「・・どうした、傷が痛むのか?」
 

視線を逸らした俺の耳元で カミューが囁く
 

身を案じるというより
どこかからかうような その響き・・
 

そんな理由ではないと 分かっているだろうに!
 

心の内を 全てを見透かされているようで
腹立たしさすら覚える
 

「大した傷ではない。」
 

殊更 ぶっきらぼうに応えると
 

「そうかな?」
 

笑いを含んだ声と共に
カミューの指先が 俺の騎士服にかかる
 

「・・おい!」
 

首元のプレートを外し ベルトを解いて・・

止める間もなく 器用な指先は全てを暴いていく
 

「・・やっぱり。お前の怪我は脱がせてみないと分からない。」
 

得意げな調子で 言いつつ

指先は 肌蹴た騎士服の中へと滑り込み
胸元に巻いてある包帯の上を辿り始める
 

「・・っ!」
 

触れられた途端 思わず顔が歪む

全身を貫く 激痛
 

戦いの最中 味方を庇って敵との間に割り込んだとき
避け切れず 剣の柄で思い切り殴られた跡

恐らく・・ 肋骨にひびが入っている

城に帰ってから手当をすればよいと
打撲と偽って 今は湿布を当ててあるばかりだ

それなのに・・
 

カミューの指先は 更に力を込め触れてくる
 

「・・その顔・・良い、な。」
 

そんなことを 呟きながら・・
 

「・・く・・・」
 

苦痛を悟られまいと
俺は 漏れそうになる声を必死に噛み殺す

くっくっ・・と 咽喉の奥で笑い
尚も手を退けない カミュー
 

痛みのあまり 額に汗が滲む
 

「・・さすがに、声は上げないか・・・」
 

いかにも喜色を含んだ声が耳にはいり
俺は 奥歯を噛み締めながら

カミューを睨み付ける
 

わざとやっているのだ この男は!
 

まるで 手中の獲物をいたぶるように

痛みに耐える様を楽しむように・・
 

「怒るな、ちゃんと手当を受けないからだよ・・」
 

ようやく手を引きながらも 琥珀の瞳には
依然と 楽しげな加虐の色が浮かんでいる
 

「・・それは、お前の・・方、だろうっ!」
 

痛みから解放された俺は 悔し紛れに
荒くなる息を抑えつつ言い返すと

カミューの頬へと 手を伸ばす
 

未だ血に濡れる 傷痕

頬を伝う 鮮やかな赤
 

しかし 俺の手がその傷の触れる寸前で
包帯に包まれた手が それを阻む
 

「私は、良いんだ。」
 

さらりと応えて・・
今度は 俺の手を弄び始めるカミュー

同様に 幾重にも巻かれた包帯の上から
掌を 甲を 何度も行き来する指先・・
 

じわりと・・
 

今度は 痛みとは違った感覚が湧き上がってくるようで
俺は 慌てて手を引こうとする
 

その手を 追うように伸びる

カミューの手
 
 

互いの身体が
 
 

触れるばかりに近くなる
 
 

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