道 標
(その1/12篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
自己
消えゆく前に/無理にでも/たった一筋の/
嘔吐/自己嫌悪/自嘲/借金は/開き直り
繰り返し/道標/再生
自己


道を照らす光
それを追う私
振り返れば
道の上に私の影が大きく映っている

求めても届かぬふたつのもの
ひとつになることを求めるみっつの私
消えゆく前に


人恋しい?
だから「寂しい」とつぶやいてしまうのか

明日はどんな出会いがあるのだろう
これから私はどんな出会いを迎えるのだろう

すべては他人との触れ合いを期待してのこと

そうさ、私は寂しいんだ
こうしてどうにもならない言葉を吐き散らかしている
それがどうにも寂しくてたまらないんだ
そうした言葉さえも認められていないし

私の居場所はいったいどこにある
私の生きる場所はいったいどこだ
私は未来を含む現在を失っている
今ある現在は過去へと流れゆくだけだ

残るのは
浮かばれぬ言葉たち
現在に留まっている私
無理にでも


不満にしろ
悲しみにしろ
怒りにしろ
それを歌い上げられれば
私には淡い充足感が与えられた
数少ない幸せや喜び
それらはじっくり留め置くことが大事で
中々詩にしたいとは思わなかったけれど

だが、今の私は澱んでしまっている
感じる
その行為自体が停滞してしまっているのだ
歌えない
その思いだけが満たされぬものとして残り
澱みの中で蠢いている
たった一筋の


ズブズブ
ヌメヌメ
沈み込んでゆく

臭い
私の体が臭い

ズブズブ
ヌメヌメ
沈み込んでゆく

確かであったはずの自分自身が
どろどろに溶け、腐りかけている

ズブズブ
ヌメヌメ
沈み込んでゆく

終わりが近いのか?
それともここから何かが生まれてくるのか?

ズブズブ
ヌメヌメ
沈み込んでゆく

ああ、部屋の中までが臭い
ドロとアカの混じったニオイに満ちている
嘔吐


吐き出さないと危ない
だが、これはもう詩ではない
私は歌ってはいない
ただ、言葉を吐き散らかしているだけだ

ウミが溜まっている
ノドの奥で
いやらしいヌメリが蠢いている

歌えない
ヌメリが、澱みが
歌声を閉ざしてしまう

いいから、吐け!
指を突っ込むんだ

ヘドでもいい
この澱みを外に出すんだ
もう残っている手だてなどないのだ
追い込め、殺してしまえ
どうせ死ねぬ自分だ

死ぬ気で
そんな文句も空念仏
ノドでヌタくる澱みよりも軽い
今の私の生など吐き出すヘドと同じだ
所詮、生きていない者は死ぬこともない
自己嫌悪


酔えない
どんなに酒を飲んでも
気持ちが悪くなるだけ
かえって頭は醒めてゆく

こうして吐き散らかした言葉にさえ
私は評価を受けることを考えている

歌えない
なのに、私は
吐いたヘドを手に取って
他人に見せている

何の言葉があるものか
今の私はヘドまみれだ
自嘲


こうして吐き散らかした言葉さえも
私は詩という形で再生されることを願っている
自分のための言葉なのに
そのうえ人に受け入れられることを望んでいる

詩人としての性なのか?
人としての欲求なのか?

(私は今、この文句につく評価のことを思った)

人前に出れば
人目に触れる自分にことを気にかけ
自分の中に入ったつもりでいても
そこから先のことを考えてしまっている

人目
人の評価
気になるのか
(ああ、気になるとも)
だが、どうだ
(......)
ははっ----

借金は


我慢したって何もない
もうイヤだ
駄目な方へ
厭う方へと
私の道が曲がってゆく

方法が間違っていたのか?
それともただの甘えなのか?

何にしても、今の私には
小っぽけな夢の骸として
いくつかの詩が残されているだけ

その詩が認められでもすれば
大きな喜びでもって
すべてを受け入れられると思うのに

それとも受け入れることが先なのか?
この燻ぶる現在と味気ない未来への展望
疑問の中で輝きを失ってしまった過去
それらをすべて受け入れろと言うのか?
開き直り


祝福されたい
他人からの祝福が欲しいんだ
もう自分の中だけの
ふんわかした気持ちだけじゃもの足りない

他人の評価を気にするな?

でも、誉められたいんだ
そうさ、いつまで経っても俺は子供
よそからの報酬を期待するガキなんだ
本物でなくて結構
喜びだって移ろうもの
なら、何を望んでもいいじゃないか
一人よがりは飽きたんだ
繰り返し


「何とかなるさ」
「きっといつかは」
そう自分に言い聞かせ
ふらふらながらも歩いてゆく

歩いて、歩いて
そうして行き詰まり
積み上げてきたものがガラガラと崩れ
私も一緒になって、壊れ、倒れ----

我慢できずにヤケを起こす
「もうどうにでもなれ!」
「何とかなるさ」
「きっといつかは」
またゆらゆらと歩き始めている
道標


問いを生き続けなさい
まだです
答えはまだ先です
現在があるあなたは常に過程です
あなた自身の生命を生き抜きなさい
答えは
あなたの現在が途絶える
そのときまで得られません
再生


今飲んでいるビール
そこに浮かぶ泡より
私の夢ははかなかった
だが、言葉になるにせよ
ならぬにせよ
湧き上がる思い
それは
ここに立ち上る泡粒と同じ
まだ尽きてはいない
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