血酔
 
 

またひとつ 戦いが終わった
 

騎士のエンブレムを投げ捨て
同盟軍に参加して ひと月あまり

士気高く 平和への想いに溢れているとはいえ
剣の扱いも覚束ない兵が多い中

ハイランドの正規軍を相手に戦うというのは
非常に厳しい状況である

それでも 皆持てる力を振り絞り
名軍師の奇策もあってか

何とか この戦いにも勝利を収めることができた
 

仮の陣営で 兵の数を確かめ負傷者の手当てを行なう間

マイクロトフは ひとり陣を離れ
隣接する森の中へと足を向けていた

鬱蒼と生い茂る木々
僅かに木漏れ日が差し込む その場所で

一際大きな樹の幹を背に そっと腰を下ろす
 

瞳を閉じ

深々と 緑の大気を吸い込んで・・・
 

仮にも 騎馬頭領を任されている身が
陣を離れるなど 本来ならもっての外だ
 

しかし 今は・・
 

ひとときで良いから ひとりになりたかった
 

全身から漂う 血の臭い

先陣を切って攻め込んでいった隊の先頭で
自分の振るう剣の数だけ 味方の兵が助かるのだと

馬を走らせ 右に左に

斬り倒し 蹴り飛ばし

敵の敗走の声を聞いたときには
血塗れた剣を手に 屍の中に立っていた
 

陣に戻り 簡単な傷の手当てを受け
手にしていた抜き身の剣を清めようとして

剣身に映る 修羅のごとき形相を見た

顔中血に汚れ 牙を剥くばかりに引き結んだ口元
鋭くつり上がった眼は 血走り殺気に満ちている
 

ざわりと 総毛立つような感覚
 

今まで気にならなかった血に臭いが
鼻について 不快感をもよおす
 

こんな姿で 戻ってはいけない

あの城は 平和と温かさが集まる場所だ
 

戦火を潜り抜け 集った人々

年端もいかぬ子供達も大勢いる
 

今の自分の姿は その子供達に
死の恐怖を思い出させてしまうだろう
 

せめて ひととき・・

静寂と 緑の大気に包まれたこの場所で

乱れた心を落ち着け 身に染み付いた死臭を
浄化したかった
 

瞳を閉じたまま

もう一度 深く 清浄な大気を吸い込む
 

と その時
 

がさり・・と 何者かが近づいてくる音がする

殺気にも似た 鋭い気配
 

咄嗟に 傍らの剣を握り身構える
 

しかし・・
 
 

暫くして 木陰から姿を現したのは
 
 

カミュ-だった
 
 

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