○● 読書感想記 ●○
2004年 【5】

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20
『空ノ鐘の響く惑星で2』 渡瀬草一郎 著

 フェリオの強さについて説明がされますけど、やはりどうも違和感をおぼえます。
 理屈ではどうでも語ることはできますけど、主人公が強くなる過程が省かれているのって、物語としてどうなのかなぁ……と。
 少なくとも主人公が強くあることが前提条件として転がっていく話でありますし。

 ……そう! 物語がいよいよ動き出したカンジなのです!
 フェリオの強さについてはどうあれ、彼自身が考えて動き始めているのは好感です。
 起こりうる事象は変えることが出来なくても、その事象に向かってどう生きていくのかは決めることができます。
 フェリオがなにを為すのか、なにを決めるのか、それはまだ分かりませんけれど、少なくともここまで描かれてきた彼が選ぶことには想いが溢れているのだと信じることが出来ます。
 楽しみ。

 で、今回はダブルヒロインの中でウルクが存在感を増したわけですけどもー。
 頑張ってるなぁ、彼女……。
 ああいう気配りと努力を見せられると応援したくなってしまうのですけれど。
 フェリオは彼女を大切にすべきだと思いますっ!(^_^;)

19
『空ノ鐘の響く惑星で』 渡瀬草一郎 著

 うわー、真っ当なファンタジー……というのがファーストインプレッション。
 王族としての価値を見られていない王子が、異世界から来た女の子と出会って、さてさてどうなる……という。
 なんとなく冒頭での動き出し方は強引なカンジも受けはしたのですけども、いざ動き出してしまうと、そこにはあまり気にならなくなる気がしました。
 主人公フェリオの心情、動機などを知れば……ということですけど。

 フェリオの周りにヒロイン格の女の子が2人登場してきましたけど……どっちが正ヒロインなんでしょ。
 イベント的にはリセリナ……かなぁ。
 「懐いていた」という言葉もあることですし。
 いろいろと、穿って見ちゃいます(笑)。

 フェリオの逃亡、そしてその後の追跡者との戦闘あたりがそれぞれ物語が動く箇所かと思いますけど(特に後者)、それにしては危機感をあまり感じられなかったんですよね。
 相手の強さが伝わってこなかったせいだとは思いますけど。
 強いのは説明されているのですけど、それがどういう強さなのか、誰を基準にして強さを計ればよいのかが不明なので。
 フェリオがさして苦労したように見えないのが、盛り上がりを欠くことになっているのかも――。

 ともあれ、読みやすさは間違いないなので、続刊を楽しみにすることにします。

18
『A戦場のプリンセス』 野田麻生 著

 以前読んだ『Z戦場のマイフェアレディ』が面白かったので、前作であるこの作品を探しておりました。

 この作品も『Z戦場』と同じく、元気な女の子が主人公で、素直に楽しめました。
 痛快でしたね〜。
 描写や説明に粗がなくもないですけど、そこに気付いても充分楽しめるというか。
 ラストも強引かなって思いますけど、それでもホロリときますしー。

 登場人物も限っていて、ちゃんと個性を描いていると思います。
 あとは、もちっと恋愛方向へ進んでいれば、かなりお気に入りになったかも……です。

17
『さよならトロイメライ2 かんむり座の約束』 壱乗寺かるた 著

 少なくとも推理ミステリじゃないですし――。

 登場キャラの整理が出来てないカンジが。
 名前だけでイメージを喚起させるには情報量が乏しすぎるかと。
 歴代のトップ3という面々については、それが顕著かなぁ……。

 というか、そもそも「トップ3」という呼称は直接的すぎて、どうも物語に馴染んでないような気がします。
 やたら固有名称を使いたがるのもどうかと思いますけど、この作品の場合、そうした小さなことから築き上げていく世界観が足りてないと思うのです。

 あー、あとですねー。
 主人公の特殊能力は、もう、バッサリ忘れてしまったほうが良いのではないかと。
 物語の中に意義を持たないというか。
 前作ですでに役割を終えている設定かと……。
 それをいうなら「さよならトロイメライ」というタイトルからしてシリーズ化には向いてなかったのかも――。





 「かんむり座の約束」って、どう考えてもネタバレすぎるサブタイで苦笑。

16
『GOSICKU その罪は名もなき』 桜庭一樹 著

 推理ミステリの方面はグッと簡略化されちゃいましたね。
 トリックらしいトリックが用意されていないので。
 それで良いのか悪いのかは、わたしとしても悩むところ。
 推理ミステリとして成り立たなくても物語としては面白いので。
 ……でも、前作はそれなりに活かしていたポイントだったので、今作も――と期待していた部分があるので、ちと残念、というところでしょうか。

 顔も合わせてないのに一弥を巡って対立関係にあるヴィクトリカとアブリルですけど、桜庭センセのこれまでの作品傾向を考えると、この2人って親友になれそうな気がするんですけど?(笑)

 ヴィクトリカの出自にまつわる秘密が概ね暴かれちゃって、次作以降はどうするのかなー……と、期待半分不安半分デス。
 これからの時代を想うと占いの結果に辛いものを感じてしまいます。
 ですけど、もし占いの通りになるのだとしたら、必ずしも不幸ではないのかなぁ……と。
 あの占いは、大切なことを伝えてますし。


15
『銃姫1』 高殿円 著

 エナミカツミさんは、精力的に仕事をこなしてるなぁ……というのが発売予定表でこの作品を見つけたときの感想だったりします(笑)。

 本編のほうは、さすが経験者は違うなぁと思わせる、落ち着いた安定した筆致ですね。
 読んでいても淀みを感じられないという。
 設定などについても、固有名詞の用い方とか嫌味がなくて心地よいです。
 雰囲気作りに成功しているカンジ。


 ただ、文章的には好みなのに、この、短編1話を数話集めて構成するという形式が、ちとわたし的に残念というか。
 それぞれの話に求められている要素が異なるのは分かりますし、そうした話立てがイレギュラー過ぎというわけではないのですけど、こういう良作は長編で読んでみたいなぁ……という贅沢な不満なワケです。

 最近、良く見るような気がするこの形式。
 長編を読み切るだけの集中力が読み手側から失われていると思われているのかなぁ……。
 短編なら、そのつど集中力をリセットできますし。
 あるいは……。

14
『ディバイデッド・フロントU 僕らが戦う、その理由』 高瀬彼方 著

 前半と後半の雰囲気の落差は秀逸かと。
 漫然と物語を紡いではいないという証。
 この落差があるからこそ、英次クンたちが置かれている立場/状況を、より危機感をもって受けられるのかなぁ……。

 ただ、その中で語られることについては、今回、ちょっとわたしとはズレていたので、あまり深くはのめり込めなかったデス。
 一流と彩の主張の食い違いについては、どちらにも一理あると著者によって思わされる反面、どちらの主張からも引いてしまったというか。
 間違ってないんですけど、そもそも問題はソコなのか?というカンジ。

 進藤二尉の言動もなぁ……。

 そして恐らく今巻で最大の衝撃であったろう、あの人のこと。
 このことについても、どうもキャラを掴み切れてなかったせいか、「ただの悲劇の1つ」にカウントしてしまっている自分がいます。
 あの人の凄さとか、主人公たちにとっての大切さが、はたしてどこまで描かれていたのか疑問かなぁ。


 物語は悪くなかっただけに、こんなことを感じてしまう自分が申し訳ない気持ちに。
 ……キャラ物として考えているから悪いんでしょうか。


13
『アリソンV<下> 陰謀という名の列車』 時雨沢恵一 著

 うわーっ! 電撃hpに掲載された短編「遺書」が収録されてなーい!
 それはSPECIAL BOXドラマCDに収録されるって……ずるいっ!
 いや、もう、電撃さんの商魂には参りましたよ。
 買えばいいんでしょ(笑)。
 はいはい。(“はい”は1つで充分)

 上巻の序章が衝撃的でしたから待ち遠しかったですけど、えーと、まあ、その……。とりあえず予想の範囲内? 良かった良かった(苦笑)
 あー、コラソンって、ムートおばあちゃんの名前でしたね。ハズカシー!(><)

 なんというか、今作って……推理ミステリー?
 誰が犯人で、その正体は……とか。
 でもって、伏線の暴き方がくすぐったいくらいにあまりにも堂に入ってて、あからさますぎても顔が緩んでしまうというか。
 バレちゃった?じゃなくて、さぁどうだ!とバレることを前提に見得を切ってるカンジ。
 読み手を意識してるなぁ……と思わされます。

 そしてシリーズ完結編らしく、前作までのネタがそこかしこに配されていたり。
 こういうサービスはファンとしては嬉しいですよねー。
 「ぐーで殴る」とか(笑)。
 もちろんヴィルの現在についても、ちゃんとシリーズ内で居場所を分かるようにしてありますし、ここまで積み上げてきた物語を一遍たりとも無駄にしてない、あるいは全てをあるべきところへ整合させているというカンジです。

 フィオナの存在だけは蛇足っぽい気もしましたけど、彼女の存在は冒険の途中にあるのではなく、その先にある時間を示しているから必要だったんですよね。
 リリアの手にヴィルの写真があるのはフィオナのおかげですし、首都にある母娘の部屋の件だって婉曲表現でいえば彼女(とベネディクト少佐)のおかげですし。

 1巻とか2巻に比べると終盤でのカタルシスが薄いかもしれませんけど、この上下巻最大のカタルシスは「ヴィルの安否」にあったわけで、冒険小説派の方々にはもしかしたら不満があるかもしれませんね。
 恋愛小説派の方々も もっと、もーっと、アリソンとヴィルのいちゃつき具合……もしくは、アリソンの空回り具合を楽しみたかったかもしれませんけど、これはこれで大団円ですよね。
 ちょっとだけ素直な終わりじゃないと思いますけど。

 そんなカンジで、終わりよければ――なのでした。


12
『ディバイデッド・フロント』 高瀬彼方 著

 主人公の少年の微妙な感情が、ほどよく伝わってくるカンジがしました。
 なんというか、多感な年頃、みたいなものが。
 それは少年だけでなく、主要キャラ全般に当てはまることなのかもしれませんけど。
 誰もが成長過程に生きている存在で、完成された大人に見える人物でも、どこか不完全なところを持っているという。
 不完全ゆえの危うさみたいなトコロにドキドキするのです。

 オトコノコはオンナノコのために、無茶してナンボでしょー(笑)。

 主人公・英次が感情を向ける対象、香奈と一流の2人に対して多くの行数が割かれているわけですけれども、これって今後の人間関係の複雑さを示しているのでしょうか?
 単に状況がそうさせているだけという表層的な理由だけだとしたら残念……というか、物語になってないよーな。
 というわけで、三角関係を期待します(笑)。


 ライトノベルの中で、アクション系の作品ってそんなに受けが悪くないのに、ミリタリー系の作品って受けが悪いような気がするのですけど……どんなもんでしょ?
 知識を必要とするジャンルですし、送り手に知識を持つ人が少ないってだけかもしれませんけどねー。

11
『月巫女のアフタースクール』 咲田哲宏 著

 読み始めてすぐに、固有名詞の数々に眉をひそめてしまったのですが――。
 あまり読み方にオリジナリティを付加する意味を感じなかったので。
 「迦具夜勅命権」を「ホーリーコマンド」と読ませるのに始まって、「月最高評議会」を「シンシュプリームカウンサル」、「無効条項」を「インヴァリードクローゼス」、「姫護衛士団」を「カグヤサテライツ」、「月光菩薩」を「チャンドラプラバ」、「姫身替影」を「シルエット」……。

 こうしたルビが所々であったりなかったりで、読んでいると混乱するのです。
 雰囲気作りで用いているなら、徹底してほしいなぁ……と。
 徹底する意識が欠けているせいで、少なくともこうした固有名詞の使用がただの浅薄なお遊びにしか見えてこないのはもったいないと思います。
 ……まぁ、咲田センセ御自身がこうした遊びが好きだったり、あるいは設定マニアというだけの可能性も考えられますけど――。


 でも、しかしですよ。
 こうした設定についての受け入れ難さには目をつぶって、物語のほうへ目を向けてみると、真っ当な友情アドベンチャーだったりするのです。
 展開の起伏もしっかりしたものがあって、中盤からの流れは勢いがあって惹き付けられました。
 若干、展開についての説明/描写不足から理解するのに苦しんだところもありましたけど、希望があって、挫折して、失意から立ち直って大切なモノをつかみ取る……という展開にはグッとくるというか。
 素直すぎる展開かもしれませんけど、やっぱコレですよね〜。

 設定への遊び心が、きちんと物語の中で活きてくるようになれば、これから面白くなりそうなカンジがしました。
 ……いくらなんでも、「うさぎさん」の約束の件は、ベタすぎると思うー(苦笑)。


10
『RUMBLE FISH 決戦前夜秘湯編』 三雲岳斗 著

 もしかしてシリーズ最長?
 とまれ、わたし的にはここのところ停滞気味に感じていた展開に息吹を吹き込んでくれたというか。
 最近の展開における中心人物たち……フェニックス闘専の面々って、主要メンバーと比するとキャラ的に奥深さは感じない割に物語においては同格っぽく描かれるので、どうにも展開が薄味に感じられてしまうんですよね。
 物語の立ち位置や役割は分かる(分かりきってる)のですけど、その心情は物語の中で描かれないので。

 で、彼女たちから離れて恵理谷の面々の物語に戻った?ので、こう、気持ちが入り込んでいけるというか。
 もちろん、それはここまでのシリーズとしての流れがあるからなんですけど。
 芹架ちゃんとかまりあとか、自分の過去に向き合って、少しずつ前に進もうとしている姿は綺麗ですね。
 その中で割を食ったのが要っちということですか?(笑)

「設計士には設計士の戦い方があるのよ――とおこちゃん」

 この辺りの展開、設計士のみんなに流れている、他の誰にも分からなくても設計士である自分たちには分かるという共通の意識。
 こういう「仲間」をカンジさせる展開には弱いなぁ……(^_^;)。

「こんな機体の使い方、うちのエンジニアたちだって想定してなかったんですよ? なのに、あのパイロット――あれだけのダメージを補正する方法を、この短い時間で考え出したっていうんですか!? 何者だ……?」
 放心したように、館林氏が優妃を振り返る。
 優妃は、ふん、と少し面白くなさそうに鼻を鳴らして、胸を張った。
「――あたしの仇敵、恵理谷の設計士よ」

 あはははーっ!(≧▽≦)
 仇敵と書いて「なかま」ですよ! もう、なんていうか、このーっ!
 誇らしいけど、ちょっと悔しい。そんな気持ちが、くすぐったいですねー。

 さーて、これでメンツもそろって、次巻はいよいよSRですか!?
 いえーい!


『ベーカー・マティジュの繁盛記 学院衛星を救え!』 都築由浩 著

 前作よりは偶然性が抑制された展開になっていると思います。
 展開のほうも、レイチェルとガイの懸想話に少なくない文章が割かれているところも、わたし的には好感でした。
 で、そうなってくると、マティジュの役どころが余計に分からなく……。
 この作品、ガイの物語ではあると思うんですけど、マティジュの物語にはどうしても思えないんですよね。

 裏表紙に書かれている本編概要。
 この書き方では、やっぱりフィオとマティジュは脇役、もしくは狂言回しというふうに受け取れるような……。

 事件解決後も、なんとなーくモヤモヤ感が残ってスッキリしないのは、その解決自体に納得がいかないのか、それとも明らかにされていない部分が多すぎるのか……。
 むー……。



『魔法戦士スイートナイツ』 あもんひろし 著
『魔法戦士プリンセスティア』 あもんひろし 著

 ちょっと事情がありましてH系の本を読まなきゃ……ってことになりまして。
 で、どうせ読むなら、気になってるゲームのノベライズでもいいかなぁ……という理由で読んでみたのですけども。

 ……え? ちょ、ちょっと待って。
 著者の「あもんひろし」センセって、「鴉門洋」センセのこと!?
 うあーっ、うあーっ!
 『カルとブラの大冒険』、好きでしたよーっ!

 で、本編の内容はといえば――。
 『スイートナイツ』のほうはゲームのノベライズ、それもPCの18禁ゲームのノベライズってこういうものかなぁ……という妥当な内容とボリュームかと。
 ただ、ここでキャラを把握した上で『プリンセスティア』を読んだらアナタ!
 もうなんていうか、衝撃的で!
 異なる立場に別れた悲哀とか、信じていた価値観の揺らぎとか、そういう物語的な要素をちゃんと押さえている作品になっていると思いました。
 まぁ、その分、Hなことは前作に比べて控えめだったように思いますけど。

 とにかくメッツァー様が、かっちょいーったら!
 それとココノ! もう彼女なしでは愛は語れませんヨ(おいおい)。

 うーん。H系ゲームのノベライズも、侮ることはできませんねぇ……。


『なかないでストレイシープ 鏡の魔法と黒衣のドレス』 竹岡葉月 著

 ハチャメチャな女主人だなぁ、セリアって。
 そこが楽しいんですけど。

 パジャマパーティ、すごく楽しそうでしたねぇ。
 親しくなるきっかけ?にパジャマパーティという発想が、もう普通のライトノベルじゃないというか。
 でもって、愛しあう2人の仲を取り持つために始めるのが園遊会でしょう?
 いやはや……(笑)。

 現実から乖離した設定のない、こうした地に足ついているしっかりした物語は読後感が良いですねー。
 なにかと都合の良い設定を持ち出して片を付ける作品とは違って。
 人の努力を感じ取れるような気がするのです。



『世界征服物語 短編集だよ、全員集合!』 神代明 著

 由真のお話もこれで最後。舞台の大きさを考えると、ほどよい幕引きになっているのではないかと思います。
 まさにオビにあるとおり「大団円」なカンジで。

 補完的意味合いが強いとはいえ、主要キャラに話が振られているのは良かったですね〜。
 ムニが鉄馬に対して、ライバル宣言?をしている風なのがなんとも(笑)。
 前作までを考えると、ちょっと急な展開にも思えなくもないのですけど、やっぱり「ああ!」とわたしなんかは思うわけで。

 残念なのは、オールスターと銘打ったわりにタリア姫の扱いがぞんざいだったことでしょうか。
 んでも、姫に関しては2巻の頃からそういう雰囲気はありましたし、ことに由真の身辺でいえばリンダに役どころを喰われてましたしねぇ……。
 しょうがないという気も。

 ともあれ、肩肘張らずに気楽に読むことが出来たシリーズでした。


ベーカー・マティジュの繁盛記 密航者、月へ行く。』 都築由浩 著

 登場人物の思慮の足りなさと偶然によって話が進んでいく展開は、なんか、すごく気持ち悪かったです……。


『怪傑! トリック☆スターズ 怪盗右京からの挑戦状』 桐咲了酒 著

 悪くないなぁ〜……と思って読み進めていたのですけど、あとがきが……。
 わたしのほうがうがちすぎなのかもしれませんけど、このあとがきからわたしが思うことは……
 自分は本当ならもっと別の物語を書きたいのだが、ファミ通文庫というレーベルの程度と読者層を考えると、これぐらいで我慢するしかない。そもそもライトノベルで本格ミステリーを書いたところで、それを理解する読者なんていないんだ。
 ――と言っているような。というか、そう読めてしまうんですけど。

 うーん、うーん、うーん……。


 でも、そんなことを言えてしまうくらいに、内容については今の流行をがっつり分析しているという印象を受けました。キャラクター性を優先した作り方というか。
 この点では、イラストを描かれている、きゆづきさとこセンセの絵柄も大きく貢献しているな〜と思います。

 計算してこれだけの魅力あるキャラを作成できるのですから、あのあとがきについても、もう少し言いようがあったのではないかと思うのデスヨ……。


 ミステリのトリック部分ですけど、ここ、説明するのに図を用いた方がよかったんじゃないでしょうか? ちと文章だけでは理解しにくいような……。
 分かってしまえばなんてことないんですけど、その「理解させる」という作業が、トリックを見せつけられたときの「嗚呼!」という爽快感の邪魔になると思うので。

 また、作中で、「謎を解き明かすことで、悪人ではない人が迷惑を被るかもしれない。それなのに何故に探偵は謎を解いて事件を解決するのか?」という命題が突きつけられますけど、これの解答については、同様の問い掛けをしていた『平井骸惚此中ニ有リ』のほうへ、わたしは軍配を上げます。
 あちらは独善的かもしれませんけど、その点での反論を覚悟しつつ1つの答えを示してみせていることに対し、こちらの作品では明確な答えを提示せずに曖昧な態度を見せているように思えるので。


 上記、探偵の役割論について以外は面白く読むことが出来ました。
 でも……やっぱりどうにも、あのあとがきがわたしには受け入れられないのです。


『ギャングスターウォーカーズ』 吉川良太郎 著

 何が書かれているのかが重要であって、何を物語るのかは重要ではない。
 そんな作品も、世の中にはあるのですね。

 書くことと、描くこと。
 記すことと、物語ること。
 それぞれは違うんだなぁ……と実感です。

『なかないでストレイシープ 午後の紅茶と迷子の羊』 竹岡葉月 著

 『ホームズ』より『ポアロ』が好きという理由で、舞台を1920年代にしたというのがわたしにはツボで――(笑)。

 身寄りを亡くした少女のもとへ突然遺産が舞い込んできて、都会を離れて大きな邸宅に住むことになる……って、ジル・チャーチルの『グレイス&フェイバー』シリーズと似てますけど、やはりこちらはコバルトっぽいなぁ……と。
 主人公の少女は女主人として若い執事といろいろあったり、勤勉で優しい、主人想いのメイドがいたり、おませな少年がいたり……。
 かなり賑やかです。

 「貴族」というものが消えゆく中で、その幻想をつなぎとめようと必死にいる人がいる中で、1人の少女に宿る「人」としての高潔さが胸を打つというのでしょうか。
 クライマックスでの大岡裁きは、ちょーっとコテコテかもしれませんけどねー(苦笑)。
 ま、それも良しってことで!

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