8月14日(月)

朝起きると天候は悪化していた。雨は降ってはいないのだが、霧が立ち込めている。雨も厄介だが、霧はなおさら厄介である。何しろ見たいものが見られなくなる。それ程この島の霧は深い。


街へ行き、水と食料(ショートブレッドや果物)を買っていざ北へ。最北端まで一気に向かうつもりだったが、天気は一向に回復の兆しがない。おそらく目指す最北端のマックルファーガ岩礁は霧で見られないと判断。急遽、遺跡を見ながらゆっくり北上し、岩礁見学は明日にする事にした。

まずは、城がある、スカローウェイへ。途中の峠は霧で視界はほとんどなかった。
城は廃虚ではあるが、外壁は多く残し、街を見下ろすようにあった。中は補修工事の真っ只中であったが、みていいかい?と聞くとどうそ、と声が返ってきた。ここもオークニーの領主が建てさせたものだそうだ。


それにしても寒い。雨も降ってきそうだったので、城の脇にあったニットウェアーの展示即売所へ行ってみた。まだお客は誰も居なかった。
シェトランドと言えば近年はニットウェアーで有名だが、伝統的なセーターが欲しい、と聞くとニットウェアーの歴史は古くなく、しかし模様が伝統的なのならこの辺ね、と指示される。なかなかサイズがいいのがなく、結局セールで£16になっていたセーターを買う。これが、その後、本当に役に立つ事になる。

昔政治の中心地であったスカローウェイであるが今は本当に小さな村といった趣であった。
居心地のよさそうなホテルを横目で見ながらあとにした。


メインランド中央部・西部
ここから遺跡が点在しているティングウォール湖を右に見ながら北上を開始。しかし、この辺りから大粒の雨が降り始め、視界はさらに悪くなっていく。途中、道の脇にスタンディングストーンを何ヶ所か見つけるが、雨はますます激しく、車を止める場所も場所もなくやむなく進む。

ローティングホルムという表示をみつけ、車を止める。湖に突き出た場所が遺跡の様であるが、容易に近づける場所ではなさそうである。少し歩いてみるが、激しい大粒の雨であっという間にびしょぬれ。イギリスでは、雨は降っても粒の細かい雨しか降られた経験しかない為、傘は持っておらず、靴も普通の靴である。
カメラだけはデジカメも防水パックを持ってきていた為平気だが、ともかく全身びしょぬれ。そんな中、ごわごわした粗いシェトランドニットのセーターは水を跳ね返し、体から熱が奪われるのを防いでくれた。
 

こんな雨だから、せっかくだからドライブをしよう、とも考え、メインランドの西の端までもいってみようとティングウォールから道を左に進む。
途中の景色は湖や入り江が複雑に重なり合い、そんな中に人家がぽつんぽつんと立ち、山の上の方は霧に包まれるという、音もそうだが、本当に静かな光景だった。


途中、脇道にそれ、スタニーデール寺院跡を目指すが駐車場からさらに約1キロ牧草地の中を歩かねばならない。雨はさらに激しく、靴もびちょびちょ。やむなく諦める事にした。


辿り着いたウォールズの村は漁港であったが、店もなく、折りからの大雨でもちろん人通りはなく、静かなところであった。この周りにもスタンディングストーンがあるようではあったが、さらに西北の外れのメルビーを目指す。



メルビー
メルビーまでは本当に曲がりくねった狭い道。村の入り口近くに小学校が建っており、また雑貨屋も一軒あり、パンと水を買った。




村はずれの水車小屋に向かってみるが、人家の敷地内。こういう事はこの国では良くある事だが、いい天気だね、なんて冗談を言ってくれながら迎え入れてくれる。が、あまりの雨のひどさに水車小屋まで行くのを断念。
道の終点になっていた港へ。沖に浮かぶ島と、メルビーハウスと地図には書かれているが、今は誰も住んでいない、豪華な家を眺めてみる。




来た道を戻り、ビクスターの集落から左に折れ、ヴォー村を目指す。曲がりくねった道からは、急に視界が開けると海が見渡せる。


川沿いに、何やら表示があるので沢を登ってみると、鷹の繁殖地であるようだ。沢を流れる水は所々、ピートの丘を越えてくる為、茶色の水になっている。



ヴォー村には暖かいご飯の食べられる所を見掛けたが、今日は自分の足ではあまり歩いていないので、お腹もすかず、ひたすら北を目指す。


渡し 
エル島に渡るトフトの港に着く。ここのフェリーは小さな渡し舟。このため、着いたときには既に次の便は満杯。30分ほど待つ事に。

ようやく乗った船は、本当に小さく、吹きさらしの構造だが、船倉には歩行者の為の船室もある。上のデッキに上がり、写真を撮っていたが、風が強く、かなり寒かった。
階段を降りてから気づいたが、ここは関係者以外は立入禁止だったらしい。船員達も気づいていたはずだが、お咎めはなく、ニコニコ微笑んでくれた。




エル島
30分弱ででエル島へ到着。料金もわずか3ポンドである。雨がまた激しくなってくる。今日中に最北端のアンスト島まで行きたい為、島内はノンストップで通過。舗装をしたての道路はタイヤの音が静かで気持ちいいが、スリップするのでは、と少し心配になる。
霧で視界が悪くなるが、アクセルをゆるめずにアンスト島行きの船着き場グッチャーに着く。今度は船を待っている車も少ないが、出港したすぐ後らしい。ここには雑貨屋兼喫茶店があり、コーヒーとケーキを頼んで体を温めた。静かなゆったりした一時だった。この船着き場には他に一軒ポツンとB&Bが建っていた。船に乗り遅れたときはここに泊ればいいのだろう。


雑貨屋兼喫茶店と郵便局兼B&B(民宿)

アンスト島

アンスト島へは15分ほどで撞着。こちらも運賃は3ポンドであった。
雨は上がってきたものの、霧は未だ深く垂れ込んでいた。島の南端に城があるようなので向かってみた。


マネス城
マネス城とあったが、霧の中に浮かんでいる感じである。「城の鍵は白い家で借りられます」と書いてある。ちょうど家から出てきた二人組みの女の子がいたので聞いてみると、あの家だという。
呼び鈴を押すとおばさんが出てきて、大きな鍵と懐中電灯を貸してくれる。まだ誰かいるかもしれないわよ、と言われるが、ともかく城に向かう。


案の定、鍵は開いていた。城の一階は本当に懐中電灯がないと何も見えない。折りからの雨のせいもあるが、じめじめした嫌な感じの部屋もあった。


上の階に上がると、突然ビデオカメラを持った男が登場。どうやらナレーション入りで撮っているようであったが、人が他にいない方がいいような感じだった。本当ならここから海が見渡せるのだろうが、本当に何も見えない、白い世界だった。

鍵は任せるよ、と言うと、いいよ、と返事があった。あの男、本当に何をあんなに楽しそうに撮っていたのか。

鍵と懐中電灯を返しに行く。特にお金を取られる訳でもなかったので、絵葉書や城のパンフレットを買う。といっても2ポンドぐらいではあるが。アドレスブックに名前を書いて車へ戻る。おばさんの話だと今日は霧は晴れないんじゃないか、との事だった。


バルタサウンド
この島にはホテルは一軒しかないらしい。夕方4時を廻っていた為、早めではあるが、宿を確保しにホテルのあるバルタサウンドを目指す。ここにあるバルタサウンドホテルはイギリス最北端のホテルとして紹介されているところだ。
観光シーズンの為、ちょっと心配していたが、部屋は空いており、いつも通りすぐに鍵が貰えた。夕食はもちろんホテル以外では食べるところはないので、時間をしっかり確認するが夜8時半までは大丈夫との事。まだ時間もあるし、最北端を目指して車を進める事にした。


最北端の岩礁、マックルファ−ガを見るには二通りの方法がある。自然保護区になっているハーマネス半島を3時間ほど歩くか、対岸の半島の最も高いところにあるイギリス軍のレーダー基地から望むか。後者の場合、車で行く事が可能である。
残念ながら既に夕方、3時間は歩く時間はないし、霧に包まれてレーダーサイトは見えない、つまりそこから海は見渡せない、ということである。


スコー岬
マックルファーガ見物は明日の朝、ということにして、イギリス最北の家があるスコーへ向かう。切り立った断崖や尾根を越えてようやく海の近くに一軒家を見つける。ここまでは電気も電話も通じているのである。この道の途中にあったポストが恐らくイギリス最北のポストであろうか。

イギリス最北の家と恐らくイギリス最北のポスト


岬の先端へ歩いて行ける道があったので、小雨は降っていたが、歩いてみることにする。
結構な上りだが、車も走ったようなわだちがある。どんどん登る。眼下には奇麗な砂浜。だが、だんだん霧で視界が遮られていく。



道が二手に分かれるが、北へ向かっていると思われる左へ進路を取る。突然、ものすごい崖が現れ、道が終わっている。と同時に人工の構造物らしきものがある。鉄の台だが、記念碑や標識の類ではない。何かがここに固定されていたような跡だが、何かは解らない。ともかく写真に収める。



再び先程の分岐点まで戻り、右手へ進む。何か建物らしきものが見えてくる。ほったて小屋の様でもあり、羊が中に入ったり出たりしている。監視小屋か休憩所なのかと思って近づくが、ものすごく嫌な感じがして中には入れない。
道を進むとトーチカの様なものが見えてくる。さらには先程見かけた鉄製の台。どうやらここは第二次大戦時の砲台跡のようだった。霧に包まれたそこは今にも兵士が現れそうな不思議な空間だった。明日は8月15日である。日本から遥か離れたこの島で、戦争の跡に触れるとは何とも不思議な感覚だった。

雨も強く、また霧も更に深くなってきた為、車へ戻ることにした。


バルタサウンドホテル
ホテルは暖房が入っていた為、靴を乾かすことにした。お腹も空いてきたので、ホテルの食堂へ。
前菜の海老の包み焼きは春巻の様な不思議な食感だった。メインはステーキ。調子に乗ってデザートまで食べたら、動けないくらいに満腹になってしまった。

春巻の様な触感が、この場所を考えると非常に不思議だった。ボリューム満点のサーロインステーキ。

調子に乗って頼んだチーズケーキ。
生クリーム付でとても美味しかったが、食べ過ぎで動けなくなる。


















腹ごなしに港まで散歩してみると、ヨットクラブで少年達がちょうど後片付けを終えてクラブハウスへ向かっているところだった。風は静かで、波も穏やかだった。


夜中にふと目が覚める。窓の外には大きな月が浮かんでいた。写真を撮ろうとして窓を開けると、風もなく、本当に何の音もしなかった。


8月15日へ