「・・ここに、居たのか。」
 

低い声で そう呟いて
険しい表情をしたカミューが近づいてくる

その様子は いつもの
優雅で華麗と賞される姿とは 随分異なっていた
 

鮮やかな赤の騎士服は血と泥に汚れ
所々 剣先を受けて裂かれている

両手に 繊細な指先を覆う純白の手袋はなく
幾重にも巻かれた 血の滲む包帯

そして 一際 瞳を惹く
 

左頬の傷
 

秀麗な顔に走る その傷口からは
未だ 血が流れていて・・
 

ふと 誰かが言った言葉を思い出す
 

−− あいつは まるで野生の獣のようだ −−
 

戦場で カミューに向けられた言葉

全身に 誰をも寄せ付けないほどの気をまとい
負った傷さえ他人に触れさせようとはしない
 

気高くも傲慢な その姿
 

今も 騎士服の上からおざなりに巻かれた包帯
血が流れるままになっている頬の傷

大気をも震わせるような気配を漂わせて・・

瞳の前で 静かに膝を折るカミュー
 

「・・・酷い、格好だな。」
 

言葉と共に 包帯に包まれた手が
俺の頭に巻かれている包帯に触れる
 

何かを確かめるように・・
 

指先でゆっくりと辿っていき

ちりっとした痛みに 俺が顔をしかめると
くすりと笑みを漏らす
 

「痛む、か?」
 

そう言いつつ 尚も触れてくる手を払い退けて
俺は カミューの瞳を見る

僅かに見上げる 琥珀の瞳は赤みを帯び
未だ 戦いの余韻を残していた
 

ふっと 漂う 血の臭い・・
 

それは 何とこの男に似合うことだろう
 

全てを焼き尽くす 炎の紅

全身を染める 血の朱

そして・・
 

煌く琥珀の 瞳の奥に
激しく燃える
 

情熱の赤・・
 

それが 今 自分に向けられていると想うだけで
身の内が疼くような 熱と興奮を覚える
 

激しい 飢え
 

頬の傷に口付け 舌を這わせたい

舌先に感じる血の味は・・
 

甘いだろうか
 

そんな考えにうろたえ 視線を下に逸らすと
カミューの大腿に走る傷が瞳に映る
 

再び湧き起こる 血の誘惑
 

・・眩暈が する
 

何故 こんなにも

傷を負った この男に欲望を覚えるのだろう
 
 

血に
 
 

酔っているのだろうか・・
 
 

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