夢魔
 
 

私は・・ 何をしているのだろう・・・
 

気がつけば ここに居た
 

真夜中を 遥かに過ぎている時刻
 

瞳の前で

ベッドに横たわり
安らかな寝息を立てているのは
 

マイクロトフ
 

灯りを落とした 薄暗い部屋の中
 

ぼんやりと浮かび上がる

彼の姿を・・ その表情を・・・
 

もう どれくらいの間

こうして 見つめているのだろう・・
 


 

今日 思いがけず
マイクロトフの部屋の鍵を手に入れた
 

それは 朝

何時ものように

彼が 朝食を共にと私を呼びに来たとき
 

その髪から香る 仄かな石鹸の香りに
ふらりと誘われ 手を伸ばし・・

キスを仕掛ける
 

一瞬 驚いたように瞳を開きながらも
抵抗を見せないことに気を良くして・・

今度は ベッドに押し倒す
 

スプリングの軋みと共に

さすがに 暴れだす彼を
両腕でゆるく抱きしめながら
 

冗談だよ
 

そう言って 微笑んで・・
 

本当は これっぽちも

冗談などではないというのに・・
 


 

マイクロトフと恋人同士になって

一ヶ月あまり
 

今まで 恋愛など
微塵も寄せ付けたことがなかった彼は

恋人としての触れ合いに
全く 免疫がなく

伸ばした手にも
過剰に身体を強張らせてしまう
 

それでも

長い間 抑えつけていた想いは
止めようがなくて・・

いずれ 慣れることだと
強引に手を進めようとするたびに
 

彼の 澄んだ藍色の瞳が

私を 見る
 

不安と 焦りと・・

どこか諦めを感じさせる 視線
 

それは

私の手を 欲望を

完全に抑え込む威力を持っていて・・
 

敗北を 認めざるを得なくなる
 

だから
 

今はまだ・・
 

キスを交わすだけの 恋人
 


 

そんなマイクロトフが

暴れた弾みに ベッドに落としていった

銀色の鍵
 

朝の時点では 全く気がつかなくて
1日が終わり 部屋へと戻り・・
 

灯したランプの光に

きらりと光る それを見つけた
 

一瞬で 脳裏に朝の一幕が浮かび
持ち主を認識する
 

問題は・・

これを どうするのかということ
 

鍵がなくては部屋に入れず
マイクロトフも困るだろう
 

届けてやろうか?
 

しかし 一方で
淡い期待も湧き起こる
 

困って・・ 私の部屋に来てくれるのでは?
 

それならば

鍵など知らない振りをして
一晩 部屋に泊めてしまうのも良い
 

さして迷うこともなく 選んだのは・・ 後者
 

罠を張って獲物を待つように・・

何も知らない彼の訪れを
今か今かと待ちうけるのは

なかなか心躍るものがある
 

しかし

そんな気持ちも
 

1時間・・ また 1時間・・・
 

時間の経過と共に
焦りや苛立ちへと変わっていく
 

何故 彼は来ないのだろう
 

予備の鍵を持っていたのだろうか

それとも・・

私以外の 誰かの部屋へ?
 

彼が望めば
誰もが喜んで部屋を提供するだろう

中には 良からぬことを
考えている者もいるはずだ
 

そう思うと・・

居ても立ってもいられなくなる
 

今からでも 鍵を届けに行こうか
 

・・・どこへ?
 

時刻は 午前零時を回っていた

まさか こんな時間まで
仕事をしていることはないだろう

鍵がないのだから
当然 部屋にいるはずもなく・・
 

再び 胸に苦い思いが湧き上がる
 

マイクロトフ
 

何故 お前は

私のもとに来ないんだ
 
 

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