あの頃
(その2/18篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
孤独/七年の闇/ゆく水に/愚痴/そして、また
うまくいかない/軽すぎる/穴/独行之嘆/それでも車輪は回っている
それから/悔し涙/酔っぱらい/詩人/自己/声
日記/平穏な一日
孤独


絶えることのない流れの上を
ゆらゆらと流されゆく木の葉

水は流れ
時は過ぎゆく

別の木の葉が私の前を流れゆく
いつの日、この日、木の葉....

水は流れ
時は過ぎゆく

去った木の葉はいったい何処へ
またひとつ、木の葉が流れ去る

水は流れ
時は過ぎゆく
七年の闇


深夜なのに、なぜ
セミの声が聞こえるのだろう

七年を闇の中で過ごし
ようやく迎えた地上での時
陽光のもとだけでは、やはり足らないのか
それとも、これは----

セミが鳴いている
こんな真夜中にセミが鳴いている
ゆく水に


片思いのはかなさは
いつものことで
わかってはいるつもりだけど
そのつらさを感じても
それでも思わずにはいられない

片思いは
はかなくて、切なくて
やりきれない
でも、そのなかで感じられる
ほんのかすかな喜び

朝日を浴びて輝く露がひとつ
時が経てば消えてしまうけれど....
愚痴


いつだってそうだ
私には女運がない
いつも片思いで終わってしまう
所詮は寂しい一人芝居
観る人もいない舞台の上
私は一人、座り込む
残るのは
儚いはずの頑固な思い
薄暗い闇の先
思い人の顔が浮かんでは消える
そして、また


日々の暑さも弱まり
夕暮れ時も早まっている
夜の風は
人恋しさをつのらせる冷たさを秘め
ゆっくりと時を流してゆく
何もなく
何もなく
また夏が終わろうとしている
何の物語もなく
何の思い出もなく
今年の夏も終わりゆく
うまくいかない


からから
からから
乾いた音を立てて
歯車は空回りを続ける

どこで落としてしまったのだろう
設計図はあったけれど
やっぱり部品が足らなくなっている
軽すぎる


今もって
親の庇護のもと
ヌクヌクと遊び暮らしている
僕の詩には
生活の重みがない
だから
口にした先から
ふわふわと漂い行ってしまう



煙草を吸いたい
満足とともに吸う一本の煙草を

一日一箱
で、そのうちいったい何本が?
それとも、何日に一本?

考えながらまた一本
火をつける
独行之嘆


とりあえず
また一年が終わりゆく
深夜テレビの『宮本武蔵』
俺もまた
武蔵のようになりたいが
いまだに俺はタケゾウだ

鈍器のままの
言葉を武器とぶん回し
まわりの人に八つ当たり
残っているのは後悔ばかり

確かに俺は
自分の道を見つけたと
確信してはいたのだが
一歩進めば
霧の中

いつもと同じ年の暮れ
後悔だけが先走り
武蔵の道は彼方にあって
やっぱり俺はタケゾウだ
いつになっても腹立ちまぎれ
それでも車輪は回っている


春、
夏、
秋、
そして冬
時は流れ、季節は移りゆく

大晦日の夜
鐘の音に耳を澄ませ
また一つ、また一つと
この一年を振り返る----

でも、いったい何を?
去年も、
おととしも、
同じ

繰り返しの一年
新たなことは何もない
変わりゆくのは日付けばかり
そうして、今年もこれでオシマイ
それから


私がどんなに寂しく思っていても
それは心の中から出て行けずに

あの頃私の寂しさは
言葉に行動に
姿を変えてあなたのもとへと向かったが
あなたの心に入ることもできず
もといた場所に元の姿で戻ってきた

そうして私の寂しさは今もそのままで

ただ寂しいだけ?
それだけなら
別な誰かを探しに行けるはずなのに
今でもあなたのことが忘れられない
生まれた思いもそのままだ

私がどんなに恋しく思っていても
それは寂しさをつのらせるばかりで

あの頃私の思いは
言葉に行動に
姿を変えてあなたのもとへと向かったが
あなたの心に入ることもできず
もといた場所にそっくりそのまま帰ってきた

そうして思いは今も消えずに残り

恋に恋している?
そうならば
別な恋を見つけに行けるはずなのに
今でもあなたが好きだ
求める人は変わらない
悔し涙


積み上げては壊し
積み上げては壊し
何をどうしてどうすれば
求めているものが形となるのか
一つ一つ積み上げてゆく
納得がいかず、ぶち壊す
何度繰り返したことだろう
いつになったらできるのだろう
酔っぱらい


酒のおかげで
頑丈な意識がばらけ、ぼけてゆく
だが、わかるぞ
わかる、俺は酔っぱらっているぞ
天下御免の酔っぱらいだ

きゃお、きゃお、きゃお
酔っていればこの世は楽しい?
きゃお、きゃお、きゃお
わけがわからないから楽しい?

呑んでは、きゃお
呑んでは、きゃお

あれっ?
でも、なぜだろう
なぜ寂しさを感じるのだろう
こんなに楽しいのに
笑いの影で
寂しさがたたずんでいるのは、なぜ?

きゃぁお
詩人


思い出に映るひとつのシーン
手のひらの上に
ふっと息を吹きかけると
息吹きの先から
いくつかの美しい蝶が生まれ
飛び去ってゆく....
そんな魔法
使えたら楽しいのにね
自己


追いかけても
追いかけても
追いつくこともなく
あの水を
あそこにあるあの水を
必死になって追い続けているのに
一歩近づけば、一歩遠のき
一歩近づけば、一歩遠のき
あの水は依然として私の先にある
しかし、至福の時への予感
それがあの水に映るのだ
あの水の刻々に変化する色合いが
確かな感覚となって膨れ上がり
自らが呼び覚ましたその感覚と引きつけあう
ひとつのものに
だが、以前よりも大きなそれ自身に
戻ろうとして、お互いに呼びあっている
その呼びあう声の中から
かすかなハーモニーが生まれ
やわらかな力強さとともに広がってゆく



ここまでおいで
  ここまでおいで
    あなたは私を求めている

ここまでおいで
  ここまでおいで
    私はあなたを待っている

あなたは私
  私はあなた
    そうして私を追い続けて

自分自身となり
  自分自身を越えるために
    私たちはふたつに別れ
      私は逃げて あなたは追う

そうして追い続けて
  それしかないの
    二人がひとつに戻るには
      あなたも私もまだ幼い
日記


夜半過ぎから雨が降り始めた
私は一人
酒を飲み、煙草を吸い
ぼんやりと外の雨音に耳を傾けていた

  耳に届く
  細かな雨音が
  追いかけっこをしながら
  私の中を駆け巡り
  ひとつの広い音となり
  寂しくて、悔しくて
  どうにもならなかった気持ちが
  広がった雨音にとけてゆく....

朝が訪れ、昼になり
目覚め、外を見ると
小さな雨粒が
やわらかな光を返しながら
軽やかにはじけていた
平穏な一日


取り立てて急いでやることもなく
用事も別にない
外は雨

外出する気もせず
窓を開け放ち
暖かく潤った風を部屋に招き入れ
ベッドの上に横になり
その匂いを味わう

お気に入りのCDを聴いたり
積んである雑誌に目を通したり
釣具の手入れをしたり----
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