chapter9インフォームド・コンセント

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これをインフォームド・コンセントと呼ぶのが正しいがどうかわかりませんが、主治医から2回にわたり説明がありました。
1回目:手術方法の選択肢の説明
2回目:手術のやり方・危険性の説明

ここではその内容を議事録的に示します。

<第一回説明>

日時:1999年5月28日(木)16:00から

場所:11階討議室

出席者:M医師(主治医)、O看護婦、本人、家族(患者の妻)

討議室は入って左手にシャーカステンその横に黒板があり、正面は窓だった。

右手は狭かったことしか記憶にない。中央にテーブルがあり、入ってすぐの席にOさんが座った。

<検査結果>(M先生から)

X線写真から:ヒトデ形の白いモノが癌。他の白い部分と形が異なっている。溜まっているバリウムをつけることによって判る。(白い部分がバリウム)大きさは7mm程度。

内視鏡検査結果:約2センチの大きさ、広がりやすく転移しやすい印鑑細胞癌(注.Signet Ring Cell Cancer)。深さとしては粘膜層で止まっている。

場所的には胃角付近の腹側。

 

<手術方法>(M先生から、できない方法も含めて)

以下の手術方法は縮小手術で行いたい、という希望があったので説明している。

1. EMR(内視鏡的粘膜切除)
2. Region Lifting(局部吊り上げによる腹腔鏡的部分切除)
3. A 腹腔鏡的胃切除(縫合も腹腔内で行う)
B 同上(縫合は腹腔外にて行う)
4. 標準手術(開腹して胃の切除)

<各方法と意見、情報>(M先生より)

1. EMR
次の3つの理由で困難。1)陥凹である。2)印鑑細胞癌である。3)大きい
困難というよりもできないと考えるべきである。

2. Region Lifting
噴門・幽門に近い部位および、小湾・大湾に近接しているとこの手術法は適用できない。場所的、大きさ的には十分可能性がある。ただし、印鑑細胞癌であることを考慮する必要がある。印鑑細胞癌で癌の大きさが2センチ以下の場合、4で説明する標準手術で胃の切除を行ったデータによれば、肉眼で6〜7%の確率でリンパ節転移が確認されている。この転移率は決して低いものではなく、患者自身の判断により手術方法を決めてもらうことになる。この方法ではリンパはほとんど取れないので、転移があった場合、胃の外で癌が成長することになる。胃の外側(腹腔内)での癌は、非常に検査がしにくく、癌が発見されるころには手遅れになる可能性もある。

メリットとして、翌日から食事ができることが多い。2週間ほどは粥で様子を見ることになる。術後1週間で退院可能。

3. 腹腔鏡下手術
標準手術とほぼ同じ量の切除を開腹せずに行う。腹にいくつかの孔をあけ、腹腔鏡などの器具を入れて切除する。次の2つのやり方がある。

A. 縫合も腹の中で行う。
B. 縫合は腹に開けた孔から取り出して行う。

の2つの方法に分けることができる。

4.標準手術(幽門側切除)
胃の下側3分の2を切除する。血管は大湾にそって上側・下側から来ており、下側から3分の2のところにおおよその境界がある。したがってこの部分で切るのが通常である。幽門は通常取ってしまうが残すこともある。幽門を残す場合、幽門部分の血管を残す必要がある。転移を最初に抑えることを考えると、リンパ節および血管を取り除く必要があり、このため幽門を切除することになる。

つなぎ方はビルロートI法(ビーワン=BI法)と呼ばれる方法。このほかに切除部分が大きい場合にはルーワイ法を用いている。開腹量はみぞおちから臍の下まで。はやければ術後4日から食事ができる。

この病院では現在開発中の方法でICGという方法を同意があれば用いている。これは、胃の血管と結びついているI群のリンパに色素を乗せ、その流れにより転移しやすそうなリンパ腺を見つける、と言う方法である。

なお粘膜内胃癌の5年生存率は95%である。

(注:5年生存率は、あくまでも生きているかどうかで判断され、死因は関係なく考える。つまり交通事故で死亡しようが死んでいれば生存率を引き下げる方向に働く。従って95%の残りである5%がすべて胃癌で死んだというわけではありません。)

<質疑など>

・ 手術時間は同じですか
→2・4であれば3〜4時間、3であれば6〜7時間。3AはBよりも縫う手間がかかるので、より時間がかかることになる。
現在、木曜(6月3日)の午後に手術室を予約しているので、3の場合には午前・午後に組替えてもらう必要がある。

・ リンパ節を取ることの必然性はありますか
→日本では郭清に意義があるとされている。

・ 自己血輸血はできませんか
→貧血は戻っているので、輸血はまずないと考えられる。準備期間が短いので自己血輸血は難しく、当院では標準的に行っていない。

・ 2(Region Lifting)の場合の再手術決定手順はどうなっていますか
→検査:切り取った患部における最外周部の細胞検査および厚さ方向の進行度合い検査(粘膜下層まで到達しているか否か)を行う。これによって再手術が必要かどうか判断する。

再手術の内容(リンパだけ取るのかという質問に対して)リンパだけ取ることができないので(血管も取る必要があるので)、必然的に4の手術を行うことになる。

・ ICGはどの位の時間でわかるのですか
→数分レベルでわかる。

・ 患部の検査方法はどうやって行うのですか
→通常は短冊形に切り、癌細胞の有無を検査する。1週間ほどかかって結果が出る。

Region Liftingで再手術になった場合、どのくらい再手術までがかかるのか。
→10日はかかる。Region Liftingをした場合には範囲も小さいので、早く結論が出ると思う。手術は優先的にすることができると思うが、体力回復も考える必要がある。何日後にできるか、ということについては約束できない。

・ 進行速度はわかるか。Region Liftingをした場合で仮に転移があったとして、どのくらいの時間で危険な状態になるか。
→わからない。

<合併症について>

1) 出血 体内から出ているチューブから出血が続く場合には開腹し再手術
2) 肺炎 麻酔による影響。呼吸が浅くなるので、深呼吸や痰を出す、運動するなどの努力で解決できる。
3) 肝機能障害 薬の影響
4) すい臓 (3または4の方法の場合)実際にすい臓に触るので、触り方が悪いと膵液漏が起こる。全摘の場合にその怖れがある。
5) 腸閉塞 (3または4の方法の場合)
6) 縫合不全 微小な孔は時間で解決されるが、大きな孔は処置が必要
7) 狭窄 全摘や胃をわずかに残した場合に起こりやすい。

<自分で出した結論>

4つの方法を提示いただきまして非常に悩みました。前から少し聞いてはいましたが、何回も胃カメラでクリップをして患部の特定をしていたのは、私がしつこく縮小手術にこだわったからだとのことでした。この病院のポリシーとしては「縮小手術」の方向にあるので、ぜひともRegion Liftingや腹腔鏡下手術に挑戦したいと思いました。しかしいろいろ悩んだ末、通常の手術にしてもらいました。その理由は
・Region Liftingの場合に、印鑑細胞癌の転移危険率が低くない。(そんな危険を冒すべきではない。)
・腹腔鏡を用いた手術を、この病院での腸での実績は多いが、胃での実績はほとんどない。
からです。特に最初の理由が決定的でした。7%の転移確率は、目をつぶるわけにはいきませんでした。

<インフォームドコンセント(手術の説明)>

日時:1999年5月31日(月)19:20から

場所:11階 スタッフ用小部屋

出席者:M医師、O看護婦、本人、家族(患者の妻)

<手術の説明>

胃の3分の2切除。胃と腸はB I法(ビルロートI法)で実施(全摘の場合や十二指腸側が動かせないような胆嚢炎などがある場合、ルーワイ法を行う)。左右大もう動脈の切れ目で切る標準手術をベースとする。

開腹後表面に癌が飛んでいるかどうか確認。

クリップが4箇所とめてある。口側のクリップ付近では組織検査としてはガンが見つからなかったが細胞検査としては見つかった。(他の部位の細胞を拾ってきた可能性もあるが。)

脾臓:原則として触らない(全摘の場合、摘出)

膵臓:原則としてリンパ節の郭清に伴いふれる程度(全摘の場合、部分切除の可能性あり。この場合、大手術となる。)

色素注入:内視鏡で行う予定。通常は切除部分に切り口をあけて外から行うが、内視鏡の方が清潔にできる。4番と呼ぶリンパ節に色がつく。迅速検査で癌を検査。検出されなければ、縮小手術。検出されれば標準手術。

拡大手術になる場合:標準切除位置まで癌の根が来ていることが確認された場合、亜全摘(5分の4)または全摘となる。

縮小手術になる場合:幽門を残す・上側を多く残す・D1+αの郭清ですませる。

術後の患部検査で粘膜下層までの癌化が確認された場合:再手術は困難。検査には3〜4週間必要。

腹の縫合は手縫い。

胃の開放部はステープル。胃と十二指腸は手縫い。

縮小手術の場合、胃と胃の縫合となる。

<予後>

4〜5日後ガスが出る。指示に従い給水を開始。あわせて食事(流動食)。

全摘の場合:10日後に造影剤(バリウムではない)を用いて確認後開始。それまではIVHという方法で栄養補給。

幽門が残った場合、袋としての胃の出口機能が残る。

チューブ類:腹から1本。背中に麻酔1本。(導尿)

<スケジュール>

12:30から13:30 病室を出る。手術場で待機。

             ラインを取る(点滴=栄養補給+麻酔)

おそらく20:00までに家族に説明。
回復室に泊まるかどうかは、その前後で決まる。
(回復室にも定員があるので、安全な人は病室へ戻る)

<執刀・チーム>

M先生、H先生(外来で診察をしてくだっさった先生)・T先生

麻酔医、内視鏡医(腹腔鏡下手術を行うこともできるように内視鏡医をすでに手配していただいていました。)

(本ページはここまで)
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