世界の果てを目指して

 

「世界の果て」と呼ばれている島がスコットランド沖にある。最初にその島の事を知ったのはTBSの番組世界遺産で野鳥の楽園として放送されていた、との話だった。残念ながらその番組は見逃し、家族の話であったが、妙に惹かれる名前であった。「セントキルダ島:St.Kilda」という。

その番組では、あくまで、世界遺産としての紹介のようであった。97年のことである。その後私は1年近く北京へ留学、香港の音楽や映画に惹かれるようになり、「世界の果て」というタイトルの映画に出会う。劇場公開は終わっており、98年に出たビデオで観た。

香港で今をときめくスター、ケリー・チャンと金城武の共演なのだが、そのクライマックスにこの島が出る。時は香港の本土復帰直前で、映画を通じて何ともいえないノスタルジーがそこにある。

アイルランド、そしてケルト文化に非常に興味を持ってきたが、その島のいわれはケルトの伝説にあるときいて行ってみたくなった。しかし、情報はほとんどない。分かったのは、スコットランドの本土の沖合い60Kmにあり、無人島。定期便はなくナショナルトラストの管理下にあり、年間上陸者数も限定されている、ぐらいだった。

 

荒れ野に咲くヒースの花。

夏には一面紫色に燃える山もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

オバン(Oban)へ

チャーター船がスコットランドの西海岸、オバンの港からも出ている、という情報もあり、ともかく向かう事にした。許容された時間は日本との往復も含めて10日間。実質動けるのは1週間である。

 

オバンへは3度目である。1度目は1991年、オバン沖のアイオナ島(Iona)のキリスト教遺跡とスタッファ島(Staffa)にあるフィンガルの洞窟を見に行った時。2度目は1994年にオバンの近くまで来た時に、91年に泊ったホテルのレストランの味が忘れられず、夕食をとりに来た時。

 

今回はロンドンから空路グラスゴーへ入った。オバンまでは車で直接行けば2時間。ローモンド湖を右に見て北上する。ローモンド湖はブリテン島最大の湖。霧に包まれることも多く、神秘的な雰囲気を持っている。

この湖岸で、ツーリストインフォメーションを見つけ、セントキルダ島について尋ねる。

が、解らない。分厚い本を調べてくれて、見つけてくれたが、島への行き方については書かれていない。

オバンに行くのが良いのでは、とアドバイスを受け、車を進める。ここからは方向を西に変えA83を進む。インベララリー(Inverarary)と言う町に城を見つけるが、既に開館時間は終わり、外から見る。夏も終わりに近づいているが、スコットランドの日暮れは遅い。

 

インベララリー城と街並み

 

 

 

オバンへ向かう峠道と湖に浮かぶ古城

 

オバン(Oban)

うっかりしていると94年の時と同じ目に合うかもしれない。

94年に何があったかと言うと、以下の出来事。オバンはスコットランドでも有数の観光拠点。その夏オバンに着いた時は既に午後8時近く。お目当てのレストランのあるホテルは満室。「先に宿を見つけてきなよ」というマネージャーの言葉で近くのBB、ホテルを廻るがすべて満室。

結局、宿も決まらず先に食事を取り、夜の10時近くになって隣町のBBにようやく空き部屋を見つけた、というお話。

 

ソロバハウスホテル

 

 

 

 

 

 

 

 

が、今回もホテルには7時ごろには到着したが、やはり満室。またか、と思うが、町の中心のホテルに空き部屋を見つけ、荷物も運び込まずに、すぐにレストランへ車で戻る。今回は前回より余裕があり、まずはバーで一杯。そこでメニューを見て魚の前菜と、今日のスープ、お目当てのステーキを頼む。

その際、壁に飾られた写真と手紙に目が行く。エリザベス女王である。聞くと、1995年にこのレストランで食事を取り、その素晴らしさに後日手紙が(手紙自体は執事の代筆の様であったが)届いたものとのこと。

席へ案内され、メニューが運ばれてくる。うまい。魚もうまいが、ステーキも肉の味、ソースの味が引き立てあって本当においしい。東京を飛び立って丸二日、が二日あればここまでたどり着けることに妙に感動。某テレビ番組に最後の晩餐というコーナーがあるが、私の最後の晩餐は間違いなくここのレストランだと確信する。この一時は、生きていることを実感できる瞬間であると思う。

 

 

魚の盛り合わせの前菜とマッシュルームソースのヒレステーキ「Prince of Edward」

 

北へ