chapter12術後(〜術後4日)

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<手術直後>

途中、「回復室ですよ」「ご家族の方ですよ」「部屋に戻ってきましたが、準備がありますのでご家族の方はしばらくロビーでお待ち下さい。」と看護婦さんが言っていたという断片的な記憶があります。自分の行動としては、家族に向って右手でグッドのサイン(右手を握って親指だけ立てる)を見せたことのみ覚えていますが、あとはひたすら「眠い、寝かせて」という記憶だけで、ほとんどなにも覚えていません。

6月4日(金)未明

気がつくと、妙に身体が熱くのどが渇いた感じがしました。「ああ、手術が終わったのか。傷は痛くないな。」と思う。看護婦さんが体温やら脈拍、血圧を測っていく。看護婦さんへ合図し、うがいをさせてもらう。今までカラカラだったので、口がさっぱりする。だが、思うように自分が用意した吸い呑み代わりの乳児用容器では吸い込めない。ごく少量の水でうがいをし、そして深呼吸。やはり腹が痛くて、十分な腹式呼吸の深呼吸はできません。

しばらく意識がなくなり、また意識が戻ってくると、のどの渇きと痰の感触。もう一度、うがいをさせてもらうが痰が出せないので、うまくうがいもできない。

次は口に唾液をため、ティッシュペーパーをもらい、拭う。

そんなことをしているうちに、深呼吸をすると痰のところにチューブが触る感触があった。鼻から息を吸いこむとてきめんにチューブがのどに触れる。きっとこれは痰ではなくて、チューブが触れているんだ、と納得して妙に安心感を持ちました。

まくらは氷まくらになっており、ときおり交換してくれる。きちんと、チェックしてくれる。このとき正に看護婦さんの献身的な働きのおかげだな、このようなきちんとした対応は家族ではとてもできるものではないな、とつくづく感じました。

夜があけて朝がきます。

<術後1日目>

6月4日(金)

酸素マスクが外され、心電図も外される。心電図はついているのにまったく気がつきませんでした。8時半頃M先生が来て、鼻に挿してあったチューブを外してくれる。先生からの説明は次の通り。

・幽門温存
・手術中にリンパへの転移は見られなかった
・ドレーンパイプなしですませた。 
・腹部はステープルで縫合した。

ドレーンがないおかげで、点滴と麻酔と導尿の3つに縛られているだけだした。鼻のチューブを抜いてもらったおかげですっかり楽になりました。あわせてガーゼ交換。ガーゼ交換は汚れたらするものらしく、「このままガーゼ交換はしません。かえってばい菌が入ることになる可能性があるので。」とのことです。傷口はきれいで、特に出血もなにもない模様でした。

一方リンパへの転移は見られなかったということで、結局は腹腔鏡での手術でも良かったということになりました。少し残念な気もしましたが、自分で考えてくだした決断です。いずれにせよ転移がなくて良かった、と考えるべきでしょう。「切らなければ良かった」とは少しも思っていません。

少し無理かなと思いつつ、少しだけベッドを起こしてみる。30度くらいなら結構起こせるものです。そうこうしているうちに、看護婦さんが身体を拭きに来てくれました。ベッドの上、大の字ではありませんが、ほとんど身動きできずに横たわっているところをなれた手つきで隅から隅まで拭いてくれます。恥ずかしいことに導尿している陰部まで、そしてその管が挿入してある付近まで消毒してくれます。一通り拭き終わると背中を拭いてくれるわけですが、動くと身体が痛いので向きを変えるのが辛い。頑張って向きを変え、拭き終わった後、寝巻きを新しいものと着替えさせてもらう。

両親が術後の様子を見に来たが、元気そうなので驚いている。ベッドの角度も40度くらいまでは起こせるようになる。だがそうこうしているうちに熱っぽくなってきた。座薬を入れてもらい、氷まくらも作ってもらう。今日はあまり無理をしないことにした。また看護婦さんが身体を動かせ、新呼吸しろ、というので、これはできるだけ守るようにした。といってもやはり痛みはあるので、少し横を向く、少し大きく呼吸するといった程度だが。

また、まだまだだとは思われつつも、何回も「ガスは出ましたか?」と聞かれた。まだあまり腸が動いているのは感じられない。だが、深呼吸をすると、少し腸が反応しているような気がする。

<術後2日目>

6月5日(土)

寝ている間にも努めて寝返り(のようなもの)をしていたのですが、ずいぶんとスムーズにできるようになってきました。そこで朝起床時刻が来てすぐ、一度ベッドの上であぐらを組んでみました。傷が痛みましたが短い時間であればあぐらを組むことができます。

朝9時くらいでしょうか看護婦さんから「導尿をとりますよ」と言われる。「トイレはどうするのですか」「歩いて行ってもらうか、シビンを使ってもらうことになります。」シビンで尿をとるのはやめたい、それではということで導尿を取る前に、自分の足で立てるかどうかを確かめさせてもらうことにしました。手術後初めてベッドの縁に座る。この姿勢に来るまでにすでに腹の傷がいたい。サンダルをはかせてもらい、そろそろと立ってみる。少しふらつくが立てる。足踏みをしてみる。寝ていたのは40時間余りに過ぎないのですが、これだけでもやはり立つ・歩くといった機能が衰えているようです。

「大丈夫ですか」「歩けそうですね。」導尿を取ってもらうことにました。自分ではできないので、もう一度ベッドの上に横になり寝巻きをはだけてもらう。看護婦さんがチューブを抜く。導尿のチューブを抜くのは痛いと聞いていたが痛みはありませんでした。ただ尿があふれてくるようで、多分実際にもあふれてきたのだとは思いますが、気持ち悪いこと。

チューブを取ってもらって早速トイレに行ってみました。点滴の台に、それまでベッドに付けてあった麻酔のタンクを移してもらってから、点滴の台をガラガラと押してトイレに向います。トイレで小便器と向き合う。そう言えばT字帯をしているのでパンツをはいていません。傷が痛むせいもあり、ふんばることができずになかなか尿が出ません。1分くらいかかってようやく尿が出ました。

昨日に続き身体を拭いてもらうことになりました。今日はたまたま看護婦のOさんが担当してくれました。今回は自分で立てるので手の回るところは自分で拭くことにしました。やはり暖かい濡れタオルで身体を拭くのは気持ちがいいものです。手の届かないところは代わりに拭いてもらう。足は、ベッドのふちに腰をかけて、大き目の洗面器に足をくるぶしまで入れあらったてもらう。このとき下着もT字帯から普通の下着に着替えました。

兄が見舞いに来ました。1時間程で帰る。もう歩けると知ってかなり安心した模様で、エレベータのところまで送って行きました。

夕方少し熱っぽい気がしました。今日も座薬と氷まくら。寝ている間にずいぶんとおなかが動いてきた気がしました。夜10時過ぎようやくガスが出ました。それまでも肛門のところまではガスが来ていたのだが最後の踏ん張りができずに、また腸へ戻っている感じでした。個室ではないので、トイレに行く間に引っ込むこともなんどもありました。これで晴れて一安心。

<術後3日目>

6月6日(日)

昨日までは起きあがるのにベッドの頭側を起こしていましたが、ベッドの柵を手で押して、電動ベッドを動かすことなく起きあがれるようになりました。少しずつ進歩しているのを実感。

担当のM先生は当直で今日も勤務。9時過ぎに様子を見に病室へ。ガスのことを報告すると、打診・聴診で腸の動きを確認なさる。その結果まだ腸の動きは弱いとのこと。水は明日以降呑めるようになるかもしれません。

ところで次第に声がかすれてきたような気がします。妻に言うがそれほど気にならないようで本人だけが気にしている。腹に力が入らないからでしょうか、それとも飲み物がのどを通っていないからでしょうか。

<術後4日目>

6月7日(月)、水呑み開始

体温は平熱に近いところまで戻りました。

朝9時前にM先生が来て打診・聴診でまた腸の具合を測っている。少し首をかしげながら、「もう少し様子を見ましょう」とのことでした。月曜日で今日は院長回診。その小一時間前にまたM先生が来て、「今日から水を飲んでもいいですよ。」とのこと。「どのくらい飲んでもいいのですか?」「そうですね、がぶ飲みすることはないと思いますが。全部で200ccくらいでしょう。明日血液検査をして、問題がなければ昼から流動食にしましょう。」

非常に嬉しい、反面少し怖い感じがします。妻に頼んで売店でミネラルウォーターを買ってきてもらいました。こわごわと舐めるように飲んでみる。少し胃にしみるような気がしました。

まだ少し背中をかがめるような感じではありますが、点滴の台を持ちながらも廊下をだいぶさっさと歩けるようになりました。

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