはにやりと笑う。
「そちらこそ」
マイクロトフは顔や髪にとどまる土を油断無く払い落としながらうれしそうに笑う。
 

うれしい?
ああ、確かに自分は嬉しいのだ。
こんなにも。
 

「このひっかけをかわされたのは初めてだぜ」
「こちらもあの一撃を受け流されたのは久しぶりです」

「ふん…おまえ卑怯だっていわないのな」
「なにをですか?」
「蹴りだよ。蹴り入れたの」
全身から殺気とも呼べる気配を放っていても喋る口調はあくまで軽いビクトール。
もしかしなくても戦場でもこんな感じなのだろう、そう思うマイクロトフも落ち着き払った話し方で。
二人ともあくまで楽しそう。
「いいませんよ。これは剣技の訓練じゃなくて実戦なのでしょう?」
剣の技だけで戦えるのは闘技場くらい。
そんな戦い方は傭兵はほとんどしないだろうし、続く実戦の役にも立たない。
いや、役に立つかたたないかという観点は、まったく今の頭には浮かばないが…。

「いいねぇ気に入ったな…」

二人は言葉を交わしながらじりじりと間合いをつめていく。

それにしてもいい。
この相手は最高だ。
強い強いと普段から同じパーティに入る度に思ったが、実際に初めて戦ってみて、これ以上楽しい奴もいないことを実感させられる。
タフで強くて強さへの純粋な渇望を持ち己の腕に人生をかけられる男。
そこには策略やつまらない駆け引きなんかない。まっすぐな意志。
立つ位置も剣の型もちがえど同じ種類の剣を振るう戦士だ。
己のすべてをかけ、剣を交え己を高め、強さをはかるにはこれ以上ない相手にであえて、二人の口元には我知らず笑みが浮かぶ。

呼吸が少しずつ沈静化してくる。

汗が止まる。

周囲の音は消え失せ、お互いの立てる音だけがやけに響く。

雑念はいまはかけらもない。
そして、どちらが立てた音だろう?
足の下の小枝がぱきりと音を立てたのを合図にまた二人は果てのない死闘を始めた。
 
 

 
 
 
 
 

どれくらい打ち合っているのだろう。
どれくらい…。

その感覚は二人にはもう無い。
いつまで…
もちろん決着が付くまでだろう。
殺すためでない、しかしただ純粋な勝負の決着が付くまで…。
 
 

限りなく打ち合う重い剣戟に両の腕はとうに痺れ、心臓も限界の働きをその音で体の中から警告を繰り返す。
それなのに二人の呼吸はいっそ止まっているかのように、微かな音しか感じさせず、汗一筋すらもその額には浮かばない。
己の全てを支配下に置いて5感の全てを相手に向けて白刃のダンスを踊る二人には時間の流れなどどうでもいいのだろう。
すでに二人とも言葉もなく、視界すら必要のないものになりつつあった。
爽やかな陽光も、涼しげな風もざわめきも…何一つ彼らの集中力を乱すものは何もない。
思考など何一つまともに働きはしない。

もちろん
ちっぽけな悩みも
心に刺さる棘のような痛みも…。

なにもかも…
 
 

そんな彼らの戦いの終わりは、決着ではなく、けた外れに大きな雷の一閃…だった。
 

「!」
 

雷は遠慮なく二人を狙ったものであった。
が、彼らは奇跡的にも避けた…奇跡的というより魔法の発動の直前に発せられる殺気に二人がとっさに反応したためだった。
雷は遠慮なく二人のいる場所をえぐり一瞬にして消し炭にした。
風も光も意識外だった二人だが流石に研ぎ澄まされた神経は自分に向けられた殺気は拾い上げたらしい。
お互いではない。第3者による隠しがたい殺気。
 

「な…なんだ?」
「敵襲か!!」
 

二人反応はもっともだったが、こんなに城に近い場所で敵襲では、攻撃されるより前に自城でもっと騒ぎが起きそうなわけで…。
そしてこんなに城の近くで私闘をすれば見付からないわけもなく…。

我に返った二人が見たものは…

ふらふらになりながらも最大級の雷を放った張本人フリック…。
それで気付かなきゃ続けざまに最後の炎だとばかりにかまえる、すさまじく険悪な顔をしたカミュー…。
怒りの仁王立ちのシュウと
そして…遠巻きに…ほんとうにとても遠巻きに彼らの試合を眺めるたくさんの観衆…城の住人だが…の山であった。

そして外界の音を取り込めるようになった耳に最初に飛び込んできたのは、もちろんそのシュウの怒号だった。
 

「おまえら、何をやっている!!!」
 
 

 

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おひさしぶりね〜(涙)久しぶりスギです。
おまけに短すぎます。切る場所が自分でも見付からなかったもので…。
どこまで書いていいものかわかりませんねぇ…
ギャグ内のシリアス(?)

(2003.2.12 リオりー)