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「てめぇ、そんなトコでナニしてるんだ!」
「そ、そっちこそ!」
月明かりはないけれどその代わりに幾千幾万もの星が煌めく夜、2人は同じ浜辺に居た。
朝から夕方まで降り続いていた大雨のおかげでどこか澄んだ潮風が熱帯夜ゆえにタンクトップにシ
ョートパンツといった出立ちのほとんどむき出しの肌の上を滑っていく。
「お、俺は何だか寝つけないから散歩もしようと思ってだなこうやって歩いてたんだよ、そっち
は?」
どこか焦ったような澤村の言葉に希理子は微かに肩をすくめて同じくどこか慌てながら言い返す。
「あ、あたしも眠れないから散歩に来たんさよ」
「そうか」
「そうさ」
この2人がかわすにしては余りに淡白な言葉のやりとりに互いが互いの様子をうかがう。
顔を見合わせれば毒舌の応酬ばかりしてきた関係である2人のとって相手のそのような様子はある
意味拍子ぬけするというか、調子が狂うというか、とにかく何だか落ち着かない。何ごとか、と相手
の顔を覗き込んでしまう。
だがそのような微妙な緊張というか言葉では言い表わしにくい何だか落ち着かない雰囲気の中で、
先に希理子が何かに思い当たったのか悪戯めいた表情を浮かべた。
「ははん、何だかわかってきたよん」
その表情は近くに街灯もないためにハッキリとしない視界の中でも読み取れる程あきらかに相手の
弱点を見つけてそれをつつこうとしている希理子独特のいじわるな、だけど憎めない笑顔だった。
「あんた、さっきのことが怖くて眠れないんだね!」
「なっ、なっ!!」
希理子の言葉に澤村は瞬時に顔を赤らめ、そしてたらたらと焦りの冷や汗を流した。
「ホントに恐がりなんだからマサヒロくんったら!あっ、なんだったら『書生さん』って呼んであげ
ようか?」
しなを作ってくすくす笑いながらのそのあきらかに自分をからかう希理子の態度に澤村は軽く右手
を振り上げた。
「このっ!」
「べーっだ!」
もちろん半分以上本気ではない澤村の攻撃に希理子はくるりと身を翻した。その顔には楽しそうな
笑みが浮かんでいる。
澤村は口ではどんなにひどいことを言っても基本的に身体的に男である自分より弱者になってしま
う女である希理子に本気では手をあげない。そしてそのことを希理子は良く知っている。
だからこのような会話の末のやりとりもじゃれあいの延長のようなもので本気で殴られるとはまっ
たく思っていないのでそうやって澤村をからかうことで楽しみ満面の笑みを浮かべて笑うのだ。
「だけどまあ、なかなか忘れられないような、っていうか忘れたくても忘れられない印象深い誕生日
になっただろ?」
「まあな」
クスクス笑いながらの希理子の言葉に半分以上呆れたように、そしてあきらめたように澤村は肩を
すくめて返事を返した。何だかんだ言っても2つ───いや現在では1つ年上のこの先輩マネージャ
ーに敵わないことを澤村はすでに悟っていた。確かにそのことは悔しいのだがどこかそのことを楽し
んでいて、当然とも思っている自分に澤村は気付いていた。
だけどだからといってヤラレタだけではしゃくなのでキチンとちゃんとやり返すことにする。
「そんなこと言っててもあんたにも忘れらんねぇ一日になったんじゃねえのか?あられもない格好で
気絶してるトコ、しっかりバッチリ拝ませてもらったぜ?」
「なっ、なっ!!」
今度は希理子が拳を振り上げた。
「わっ、あぶねぇな!ホント凶暴な女だぜ、てめぇは!」
そう言いながらも澤村も予想通りにかえってきた反応に笑みを漏らしている。
今日───というか半分昨日、澤村と希理子を含めた上南バスケ3年らとスリーメンズフープにた
むろっているメンバーは帰る予定だった電車が大雨のため運休されてしまった為、もともと澤村らフ
ープ関連の面々が宿泊していた小林の親戚が経営している民宿でもう一泊することにしたのだ。
そしてそこで小林の曾祖母から実話だという怪談話を聞かされたのだ。昔、一緒に駆け落ちしてき
た恋人を裏切った書生を偽っていた詐欺師が最後にはその男を恨んで一人海に身を投げて死んでしま
った娘にその男の誕生日に呪われて殺されてしまったという話を。
そしてそれに便乗して希理子やガンを中心としたメンバーがもともとお化けだのなんだのいう類い
の話がまったく駄目な澤村に偶然澤村が明日、つまり今日誕生日だったこともあって日頃の恨みを晴
らそうと成瀬をのぞいた全員で澤村に悪戯をしかけたのだ。
希理子らの思惑どおりその悪戯計画はまんまと成功し、澤村はその恐怖のあまり気絶してしまった
のだが、そのあとその悪戯をしかけた希理子らにも血の気も凍るような出来事が待っていた。
何処からともなく聞こえてくる波の音、突如暗闇に浮かび上がってきたまさに亡霊そのものの長い
黒髪の化け物のような女の姿にそれを目撃した全員があまりの恐怖に澤村と同じように気絶してしま
ったのだ。
後からその女の姿は小林の曾祖母だったと判明したのだが、全員が気絶してしまってから気付くま
での小一時間のあいだ、希理子は澤村のいう通り、あられもない格好で気絶してしまっていた。澤村
をはめる為に入浴シーンを演出した希理子は上下ビキニにパーカーを羽織っただけの格好だったの
だ。
次々と唯一その恐怖の現場を目撃せず気絶せずにいた桜井に全員叩き起こされたのだが、男ばかり
の中に女一人、少し足を広げてほとんどパーカーをはだけた格好で気絶してしまっていた希理子に周
りの男達は全員遠慮し、そして奇妙な牽制をしあって最後の最後、その間約15分程、希理子自身が
周りの微妙な空気を感じたのか自力で起き出すまでそのままの格好で寝かされていたのだ。
「まだ殴られたりないようだね!今度はホントに頭の中真っ白になるまで叩きのめしてやろう
か!?」
先程、起き出した希理子は自分がどんな格好で寝ていたのかを理解するとカッと頬を赤らめ、そし
てそんな自分の格好を黙って鑑賞していたふらちな男どもを次々とぼこぼこに叩きのめしたのだ。そ
のことを指し示しながら希理子は澤村に対して再び拳を見せつける。
「オオ怖ぇ!」
希理子の凄んだその言葉と視線に澤村はわざとおどけてみせる。だが真っ赤になった顔でそんなこ
といわれても迫力もなにもない。普段の実際の年令よりも大人びた印象が逆に幼く見える程なんだか
その我が儘と横暴がかわいらしく映ってしまう。
だがそんな内心の思いをおくびにも出さず澤村は希理子の振り上げた手首をさっと掴んだ。
「これ以上ボコられてたまるかよ!元はと言えば全部てめぇが悪いんだろ?」
「なにおぅ!」
ガサガサッ─── その瞬間、奇妙な音が鳴った。
澤村の言葉と余裕綽々な態度にさらに顔を赤らめ、今度は逆の手を振り上げようとした希理子とそ
してそのもう片方の手も抑えようとした澤村の耳にとても奇妙な音が響いたのだ。
「──────?」
思わず2人とも相手に対して起こそうとしたそれぞれの行動を中断し、その音源に向けてゆっくり
と恐る恐る顔を向けた。
「ぎゃあ!」
「うわっ!」
2人は思わず一番身近にあった抱きつけるもの───互いの身体にぎゅっとすがりつく。
その視線の先には星明かりに照らされた白い何かがふわりふわりと浮かび上がっていた。
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