そこに惨然と輝く『それ』の存在する理由に関して今川が返答しかけた時、その前に希理子がぽん

と手を叩いて叫んでいた。

「わかった!自分達の非力さにやっと気がついて神頼みに走ることにしたんだね!」

「違いますよ」

 やけにハイテンションな希理子に対してローテンションで答えたのは小林だった。

「さっき買い出しにいった時に拾ったんですけど、どうしていいか分からなかったのでとりあえず持

って来たんです。あとで交番に持っていこうと思って」

 ついでにいうとそれに拝むなら『神頼み』ではなく『仏頼み』───とは言えばすかさず鉄拳制裁

とんでくることを知っている小林はそんなことまでは言わなかったが、横でそう突っ込みをいれてい

たガンは遥か後方に容赦なくどつき倒されていた。

「『拾った』ってこれを?!」

 希理子が驚くのも無理はない。体育館の入り口、その陰になっているところに置かれているそれは

どうみてもというかどう見なくても仏像以外の何ものでもなかった。それがどうして落ちているの

か?

「ええ」

 小林は一つ頷いて説明した。

「何故だか道路の真ん中に転がっていたんです。そのままじゃ車にひかれて潰されるかと思いまし

て」

 たしかに大きさ20センチあまりの木製の小さなそれじゃあすぐに潰れてしまうだろう。

「本当は持ち主も探してるだろうからすぐに交番に届けたかったんですが、それじゃあ昼からの練習

に間に合いませんのでしたので仕方がなく……」

 そう言って小林は言葉を濁した。

「そう」

 その言葉に頷いて、希理子はしげしげとそれを手にとり見つめた。

「見てわかってたのに観音さん車にひかれて潰されたんじゃ縁起悪いしね、いいことしたじゃん、あ

んた」

 珍しく希理子が人を褒めたのだが、それに対しての小林の返答は少しずれたものだった。

「違いますよ」

「えっ」

 その言葉に顔をあげた希理子に対して小林は説明した。

「それは『観音』じゃありません、『如来』です。種類でいうなら『薬師如来』」

「??」

 思わぬ専門用語に目を丸くした希理子に、小林は加えて説明した。

「右手にちいさな丸っぽいものを持ってるでしょう?これは薬つぼなんです。それと手の印のかたち

も薬師の特徴がありますし」

「『手の印』?」

 次々に出てくるそれらの言葉に希理子は目を丸くするばかりだ。

「とにかく観音じゃないんです。これは薬師如来っていって、病気を直してくれる仏様なんです」

 とりあえずそれ以上説明してもついて来れないだろうことがわかっている小林はそれで話を打ち切

ろうとしたがなおも疑問符が離れない希理子は小林の願いも空しく問いを重ねた。

「で、どっちが偉いの?」

「はっ?!」

 希理子の口から出た意味不明の問いかけに小林は目を丸くした。

「だから『観音』さまとその『薬師如来』ってどっちが偉いの?」

「そりゃ薬師如来の方です」

「そう」

 小林のその言葉に希理子は満足げに頷いた。

「なら余計に御利益あるね」

 そういって希理子は嬉しそうに笑った。そしてその仏像を小林に手渡す。

「じゃあとっとと交番に届けておいで」

「えっ!」

 希理子の口から出たその言葉に小林は目を見開く。

「でも……」

 今は練習中なのだ。希理子のせいで少し練習が中断してしまったが、そんなわけにはいかない。

「でももしゃくしもない!」

 そんな小林にむかって希理子は怒鳴り付けた。

「気になってるんだろう?こんな『落とし物』だもの、一刻も早く交番に届けたいんだろう?そんな

そぞろな気持ちで練習したって意味があるわけないだろう?」

「でも……」

「うるさいっ!」

 希理子はぴしゃりと怒鳴り付けると小林に出口を指さした。

「これは『命令』、とっとと届けておいで。じゃないと練習には参加させないからね!皆もいい

ね!」

 辺りの面々すべてに聞こえるように張り上げられたその言葉に部員達はいっせいに納得の顔で頷い

た。信心深い一面がある馬呉もその奇妙な落とし物を早く届けた方が良いと珍しく希理子の言葉に同

意の意を示している。

「わかりました、ありがとうございます」

 小林は大きく頭を下げるとそれを手にとり走り出した。いくら後から届けるつもりだったとはいえ

心に引っ掛かっていたのだ。それを解消する機会を与えられ、小林の顔は晴れ晴れしている。

「やれやれ」

 走り去っていく小林の背中を見て希理子は大きくため息をついた。あきれたような、だけど朴訥な

小林を好ましく思うようなそんなため息である。

「これで神様───おおっと、仏様の御利益つくかね?」

 そう呟いた顔には笑みが浮かんでいる。


 
 その御利益があったかどうかは果たして謎ではあるが、このエピソードで小林と希理子が歩み寄っ

たのは確かなことである。

 

                             Fin.
 

    

     

 『それ』の『仏像』編は小林でした。なんとなく小林と仏像が書きたかっただけで完成した話です。
 そういえば昔、大学時代の友人が道ばたに地蔵様が落ちているのを拾ったことがあるそうです。とりあえず道のはしに除けて置いたらしいのですが、それから数時間後には消えていたとか。世の中何が落ちているかまったくわかりませんね。 

                        2002/06/1  日向 葵。

 

  

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