北を目指して−2000年夏スコットランド島紀行

 
99年の夏休みに、スコットランドの西の沖、「世界の果て」と呼ばれているセントキルダを目指したが、残念ながら一週間では辿り着く事は出来ず、アウターヘビリティーズ諸島のルイース、ハリス、またスカイ島を巡ってきた。
2000年の夏休みも休める期間は一緒。残念ながらセントキルダは断念せざるを得なかった。

そこで、恩師の宮崎先生のアドバイスもあり、スコットランドの北、オークニー諸島とシェトランド諸島を目指す事にした。この地は石器時代からの遺跡等、見所も多いだけでなく、おいしい海の幸が食べられるのも魅力だ。

今回の大きな目的は二つ。世界遺産にも登録されているスカラブレイをはじめとする石器時代の遺跡に触れる事。もう一つはイギリス領の最北端に立つ事。昨年の旅行記でも書いたが、なぜか「端」に辿り着くのが好きなようだ。




8月11日(金)
まずは東京からロンドンへ。機内でフェリーの時間を確認。が翌日はアバディーンからシェトランドへの船の便はなく、ロンドンから寝台列車に乗ってスコットランドへ、というルートは断念。空路でアバディーンまで行っても、今夜の船も夕方6時の出港の為、これも間に合わない。
アバディーン−シェトランド−オークニー−アバディーンという船旅も考えたが、これだと1週間では日本に帰られない事が判明。

そこで、スコットランド本土の北端、スクラブスターからまずオークニーに渡り、次にシェトランドへ、最後にアバディーンまで戻る船便なら駆け足ではあるが、二つの諸島を巡る事が可能で、ともかくは空路アバディーンを目指す事に。
島まで飛行機で行く事も可能で、移動時間はぐっと少なくはなるのだが、北海に浮かぶ島の天候は変化が多く、またプロペラ機の為、霧が出ればすぐに欠航。
フェリーは10時間〜14時間はかかるが確実で、また、ゆったりと波に揺られての船旅はいいものである。
 
午後4時にはロンドン着。午後5時45分の英国航空に乗り込み、午後8時前にはアバディーンへ到着。レンタカーは一人用としてはちょっと大き目だがフォードのフォーカスしかなく、やむなく借りる事に。
カウンターでキーを渡されたら駐車場まで歩いて行って、運転開始。駐車場には係員もいなく、これは返す時も同じ。クレジットカードを切ったが、レンタカー会社は大丈夫なのかと、人事ながら心配になる。この手の心配をスコットランドではよくする。


フォーギー村
初秋とはいえスコットランドの日暮れはまだ遅い。翌日船に乗るスクラブスターまでは実は350Km以上もあった。6年前に同じようなルートをドライブした時はもっと近いと思っていたが。とにかく可能な限り北に向かって走る。
しかし、東京を出て既に20時間以上。日も暮れてきて眠気も襲ってきて、これ以上の運転は無理。Forgieという村のパブにホテルのサインを見つけてドアを叩いた。

もう夜も9時半で、こんな時間に泊りに来る客もいないのか、若いホテルの女性は若干怪訝な顔をするが、パブが忙しくなる時間帯だったようで、ともかく鍵を借りて、部屋へ。
トイレも風呂も共同で、ホテルというよりはBed&Brekfast(民宿)に近いが、朝食付で一泊£18(約3000円)は安い。

荷物を部屋へ置いてすぐにパブへ。扉を開ける。一年間待ちわびた瞬間。扉の向こうは人も少なく、みんなカウンター越しに、先ほどの女性と話している。
こちらに視線が集注すると、カウンターの女性は微笑を浮かべ、客の男達からは「Hi」という挨拶にこちらも「ハィ」と答える。心が休まるり、ほっとする瞬間だ。ビールを一杯飲むと、猛烈に眠くなり、挨拶をして部屋へ戻る。

お願いをして朝食は朝7時半にしてもらう。早朝だから簡単なものだけよ、と言われるが、明日12時のフェリーに間に合うには、8時には出発したいため、しょうがない。まあ、スコティッシュブレックファーストはこの先、毎日食べられるさ、と思いベッドに入る。
 



8月12日(土)

朝、目覚ましが鳴る前にバスのエンジン音と、何かを配達する車の音で目が覚める。
目の前がインバネスとアバディーンを結ぶバスの停留所、向かいには雑貨屋(郵便局兼食料品店兼日常雑貨店のような感じ)があった。
 
ホテルの向いの雑貨屋と、配達の郵便局の車。               ホテルの主人の部屋の前には大人用と子供用の長靴が仲良く並んでいた

7時半に食堂へ。他に宿泊客はいないようで静かだが、台所だけは物音がする。パンと紅茶だけと思っていた私の目の前に目玉焼き、ベーコン、ブラックプディングの乗った皿が運ばれてきた。感謝の気持ちを表すと、ニコニコしながら宿のお上さんが、いいのよ、という表情をした。
これまた、1年間待ち続けた朝食を味わいながら食べた。

が、ゆっくりできない。フェリーの予約もしておらず、12時の便に乗るには11時には港に着きたい。8時過ぎにはお勘定を済ませて、出発した。途中は6年前にも通った道が大半で、観光もせずに道中を急いだ。



インバネス さらに北へ
インバネスまでは1時間とかからず到着。さすがに車も多くなる。国道A9の奇麗な斜張橋は遠くからでもすぐに分った。以前もシャッターを切ったが、再び切ってしまう。


インバネスを越え、クロマーティー湾を渡る長く、湾曲した橋を見つける。6年前にも見たが、また車を停めたくなる。
自然はそれ自体で美しいが、時としてそこに人工物があるとさらに美しくなる、そんな気にさせる光景である。今回はこの他にも別の場所でそんなことを何回か感じた。


しかし、6年前にはなかったものが、クロマーティー湾には浮かんでいた。おそらく天然ガスを汲み取るやぐらである。かなりの数。これは、同じ人工物でも取り去った方がいいと感じたのは、その構造物自体の形からか、それともその用途からだろうか。



ひたすらA9国道を北上する。以前訪ねたダンロビン城があるが、今回は素通り。道の幅が広くなったり、カーブが緩やかになったところがあったが、以前と何も変わらない景色だった。一つ変わったのは国道の番号だ。
前はブリテン島の北西の端、ジョノグローツへ向かう道がA9であったのが、フェリー乗り場であるスクラブスターの港のある町、サッソーへ向かう道がA9に変わっていた。


途中は天候にも恵まれ、何度か写真を撮った以外は走りつづけ、予定通り11時前にはフェリーターミナルに到着。急いでチケットオフィスに向かう。
ここからオークニーまでの12時の便と、明日のオークニーからシェトランドまでの便の予約を頼むが、シェトランドへは既に車を載せるスペースはないとのこと。キャンセル待ちはあるかもしれない、との希望を持ち、取り敢えず、帰りの便は予約せずに、オークニーまでの往復チケットを買い、船に乗り込むことに。
いきなりのつまずきで、日程を考え直す事に。



出航


しかし、フェリーに車を乗せると、ちょうど昼時。カフェテラスでステーキパイを食べて、パブで一杯飲んだら天気も良くてすっかりいい気分。後の事は上陸してから考えればいいさ、という気分で2時間の船旅を楽しむ。




オークニー諸島
オークニー諸島の南の島、ホイ島が見えてくる。アナウンスでオールドマンと呼ばれている、人が一本立ちしているように岩が残っている場所の案内があり、乗客が右舷に集中する。
なるほど、と感心してしまうほど奇麗に岩が立っている。高さは約130m。大きなビル並だ。この辺りは断崖が続いていて、最も高いところで約380m。自然の偉大さに圧倒される。




上陸

湾に入っていき、オークニーのメインランドの港、ストローノウェイに到着。まずはフェリーターミナルへ。
再びシェトランド行きのフェリーをチャレンジする事に。昔からの経験で、この国では何か不都合があったら、何度も聞く。それでもだめなら他の人に聞く。すると何か解決策に辿り着く事が出来る場合がある。予約窓口で確認すると、「大丈夫よ」との回答。早速予約を入れて、差額を払う。すっかりご機嫌で車のエンジンを再スタート。

しかし、オークニーにいられるのは24時間を切ってしまった。日はまだ高い、入場時間が決められている遺跡を優先的に廻って駆け足だが見物をすることに。


スカラブレイ
まずは、この島第一の観光地ともいえる世界遺産に登録されているスカラブレイへ。イタリアのポンペイの如く、突如砂に覆われた旧石器時代の遺跡は、当時の道具までがそうのままに保存された住居跡である。
それにしても海が奇麗である。砂浜は湾の中にあり、波は穏やかであり、ここに住んでいた意味がわかる気がした。また半地下式の住居は強い風からも避けられる生活の知恵を感じた。

 



遺跡の脇は波の静かな、奇麗な砂浜が広がっていた。
誰かのいたずらか、小さなストーンサークルがあった。















地図を見ながらオークニーのメインランドを時計周りに廻って、行政の中心地、カークウォールを目指す事に。
 

ブラフオブバーセイ
次にブラフオブバーセイを目指す。島の道は広く、移動は思ったよりも時間がかからなかった。さて、ここは小島に残る12世紀の行政府の遺跡で、土台しか残されていないが、その広大な造りに驚くとともに、干潮時しか歩いて渡れない小島になぜ、という疑問を感じた。運良く、干潮で渡れた。
遺跡はメインランドへ向かって下っている斜面上にあり、これなら海からの強風も少しは弱くなるのではと思った。興味深かったのはサウナと思われる跡があり、ここがスコットランドというよりは北欧文化圏であることを実感した。
小島の片側は地殻変動によって奇麗な段々石の模様が見え、日本だったら千枚岩とかそんな名前で名所になるのかな、とも思った。

 
平らな島に遺跡がある。
 
広大な遺跡と北欧のピクト文化の文字が刻まれた石。

 
大規模な地殻変動の跡と干潮時にしか現れない道。


アールズパレス
メインランドへ戻り、アールズパレスの廃虚を見る。ここは先程の遺跡と違い、外壁も大分残っているため、往時の繁栄の跡を想像する事はたやすかった。


近くに公衆トイレがあったが、洗面所でお湯が出てびっくり。排水がどうなっているのかはともかく、こんな地の果ての様な場所の公共トイレまでロンドンと変わらないことに、文化の高さを感じずにはいられなかった。


廃虚の向かいの「パレスショップ」というそのまんまの名前の店でお菓子とりんごを買う。
お腹が空いた訳ではないが島では、どこでもご飯が食べられない事を昨年のルイス島で体験していた為でもある。



海岸線に沿って、車を走らせる。この島は本当に遺跡が多い。取り敢えずは標識の出ているものを目指すことに。
突然、大きな風車が現れる。風力発電だが、一つは工事中なのか羽根がまだなかった。
 
大きな風車の向いにはROUSAY島が横たわる。


ガーネスのブラッハ
さっそくガーネスのブラッハの看板。
ブラッハとは大きな塔型の砦兼住居で、オークニーやシェトランド、ヘビリディーズ諸島に多い。ここのは高い部分はほぼ崩れ落ちているものの、三つの時代の遺跡が一ヶ所に並んでいるという、中々興味深いものだった。係員のおじさんその点を強調していた。
ここも海沿いの場所に有り、漁に出かけるのが都合がよかったのか、などといろいろ想像を膨らませてみる。
 

日はまだ高いが既に5時半。これから先はもう遺跡が閉まる時間である。疲れも感じてきたので、カークウォールへ向かう。


カークウォール
観光シーズンとあって、宿はどこも満杯。老舗ホテルで空室をみつけるが、窓の外は隣のパブで、結構うるさい。これで50ポンドは高いよ、というと、じゃあいくらなら?と聞かれる。40ポンドぐらいかな、というとあっさりOKの返事。これから捜すのも面倒なのでここに決定。電話線も使えるので、パソコンでメールのチェックが出来るのでちょうどいい。

街の見物に。もう既に店は閉まっていたが、観光案内所だけは開いていた。パンフレットを物色して、絵葉書を買う。信号があるような町には、必ず観光案内所がある。本当に旅行客にやさしい国だと思う。


セントマグナス教会
町のシンボル、セントマグナス教会へ。それほど大きくはないが、他に大きな建物がないのと、赤色をしていて目立つ為か、実際よりも大きく荘厳に見える。残念ながら夕方で閉まっていて、中は見られなかった。


ビジョップズパレス
その向いにあるビショップズパレスの廃虚も同様に閉まっていた。明日は9時半からよ、と言われるが、船の時間を考えると、中を見る時間はないが、まあ、廃虚だから外さえ見れればそれでもいい、と納得する。

 
港へ行ってみる。他の島へ渡るフェリーの他に、帆船が停まっている。見物客もいた。他にはヨットの上でパーティーをやっていたり、と土曜の夜をみんな楽しんでいた。

カークウォールホテルの夕食
ホテルのレストランはものすごく混んでいて、結局バーで食べる事に。カウンターの近くでタラを食べるが、おいしい。人の通り道の様な場所だが、店員も客も、気を遣ってくれたり、あまり気にしないようにしてくれたり、と妙に居心地がいい。
 
サーモンやニシンの前菜盛り合わせとタラのフライ。


デジカメで料理を撮っていると、客の一人が俺も撮ってくれ、といって撮ると他の皆に見せてくる、といってカメラをもっていかれてしまう。しばらくして帰ってくると上機嫌でカメラを返してくれた。



夜はパブの音が結構うるさかったが、疲れていたのか、ベッドに入るとあっという間に寝てしまった。

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