「かききる」べきか「かききらざる」べきか、それが問題だ
その2

(ロン・ジョンソン)


 ビオンディもポポフと同様に非常に長い「前のかき」と短い「後ろのかき」をしています。他のトップスイマーも柔軟でスムーズな「前のかき」から加速させ、上向き、外向きの「後ろのかき」をしています。

 フィニッシュのときに腕を伸ばしきって後ろに押し過ぎることはよくありません。手のかきは自然に動かすべきで、手のひらの描く軌跡はスムーズでギクシャクしたところのないものであるべきです。

 マイケル・クリムや全盛期のジャネット・エバンズのように手を伸ばしきったリカバリーをする選手もいます。しかし水中の映像を見ればひじと手のひらが水から出て、初めてひじを伸ばしきっていることがわかります。水中ではひじは伸びきっていないのです。エバンズも全盛期には、太ももの付け根くらいでフィニッシュを終え、その後にひじを高く、まっすぐ伸ばしていました。

 彼女はその後、より長く後ろにかくことによりストロークを「伸ばし」ましたがそれと引き換えに1ストロークの時間が長くなり、それまで彼女のもっていたすばらしいテンポと自然な動きのストロークを失ってしまいました。泳ぎの速さは「1ストロークの長さ」と「テンポ(かかる時間)」で決まりますが、1ストロークの長さのみを重要視してはいけません。たとえ1ストロークの長さを伸ばしてもテンポが落ちてしまっては、よい結果はついてきません。そしてストロークの長さを犠牲にしながらテンポを上げるのは最悪です。テンポをなるべく落とさずに1ストロークの長さを伸ばすか、ストロークの長さを保ちつつ、テンポを上げるかどちらかなのです。

 10年位前に私のチームにニュージーランドの選手がいました。200mを1分54秒、400mを3分58秒ぐらいの選手でした。2年くらい私のチームでトレーニングしている間に私は彼のストロークを伸ばそうとしましたが彼は私より賢く、私の申し出を断りました。そして最後の年は彼の思うとおりにやってもらいました。その結果、彼の「後のかき」は短くなったように見えましたが1ストロークの長さは伸び、テンポもわずかではありますが上がりました。そうして200mを1.51.6、400mを3.54.0で泳ぐようになりました。23才の選手としては画期的な進歩です。その結果、彼はニュージーランドの代表としてオリンピックに出場することができました。

 私自身の競泳生活も変わりました。自分の泳ぎにも「この考え」を当てはめ、その結果、驚くべき結果を得ることができました。私は20ヶ月の間、マスターズの世界記録を持っていませんでしたが1年半の間に全種目で、長水路、短水路を問わず、それもいろいろな距離でマスターズの世界記録を樹立し、66歳の今、14年前よりも速く泳げるようになりました。これは泳ぎをよりよく理解した結果と信じています。
 皆さんも試してみてください。よい結果を得られるかもしれませんよ。
 (ロンジョンソン)

たけし解説・「なぜかき切らないほうが速いか」

 フィニッシュは「水」を「後ろ」に「押す」動作です。腕を伸ばしきる動作は一見すると押し続けているように見えますが実はうまく「押せない」のです。伸ばし切ることによりひじの角度は大きくなります。しかしその角度が90度前後のときに、ひじは最も力を発揮できるので、それ以上伸ばしても力強いフィニッシュはできないのです。トップスイマーはお腹の下くらいの、ひじが曲がり、力の入りやすい形で腕から手を「固定」し、「体の回転」により固定した腕全体を回します。

 腕の「小さな筋肉」に頼らず、体全体の「大きな筋肉」を使い、その力を一番効率よく発揮できる「レバー(固定された腕)」を介して水に伝えているのです。



※文中の私とはロン・ジョンソン氏のことです。

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