気がつくと

ここに 居た・・
 

いつ 自分の部屋を出て

暗く冷たい回廊を渡り
 

この部屋に辿りついたのか・・
 

銀色に輝く 小さな鍵で

固く閉ざされていた扉を開いて
 

灯りを落とした部屋の中には

ベッドに横たわり
安らかな寝息を立てている

マイクロトフ
 

気がつくと
 

その姿を その表情を

食い入るように見つめている
 

自分が いた・・
 

一体 いつから

こうしていたのだろう
 


 

待つことに耐えられなくなった私は

いつしか
マイクロトフの部屋に居た

ベッドの傍に立ち
眠る彼の姿を じっと見つめて・・
 

その現実を 何度も心の中で
確かめる
 

そう これは

現実のことなのだ
 

いつも 私を苦しめる夢ではない
 

何故なら・・
 

彼の吐息も その温かさも

間近に感じ取ることができるから・・
 

微かに香る

陽の光を充分に浴びた干草のような

彼の匂いも
 

決して・・ 夢などでは ない
 

胸を過ぎる

暗い 高揚感

深い・・ 罪悪感
 

こうして 枕もとに忍び

恋人の寝顔を盗み見るのは
 

罪 だろうか・・?
 

息を潜めて・・
 

緊張の解けた あどけない表情を

思いのほか 長い睫毛を
 

僅かに綻んだ口唇を
 

吐息を・・
 

不意に 息苦しさを感じて
短く 息を吐く

それは 掠れ・・ 熱を帯びて・・

身の内で荒れ狂う
熱い炎の存在を自覚させる
 

黙って見つめているのも

もう 限界だった
 

手を伸ばせば

直ぐそこに 彼がいるというのに・・
 

こうして 枕もとに忍び

恋人に触れるのは
 

冒涜 だろうか・・?
 


 

長い葛藤の末・・

誘惑に負けた私は
 

マイクロトフの髪に

そろそろと手を伸ばしていく
 

指先に触れる 漆黒の髪
 

そっと梳いてみれば

さらさらと 指の間を流れて・・
 

心地良い感触に

何度も 何度も 指先を動かして・・
 

「・・ん・・・」
 

彼が 微かな声を漏らして
寝返りをうつ

その手が上がり
無造作に 髪をかき回す
 

そして 再び・・

安らかな寝息
 

そんな子供っぽい仕草に
笑みを誘われつつ

くしゃくしゃになった髪に手を伸ばし
整えてやりながら・・
 

私の心には

益々 邪な想いが満ちてくる
 

どうやら彼は
すっかり夢の住人のようだ

いや 夢さえも届かない
深い眠りに落ちているのかもしれない
 

それならば
 

もう少し・・・
 

触れてみようか
 


 

髪に遊ばせていた指先を

こめかみから頬に滑らせて・・
 

肌のなめらかさを確かめる
 

親指だけを動かして

ゆっくりと・・
 

口唇を なぞってみる
 

くすぐったかったのだろうか
 

再び持ち上がる彼の手を

今度は捕らえ・・
シーツの上に押しつけて
 

眠りの中にいる彼が
無意識に身を捩り 眉を寄せる・・

その様を楽しむ
 

そして
 

僅かに綻び

誘うように 甘い息を吐いている

愛しい恋人の 口唇
 

一瞬 眩暈を覚え・・

身体が 熱を帯びていく
 

これほどまでに

私の自由を奪い
思考を麻痺させるものが
 

ほかに あるだろうか?
 

捕らわれてしまえば

後は もう・・
 

抗い難い力に 操られるように
 

そっと・・ 静かに・・・
 

口唇を 寄せて
 
 

マイクロトフ
 

お前は 許してくれるかい
 

こんなにも欲望に支配された
 

私を・・
 
 

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